元禄2年に始まる造り酒屋と「秀よし」の銘

鈴木酒造店は、秋田県大仙市長野字二日町にある元禄2年(1689年)創業の造り酒屋で、明治中期から昭和40年(1965年)にかけて建てられた事務所兼主屋・上座敷と5棟の蔵が、令和2年(2020年)4月3日に国の登録有形文化財となった。銘柄「秀よし」の蔵元として知られ、現在も合名会社鈴木酒造店がこの屋敷で酒を造っている。

蔵元の年表では、創業者は鈴木松右衛門とされる。伊勢国から移り住んだ一族が長野村で地主となり、米と水に恵まれた土地柄を生かして酒造りに手を広げた、というのが家に伝わる話である。元禄8年(1695年)には酒造の記録をまとめ始め、仕込みの手順や火入れの技法をどの年に会得したかまで書き継いだ。「元禄時代以来酒造伝記録」と呼ばれるこの古文書は、いまも鈴木酒造店に残る。

当初の銘柄は「初嵐」だった。秋田藩主の佐竹氏が藩内の酒を久保田城下に集めて飲み比べた折、それまでの御用酒「清正」にまさると評され、「秀でて良し」の意味と、加藤清正の主君であった豊臣秀吉の名を重ねて「ひでよし」と名乗るよう命じられたと伝わる。蔵元の年表と大仙市の紹介はこれを宝暦年間(1751年〜1764年)の出来事とし、嘉永元年(1848年)に藩の御用酒に指定されたとする。蔵元の見学案内には酒競べを嘉永年間のこととする記述もあり、時期は資料によって揺れている。

7棟の顔ぶれと登録の理由

鈴木酒造店で登録されたのは、事務所兼主屋、上座敷、文庫蔵、前蔵、中蔵及び袖蔵、北蔵、仕込蔵の7棟である。登録番号は05-0223から05-0229まで連続し、同じ日に一括で登録された。建築年代は明治中期(1883年〜1897年)とされる事務所兼主屋から、昭和40年の仕込蔵まで、およそ80年の幅がある。

登録の基準は3つに分かれる。上座敷と前蔵には「造形の規範となっているもの」、文庫蔵には「再現することが容易でないもの」、事務所兼主屋・中蔵及び袖蔵・北蔵・仕込蔵には「国土の歴史的景観に寄与しているもの」が適用された。銘木で整えた接客の座敷、黒漆喰と鏝細工で飾った土蔵造の蔵、柱に貫を通す在来の軸組に洋小屋を載せた戦後の蔵。性格の違う建物が、一つの屋敷の中で壁を接して連なっている。

年代の幅は、造り酒屋が作業の変化に合わせて建物を足し、手を入れ続けてきた跡でもある。中蔵の西に張り出す袖蔵の北側には、製法の変化や機械の導入に応じて枯らし場・試験室・検査場が増築された。蔵元の年表によれば、昭和40年に仕込蔵を「昭和蔵」として完成させ、昭和61年(1986年)には資料館の準備として文庫蔵を改築、平成2年(1990年)には麹室・槽場・釜場を改造している。7棟はどれも、現役の酒蔵の一部として使われながら残ってきた。

屋敷の配置 ― 街道から南へ連なる棟

鈴木酒造店の屋敷は、大曲から角館へ向かう旧角館街道に面している。街道に北面して妻入で建つのが事務所兼主屋で、正面の妻に梁を四段重ねた意匠が屋敷の顔になる。

建物は主屋から南へ一続きにつながる。主屋の南に前蔵、その南に中蔵が接し、敷地の南端中央に仕込蔵が建つ。この4棟が屋敷の背骨をなし、残る3棟がその脇に付く。上座敷は主屋の北東隅に、文庫蔵は主屋の南東に接続する。北蔵は名前とは違って敷地の東辺中央にあり、西面の出入口で中蔵と通じている。かつては北蔵と中蔵の間に、もろみを搾る槽場が置かれていた。

街道から正面に見えるのは主として事務所兼主屋で、蔵の多くはその背後に連なる。屋敷の奥行きと棟どうしのつながりは、外からよりも見学で蔵の中を歩いたほうがつかみやすい。

酒蔵見学とアクセス

鈴木酒造店は稼働中の酒蔵で、敷地内に自由に立ち入ることはできない。建物の内部を見るには、蔵元が行う有料の酒蔵見学(酒蔵観光)を予約する。見学は定休日を除いて通年行われ、鈴木酒造店の歴史や酒造りの話を聞きながら蔵を歩き、鈴木家の所蔵品を納めた文庫蔵を見学する構成になっている。

案内の開始時刻は季節で変わる。仕込みの期間にあたる10月15日から3月31日までは午後1時と午後2時、4月1日から10月14日までは午前11時と午後2時で、各回の定員は20名。見学料は日本語の案内で大人500円、小学生から19歳までが300円、未就学児は無料。英語の案内は通訳を手配するため予約時の相談が必要で、大人1,000円となる。予約は前日の午後5時までに、蔵元のウェブサイトの予約フォームか電話(0187-56-2121)・FAXで受け付けている。繁忙日には予約を断ることがあるとされる。

2026年は10月7日から11日まで、工事のため見学が休止される(直売所は通常どおり営業)。休業日は蔵元のウェブサイトのカレンダーで確かめられる。

電車ではJR田沢湖線の羽後長野駅から徒歩約10分。秋田新幹線こまちが停まる角館駅からは車で約10分、秋田空港からは車で約1時間かかる。羽後交通の路線バスを使う場合は「中仙局前」停留所から徒歩1分ほどで、道の駅中仙(こめこめプラザ)からは車で1分の距離にある。

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁) 鈴木酒造店事務所兼主屋
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00013208
国指定文化財等データベース(文化庁) 鈴木酒造店上座敷
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00013209
国指定文化財等データベース(文化庁) 鈴木酒造店文庫蔵
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00013210
国指定文化財等データベース(文化庁) 鈴木酒造店前蔵
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00013211
国指定文化財等データベース(文化庁) 鈴木酒造店中蔵及び袖蔵
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00013212
国指定文化財等データベース(文化庁) 鈴木酒造店北蔵
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00013213
国指定文化財等データベース(文化庁) 鈴木酒造店仕込蔵
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00013214
大仙市 国指定・登録文化財(大仙市内指定文化財データベース)
https://www.city.daisen.lg.jp/archive/contents-1884
大仙市 大曲地域の文化財(国登録有形文化財 鈴木酒造店)
https://www.city.daisen.lg.jp/genre/omagari-region/p-cultural-property
秀よし 鈴木酒造店 秀よしの歴史
https://www.hideyoshi.co.jp/history/
秀よし 鈴木酒造店 酒蔵観光
https://www.hideyoshi.co.jp/tour/
秀よし 鈴木酒造店 酒蔵見学休止のご案内(2026年9月3日)
https://www.hideyoshi.co.jp/news/20260903/
秋田県酒造協同組合 合名会社鈴木酒造店
https://osake.or.jp/brewers22/

最終更新日: 2026.09.26

基本情報

名称鈴木酒造店
所在地秋田県大仙市長野字二日町9
所有者合名会社鈴木酒造店
指定登録有形文化財 7件
座標39.54128, 140.53325