伊勢の土を持ち帰って始まった社

吉沢神明社は、秋田県由利本荘市吉沢の高台に鎮座する神社で、正保元年(1644年)の創建と伝わり、社殿と鳥居の7件が平成16年(2004年)と平成17年(2005年)に国の登録有形文化財に登録された。祭神は天照大神。文化庁のデータベースでは7件とも「神明社本殿」「神明社拝幣殿」のように「神明社」の名で載っており、地元の報道や由利高原鉄道の駅案内では、地名を冠して吉沢神明社と呼ばれている。

創建の話は、伊勢から持ち帰られた土から始まる。正保元年2月14日、佐藤左衛門之亟が村を代表して伊勢神宮へ参った。神宮の尊厳に深く心を打たれた左衛門之亟は、御神木と社殿の土を戴いて帰り、村人がそろって上林の地に御堂を建て、天照大御神を勧請したと伝えられている。秋田県神社庁の由緒と、由利本荘市が作成した資料がこの話を載せている。

享保3年(1718年)、氏子が増えて社殿が手狭になった。三浦三四郎が所有する弥市山の一部の寄進を受けて新しい社殿を建て、このとき三浦助右衛門家の三尊仏もあわせて祀られた。神と仏が同じ社に祀られる形は、明治のはじめまで続く。

天保12年(1841年)、社殿は焼失した。再建の相談は文久元年(1861年)に始まり、代官と奉行への陳情を経て文久3年(1863年)に許しが出る。こうして建てられたのが、いまの拝幣殿のうち拝殿の部分である。明治6年(1873年)5月には三尊の仏体を廃して神明社と改めた。その後、明治16年(1883年)に宮殿、明治中期に境内社の合殿、明治41年(1908年)に神輿殿が造られ、大正4年(1915年)に本殿の新築と幣殿の増築が行われて、境内は現在の構成になった。

2回に分けて登録された7件

登録は2回に分かれている。平成16年(2004年)6月9日に本殿・宮殿・拝幣殿の3件が、平成17年(2005年)7月12日に境内社合殿・神輿殿・稲荷鳥居・両部鳥居の4件が登録された。登録番号は前者が05-0108から05-0110、後者が05-0119から05-0122と、それぞれ連番になっている。

登録基準は建物ごとに違う。本殿は「造形の規範となっているもの」、宮殿と拝幣殿は「再現することが容易でないもの」、残る4件は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」である。本殿は神明造の形式を忠実に守る点で、宮殿と拝幣殿は職人の手わざの密度で評価された。合殿・神輿殿・2基の鳥居は、石段を登って社殿へ至る境内の景観を形づくる要素として登録されている。

由利本荘市は、神明社を由利地域を代表する社殿であり、近代の社殿建築を考えるうえで価値の高い遺構と位置づけている。評価の中心にあるのは拝幣殿の装飾で、彫物は彫師の小川松四郎、内部の壁画・大絵馬・天井画は鈴木梅山・牧野雪僊・谷川丹山ら本荘藩のお抱え絵師の手になる。小川松四郎の名は明治16年の宮殿の棟札にも彫師として記されており、同じ彫師の仕事が拝殿の正面と本殿の奥の両方に残っている。

7件の年代は、文化7年(1810年)の稲荷鳥居を最も古いものとして、江戸・明治・大正にまたがる。1か所の境内で、幕末の装飾的な拝殿、明治の簡素な付属建物、大正の神明造の本殿を順に見られることが、この社の見どころになっている。

境内の歩き方

社殿は子吉川の左岸に近い高台にあり、集落の側から石段の参道を登っていく。参道の入口から石段を少し上がると石造の稲荷鳥居が立ち、そこからさらに石段を登った先に木造の両部鳥居がある。石段の途中で、形式も材料も違う2基の鳥居を順にくぐる構成である。由利本荘市の資料に載る配置図では、社務所は参道の途中の脇に置かれている。

石段を登りきると、正面に拝幣殿が建つ。拝殿・幣殿・本殿は一直線につながり、本殿は幣殿の奥で石積の基壇に載っている。宮殿はその本殿の内部に安置されているので、外からは見えない。神輿殿は本殿の左手前にあって参道へ正面を向けている。境内社の合殿には金刀比羅神社と秋葉神社が合わせて祀られ、境内にはほかに宮比神社もある。

参道は木立に囲まれた長い石段である。雨の後や雪の季節は足元が滑りやすくなるので、歩きやすい靴で登りたい。

参拝の条件とアクセス

境内は参拝者に開かれており、拝観料の定めは公式の資料に示されていない。拝幣殿を含めて社殿の内部は通常公開されていない。令和2年(2020年)12月には観光客を対象に特別拝観が行われ、地元のガイドが天井画を解説したと秋田魁新報が報じている。内部公開は常設ではないので、見学を望む場合は神社(電話0184-53-3834)に問い合わせるのが確実である。

撮影について定めた公式の案内は確認できなかった。社殿の内部や祭典の最中に撮影したい場合は、あらかじめ神社に確かめておきたい。例祭は毎年4月15日に行われる。

電車の場合は、JR羽越本線の羽後本荘駅で由利高原鉄道鳥海山ろく線に乗り換え、吉沢駅で降りる。吉沢駅は田園の中の無人駅で、駅から神明社までは歩いて10分ほど。駅には駐車場・トイレ・売店がないため、準備は羽後本荘駅で済ませておくとよい。列車の本数は時刻表で事前に確かめておきたい。

車の場合は、所在地の由利本荘市吉沢字上林42を目指す。専用駐車場の有無は公式の資料では確認できなかった。なお、秋田県神社庁と由利高原鉄道は鎮座地を「上林41」と記しており、文化庁の登録(上林42)と地番が一つ異なる。

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁) / 神明社本殿
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00004106
国指定文化財等データベース(文化庁) / 神明社宮殿
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00004107
国指定文化財等データベース(文化庁) / 神明社拝幣殿
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00004108
国指定文化財等データベース(文化庁) / 神明社境内社合殿
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00004690
国指定文化財等データベース(文化庁) / 神明社神輿殿
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00004691
国指定文化財等データベース(文化庁) / 神明社稲荷鳥居
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00004692
国指定文化財等データベース(文化庁) / 神明社両部鳥居
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00004693
由利本荘市公式ウェブサイト / 神明社(国登録有形文化財)
https://www.city.yurihonjo.lg.jp/1001503/1002098/1002113/1002126/1003556.html
由利本荘市 / 資料「時代を生きる工匠の技 神明社」(PDF)
https://www.city.yurihonjo.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/003/556/1003556_001.pdf
秋田県神社庁 / 秋田の神社検索 神明社(由利本荘市吉沢)
https://akita-jinjacho.sakura.ne.jp/shrine_search/%e7%a5%9e%e6%98%8e%e7%a4%be-44/
由利高原鉄道 / 吉沢駅 Yoshizawa Station
https://www.obako5.com/%e9%89%84%e9%81%93%e3%81%ae%e9%ad%85%e5%8a%9b/%e5%90%84%e9%a7%85%e3%81%ae%e6%a1%88%e5%86%85/%e5%90%89%e6%b2%a2%e9%a7%85%e3%80%80yoshizawa/
秋田魁新報 / 鮮やか天井画、観光客ら特別拝観 由利本荘・吉沢神明社(2020年12月17日)
https://www.sakigake.jp/news/article/20201217AK0020/

最終更新日: 2026.09.24

基本情報

名称吉沢神明社
所在地秋田県由利本荘市吉沢字上林42
所有者宗教法人神明社
指定登録有形文化財 7件
座標39.26489, 140.11485