幕末に再建された拝殿と大正の幣殿

神明社拝幣殿は、秋田県由利本荘市吉沢の吉沢神明社にある拝殿と幣殿を一体にした社殿で、拝殿が慶応3年(1867年)に完成し、大正4年(1915年)に幣殿が増築されたもので、平成16年(2004年)6月9日に国の登録有形文化財に登録された。吉沢神明社で参拝者が石段を登りきって最初に向き合う建物である。

天保12年(1841年)に社殿が焼失したのち、再建が図られた。由利本荘市の資料は、文久3年(1863年)7月に着工し、慶応3年に完成したと記す。一方、秋田県神社庁の由緒は、文久3年に再建の許可が下り、慶応3年の着工から4年の歳月をかけて完成したとしている。着工と完成の年は資料によって幅があるが、いずれにしても幕末の数年をかけた工事だった。文化庁のデータベースは年代を「慶応3/大正4増築」としている。

構成は、桁行3間・梁間3間の拝殿と、桁行3間・梁間2間の幣殿である。二つの棟をT字形に組み、屋根は銅板葺、建築面積は158平方メートル。拝殿の奥に幣殿が延び、その先に大正4年の本殿が続く。

正面を飾る彫物と一対の力士像

正面は千鳥破風と、軒唐破風を付けた向拝で構える。屋根の三角形と弓なりの曲線が上下に重なり、その間を彫物が埋めている。

足を止めて見上げたいのは力士像である。向拝の柱と拝殿の側柱のあいだに架けた繋虹梁の上に、力士の像が左右一対で据えられている。梁を支えるような姿で、社殿の荷重を力士が担っているかのように見せる趣向である。

彫物の題材は、龍、獅子、鳳凰、竹に虎、波乗り兎、菊と幅が広い。手がけたのは彫師の小川松四郎である。この名は明治16年(1883年)に造られた宮殿の棟札にも彫師として記されており、小川松四郎が幕末から明治にかけてこの社の造営に関わり続けた職人だったことが分かる。

本荘藩のお抱え絵師による内部の絵

内部には、本荘藩のお抱え絵師の絵が残っている。格天井の天井画は谷川丹山、壁画は鈴木梅山、大絵馬は牧野雪僊の筆とされ、由利本荘市は彼らを本荘由利を代表する狩野派の画人としている。天井画には中国の古典に題材をとったものが多いという。

本荘藩は六郷氏が治めた藩である。その藩の抱え絵師の筆が、城下から離れた村の社の拝殿に集まっている。神明社拝幣殿の登録基準は「再現することが容易でないもの」であり、彫物と絵画をこれだけの密度で重ねた社殿を、同じ手わざで作り直すことは難しい。由利本荘市は、この装飾性の高さを神明社の特徴として挙げている。

神明社拝幣殿の見学

神明社拝幣殿の外観、とくに向拝まわりの彫物と力士像は、石段を登りきった正面から見ることができる。力士像は向拝の左右に分かれているので、正面から少しずつ立ち位置を変えると、一対を順に見上げられる。向拝の軒下は影になりやすく、彫りの深さを確かめるなら日の高い時間帯が向いている。

内部の天井画・壁画・大絵馬は通常公開されていない。令和2年(2020年)12月には観光客を対象に特別拝観が行われ、地元のガイドが天井画を解説したと秋田魁新報が報じている。内部を見られる機会は限られるため、見学を希望する場合は事前に神社へ問い合わせたい。

撮影について定めた公式の案内は確認できなかった。拝殿の内部や祭典の最中に撮影したい場合は、神社に確かめておくのが確実である。境内への行き方と参拝の条件は、吉沢神明社のページにまとめてある。

Q&A

Q神明社拝幣殿はいつ建てられ、いつ登録有形文化財になりましたか?
A拝殿は慶応3年(1867年)に完成し、幣殿は大正4年(1915年)に増築されました。平成16年(2004年)6月9日に国の登録有形文化財(登録番号05-0110)に登録されています。着工年は文久3年(1863年)とする資料と慶応3年とする資料があります。
Q神明社拝幣殿の彫刻は誰が手がけましたか?
A彫師の小川松四郎です。龍、獅子、鳳凰、竹に虎、波乗り兎、菊などの彫物があり、正面の繋虹梁の上には力士像が一対置かれています。
Q神明社拝幣殿の天井画は誰が描きましたか?
A天井画は谷川丹山、壁画は鈴木梅山、大絵馬は牧野雪僊とされ、いずれも本荘藩のお抱え絵師で狩野派の画人です。
Q神明社拝幣殿の内部は見学できますか?
A通常は公開されていません。令和2年(2020年)12月に観光客向けの特別拝観が行われた例があります。見学を希望する場合は神社に問い合わせてください。
Q神明社拝幣殿はどのような構造ですか?
A桁行3間・梁間3間の拝殿と桁行3間・梁間2間の幣殿をT字形に組んだ社殿で、銅板葺、建築面積158平方メートルです。正面は千鳥破風と軒唐破風付きの向拝で構えています。

基本情報

名称神明社拝幣殿(しんめいしゃはいへいでん)
所在地秋田県由利本荘市吉沢字上林42
指定区分登録有形文化財(建造物)、登録番号05-0110、登録基準「再現することが容易でないもの」
指定年平成16年(2004年)6月9日登録
員数1棟
寸法木造平屋建、銅板葺、建築面積158平方メートル。拝殿は桁行3間・梁間3間、幣殿は桁行3間・梁間2間
所有者宗教法人神明社
公開状況内部は通常非公開(特別拝観の実施例あり)。外観は境内から見学可

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁) / 神明社拝幣殿
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00004108
由利本荘市公式ウェブサイト / 神明社(国登録有形文化財)
https://www.city.yurihonjo.lg.jp/1001503/1002098/1002113/1002126/1003556.html
由利本荘市 / 資料「時代を生きる工匠の技 神明社」(PDF)
https://www.city.yurihonjo.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/003/556/1003556_001.pdf
秋田県神社庁 / 秋田の神社検索 神明社(由利本荘市吉沢)
https://akita-jinjacho.sakura.ne.jp/shrine_search/%e7%a5%9e%e6%98%8e%e7%a4%be-44/
秋田魁新報 / 鮮やか天井画、観光客ら特別拝観 由利本荘・吉沢神明社(2020年12月17日)
https://www.sakigake.jp/news/article/20201217AK0020/

最終更新日: 2026.09.24