旧西廣家住宅(治郎吉)倉庫(南倉) ―― なぜ、倉は二棟必要だったのか

建築面積59平方メートル。隣に建つ北倉は95平方メートルだから、およそ6割ほどの大きさになる。同じ敷地の一段高い場所に、同じ向きで、同じ構成の建物が二棟並んでいる。片方は大きく、片方は小さい。

この差に意味を読み取ろうとするところから、南倉を見る面白さが始まる。

文化庁の国指定文化財等データベースは、南倉の構成を北倉と同一と記しつつ、規模がやや小さいことを明記している。中心にあるのは切妻造平入の2階建部分。その正面と両側面、三方に下屋が深く延びる。木造平屋一部2階建、瓦葺。年代は慶応年間(1865年~1867年)とされる。ただし千葉県教育委員会の解説は「慶応年間建築の伝承を持ち」という表現をとっており、この年代が伝承にもとづくものであることがうかがえる。

ひとつ違うこと

二棟の違いは、規模のほかにもうひとつある。窓の位置だ。

北倉は2階の南妻面に窓を開く。南倉は2階妻面に開口部を設けず、代わりに1階の南面に窓を設ける。文化庁の解説文はこの差を明確に記録している。

ささやかな違いに見えるかもしれない。しかし倉庫にとって開口部は、収める物の性質を決める要素である。窓は光を入れ、風を通し、同時に湿気と紫外線も呼び込む。2階に窓がないということは、南倉の2階が北倉の2階より暗く、閉じていたことを意味する。何を置くかによって、必要な条件は変わる。

もっとも、この違いが具体的に何のためだったのかを説明する一次資料は見当たらない。二棟の使い分けについて、確かなことは言えない。

言えるのは、同じ設計思想のなかで、二棟が別々の判断を経て建てられているということだけである。それは判で押したように同じものを二つ作ったのではない、ということでもある。

登録有形文化財としての位置づけ

南倉は平成30年(2018年)3月27日に登録有形文化財(建造物)となった。登録番号は12-246。北倉が12-245、主屋が12-243、缶詰工場が12-244、煉瓦塀が12-247で、番号は連続している。4棟1基が同時に登録され、旧西廣家住宅というひとつのまとまりとして評価された。

南倉の登録基準は「造形の規範となっているもの」。北倉、主屋と同じ基準である。缶詰工場と煉瓦塀は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」という別の基準で登録されており、同じ敷地内でも評価の軸が分かれている。

ここで制度について触れておきたい。登録有形文化財は平成8年(1996年)に創設された。国宝や重要文化財の「指定」が現状変更に文化庁長官の許可を要するのに対し、登録は届出制を基本とし、外観の4分の1を超えない範囲であれば届出なしに手を加えられる。所有者が建物を使い続けながら守ることを前提とした、負担の軽い仕組みである。

この違いは軽重の問題ではない。指定制度が守りきれない範囲の建造物、とくに近代以降のものや、日常的に使われ続けている建物を、幅広く残していくために設けられた別の道である。南倉のような働く倉庫には、この制度のほうが合っている。

見どころ

南倉だけを見に行く人はまずいない。だからこそ、北倉と並べて見ることを勧めたい。

二棟を正面から眺めると、輪郭が相似形であることがわかる。下屋の勾配も、竪板張の壁も、桟瓦葺の屋根も同じ。違うのは寸法と、窓がどこに開いているかだけ。同じ大工の手による、同じ時期の仕事だろうと想像がつく。

南面に回って、1階の窓を確認してほしい。地面に近い位置に開いたこの窓が、南倉が北倉と分かれる唯一の点である。

倉が二棟あるという事実そのものにも、目を向けたい。網は一種類ではない。魚種によって、季節によって、使う網は変わる。船が複数あれば、そのぶん網も要る。二棟の倉が慶応年間から敷地の高みに建っていたということは、西廣家がそれだけの規模で漁を営んでいたということだ。主屋が建つのは、その12年ほど後である。

倉庫には案内板がない。主屋から離れた一段高い場所に、二棟が黙って建っている。公開日に文化財ガイドの案内を受けるのが確実である。毎月第2・第4日曜日の午前10時から午後3時まで。中止となる場合があるため、銚子市の文化財・ジオパーク室(電話 0479-21-6662)で事前に確認したい。

Q&A

Q北倉と南倉は、どちらが古いのですか。
A文化庁のデータベースは両方とも慶応年間(1865年~1867年)と記載しており、先後関係は示されていません。構成が同一であることから、近い時期の建築と考えられます。ただし千葉県教育委員会はこの年代を伝承にもとづくものとしています。
Qなぜ南倉のほうが小さいのですか。
A理由を説明する一次資料は確認できていません。建築面積は南倉59平方メートル、北倉95平方メートルです。収める物や用途の違いによる可能性が考えられますが、確たることは言えません。
Q窓の位置が違うのはなぜですか。
A南倉は2階妻面に開口部を設けず、1階南面に窓を設けています。北倉は逆に2階南妻面に窓があります。文化庁の解説文はこの差を記録していますが、理由は明らかにされていません。収蔵物の性質に応じた採光や通風の判断であった可能性があります。
Q中に入れますか。
A毎月第2・第4日曜日の公開日には、文化財ガイドの案内で敷地内の建物を見学できます。倉庫の内部公開の範囲は当日の運用により異なる場合があるため、銚子市の文化財・ジオパーク室(0479-21-6662)に確認することをおすすめします。
Q「登録」と「指定」はどう違うのですか。
A登録有形文化財は平成8年(1996年)に始まった届出制の制度で、所有者が建物を使いながら保存することを前提としています。国宝や重要文化財の指定は許可制で、現状変更に厳しい手続きを要します。価値の上下ではなく、守り方の設計が違います。

基本情報

名称旧西廣家住宅(治郎吉)倉庫(南倉)(きゅうにしびろけじゅうたく(じろきち)そうこ(みなみぐら))
所在地千葉県銚子市川口町一丁目6271
指定区分登録有形文化財(建造物) 登録番号 12-246
登録年月日平成30年(2018年)3月27日
員数1棟
年代慶応年間(1865年~1867年) ※千葉県教育委員会は伝承にもとづく年代とする
構造及び形式木造平屋一部2階建、瓦葺、建築面積59平方メートル
登録基準造形の規範となっているもの
種別産業1次/建築物
所有者株式会社ランス
公開状況毎月第2・第4日曜日 10:00~15:00(文化財ガイドによる案内あり/中止の場合あり)
問い合わせ銚子市教育委員会 社会教育課 文化財・ジオパーク室 電話 0479-21-6662
アクセス銚子電鉄 本銚子駅から徒歩約15分

参考文献

国指定文化財等データベース 旧西廣家住宅(治郎吉)倉庫(南倉)(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00012101
文化遺産オンライン 旧西廣家住宅(治郎吉)倉庫(南倉)
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/436640
千葉県教育委員会 旧西廣家住宅(治郎吉)主屋ほか
https://www.pref.chiba.lg.jp/kyouiku/bunkazai/bunkazai/q111-101.html
銚子市 旧西廣家住宅(治郎吉)主屋・缶詰工場・倉庫(北倉)・倉庫(南倉)・煉瓦塀
https://www.city.choshi.chiba.jp/edu/sg-guide/page210179.html
銚子市観光協会 旧西廣家住宅公開(毎月第2・第4日曜日)
https://www.choshikanko.com/info/0266/

最終更新日: 2026.07.15