旧西廣家住宅(治郎吉)煉瓦塀 ―― 大谷石、銚子石、そして煉瓦を積み上げた34メートル

塀が文化財になることは、そう多くない。旧西廣家住宅の登録は4棟1基。この「1基」が、主屋の南側の庭を画す煉瓦塀である。建物ではなく工作物として、単独で登録有形文化財に数えられている。

足元から見ていくのがいい。

文化庁の解説文によれば、基部には大谷石が据えられ、その上に銚子石が三段積まれる。さらに上部は煉瓦をイギリス積とし、頂部は持送り状に幅を広くとって、小屋根のように積む。地面から天端まで、材料が三度切り替わる構成である。

大谷石は栃木県宇都宮の産で、加工しやすく、近代の日本で土台や蔵に広く使われた。銚子石は地元の石。つまりこの塀は、下から順に、他所から運んだ石、足元の石、そして工業製品である煉瓦を重ねている。それぞれの材料が手に入る範囲と、それを使った時代が、垂直に積み重なっている。

イギリス積という選択

煉瓦の積み方には流儀がある。イギリス積は、長手だけを並べた段と、小口だけを並べた段を交互に重ねる方式で、目地が通らず、強度が高い。フランス積のように同じ段のなかで長手と小口を交互させる積み方に比べると、見た目は端正だが単調になりやすい。

明治政府が官庁や工場の建設でイギリス積を採用したこともあり、日本の近代煉瓦建築ではこの積み方が主流になった。西廣家の塀がイギリス積であることは、それ自体が驚きではない。むしろ標準的な選択である。

面白いのは頂部だ。持送り状に幅を広くとる、と文化庁は書いている。煉瓦を少しずつせり出させて、天端で笠木のように張り出させる構法である。雨は垂直な壁面を伝って流れ落ち、煉瓦の目地を傷める。せり出した頂部は、その水を壁から離して落とす。小屋根のように積む、という表現は、この形をよく捉えている。

塀ひとつに、これだけの手が入っている。

年代と長さ、二つの留保

この煉瓦塀については、記録の間に食い違いがある。書いておきたい。

ひとつは年代。文化庁の国指定文化財等データベースは時代を「昭和前」、年代を「昭和初期」、西暦を1926年から1930年と記載している。いっぽう銚子市の文化財ページは、建築年代は不明であり、聞き伝えによれば大正末期から昭和初期に設置されたようだ、と記す。文化庁の記載を優先しつつ、確定した建築年ではないことを踏まえておく必要がある。

もうひとつは長さ。文化庁データベースの「構造及び形式等」欄は「煉瓦造及び石造、延長34m」とする。ところが同じデータベースの解説文は「折曲がり延長三四・五メートル」と書いている。0.5メートルの差だが、同一の一次資料のなかで数値が揃っていない。「折曲がり延長」とは、屈曲する塀の全長を折れ線に沿って測った値のことで、直線距離ではない。おそらく概数と実測値の書き分けだが、断定はできない。

登録は平成30年(2018年)3月27日、登録番号12-247。登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」で、缶詰工場と同じ基準である。主屋や二棟の倉庫が「造形の規範となっているもの」で登録されたのとは異なる。この塀は、それ自体の造形よりも、港町銚子の風景を成り立たせている点で評価された。種別は「産業1次/その他工作物」。員数は1基。

見どころ

この塀は、公開日でなくても見られる。敷地の外から、道沿いに立って眺めればよい。旧西廣家住宅の五件の登録物件のうち、最も気軽に会える一件である。

近づいて、基部の石を確かめてほしい。大谷石と銚子石では、色も質感も違う。大谷石は淡い緑がかった灰色で、細かい斑が入る。地元の銚子石はまた別の顔をしている。境目がどこかを探すのは、それだけで数分の楽しみになる。

次に目地を見る。イギリス積は、段ごとに長手と小口が入れ替わる。長い面が並ぶ段と、四角い断面が並ぶ段。交互になっていることを目で追えば、積み方の規則がわかる。

そして頂部。持送りのせり出しが、光の角度によっては壁面に影の帯を落とす。午後の遅い時間、西日が当たるころが見やすい。

塀の内側は主屋の南庭である。つまりこの塀は、外を歩く者に向けて建てられている面と、庭から見上げられる面の、二つの顔を持っている。公開日に敷地へ入れば、内側からも見ることができる。毎月第2・第4日曜日の午前10時から午後3時まで。中止の場合があるため、銚子市の文化財・ジオパーク室(電話 0479-21-6662)に確認を。

Q&A

Q塀だけで文化財になるのですか。
Aはい。登録有形文化財(建造物)には建築物のほか工作物も含まれ、この煉瓦塀は「その他工作物」として1基で登録されています。旧西廣家住宅の登録は「4棟1基」で、その1基がこの塀にあたります。橋や門、煙突なども同様に登録の対象となります。
Qいつ造られたのですか。
A文化庁のデータベースは昭和初期(1926年~1930年)としています。ただし銚子市の解説は建築年代を不明とし、聞き伝えでは大正末期から昭和初期の設置と記しています。確定した建築年は判明していないと理解するのが妥当です。
Qイギリス積とは何ですか。
A煉瓦の長手だけを並べた段と、小口だけを並べた段を交互に積む方式です。目地が縦に通らないため強度が高く、明治以降の日本の煉瓦建築で広く採用されました。同じ段のなかで長手と小口を交互させるフランス積とは区別されます。
Q銚子石とはどのような石ですか。
A銚子で産出する石材で、この塀では基部に三段積まれています。基部にはこのほか栃木県産の大谷石も用いられており、地元の石と他所から運んだ石が組み合わされている点が、この塀の材料構成の特徴です。
Q公開日以外でも見られますか。
A外観であれば道沿いから見学できます。塀は主屋南側の庭を画して敷地の外周に立っているため、敷地に入らずとも観察が可能です。内側から見る場合は、毎月第2・第4日曜日の公開日にお越しください。

基本情報

名称旧西廣家住宅(治郎吉)煉瓦塀(きゅうにしびろけじゅうたく(じろきち)れんがべい)
所在地千葉県銚子市川口町一丁目6271
指定区分登録有形文化財(建造物) 登録番号 12-247
登録年月日平成30年(2018年)3月27日
員数1基
年代昭和初期(1926年~1930年) ※銚子市は建築年代不明とし、伝聞では大正末期から昭和初期とする
構造及び形式煉瓦造及び石造、延長34メートル(解説文では折曲がり延長34.5メートル)
登録基準国土の歴史的景観に寄与しているもの
種別産業1次/その他工作物
所有者株式会社ランス
公開状況外観は常時見学可。敷地内は毎月第2・第4日曜日 10:00~15:00(中止の場合あり)
問い合わせ銚子市教育委員会 社会教育課 文化財・ジオパーク室 電話 0479-21-6662
アクセス銚子電鉄 本銚子駅から徒歩約15分

参考文献

国指定文化財等データベース 旧西廣家住宅(治郎吉)煉瓦塀(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00012102
文化遺産オンライン 旧西廣家住宅(治郎吉)煉瓦塀
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/389181
千葉県教育委員会 旧西廣家住宅(治郎吉)主屋ほか
https://www.pref.chiba.lg.jp/kyouiku/bunkazai/bunkazai/q111-101.html
銚子市 旧西廣家住宅(治郎吉)主屋・缶詰工場・倉庫(北倉)・倉庫(南倉)・煉瓦塀
https://www.city.choshi.chiba.jp/edu/sg-guide/page210179.html
銚子市観光協会 旧西廣家住宅公開(毎月第2・第4日曜日)
https://www.choshikanko.com/info/0266/

最終更新日: 2026.07.15