西条栄光幼稚園園舎:愛媛・西条に佇む木造モダニズムの登録有形文化財

愛媛県西条市の中心部、苔むした堀のほとりに建つ西条栄光幼稚園園舎は、戦後日本の木造モダニズム建築を今に伝える、ささやかながら稀有な存在です。設計は、後年に倉敷国際ホテルや倉敷アイビースクエアを手がけたことで知られる建築家・浦辺鎮太郎(1909〜1991)。1953年に建てられたこの平屋の園舎は、隣接する西条栄光教会礼拝堂・牧師館とともに、2021年2月に国の登録有形文化財として登録されました。子どもたちの笑い声に包まれて七十年余り。控えめなモダニズムの線は、堀端の柳や四季折々の草花とすっかり馴染み、いまや西条の風景の一部となっています。

建物の概要

西条栄光幼稚園園舎は、江戸時代に西条藩の藩庁が置かれた西条陣屋跡の一角に位置しています。設計者は浦辺鎮太郎、竣工は1953年。木造平屋建て、延べ床面積はおよそ351平方メートルです。1951年に完成した西条栄光教会礼拝堂とは渡り廊下でつながれ、同じ建築言語のもとで一体的に構成されており、堀沿いの景観に静かに溶け込んでいます。所有者は学校法人西条栄光協会で、現在は幼保連携型認定こども園として運営されています。

園舎の歩み

この園舎の誕生は、戦後の西条の産業史と深く結びついています。第二次世界大戦後、倉敷レイヨン(現・株式会社クラレ)が西条で事業を拡大し、多くの工員を迎え入れる中で、寮の宿泊室では聖書研究会が自発的に開かれていました。キリスト教を学びたいという熱意は次第に高まり、1949年8月に西条栄光教会が正式に設立されます。

アメリカの教団本部から1000ドルの献金が寄せられたことを契機に、倉敷レイヨンの援助、信者の献金、地域からの寄付などが集まり、1951年に礼拝堂が建設されました。続く1953年、教会の幼児教育への使命感のもと、幼稚園園舎が完成します。設計を託されたのは、当時倉敷レイヨンの営繕部に勤務し、社長で実業家の大原總一郎の理想を建築面で支えていた浦辺鎮太郎でした。

登録有形文化財に登録された理由

2021年2月26日付の官報告示により、園舎は礼拝堂・牧師館とともに国の登録有形文化財となりました。評価された主な理由は三つあります。第一に、木造軸組工法の伝統と、ヨーロッパで広がりつつあった近代建築の合理性とを巧みに融合させた、戦後木造モダニズムのよく保存された実例であること。第二に、礼拝堂・牧師館とともに一つの建築群を成し、戦後の小さなキリスト教共同体が抱いた信仰と教育の理想を建築として体現していること。第三に、後に倉敷の街づくりを牽引した浦辺鎮太郎の、ほぼ独立した設計者としての出発点に位置づけられる作品であることです。実際、浦辺の主要作品リストにおいて、本作は最初期の代表作として一番に挙げられることが多いものです。

建築の見どころ

規模は決して大きくありませんが、近づいて眺めるほど発見のある建物です。木造軸組工法で建てられた園舎は、堀沿いに穏やかに伸びるシルエットを持ち、幼い子どもたちを迎え入れるのにふさわしい、低く親しみやすいプロポーションでまとめられています。広々とした保育室を確保するために、屋根の一部にはハウトラスと呼ばれる木造の構造形式が組み込まれており、柱の少ない明るい室内空間を生み出しています。

外観は、礼拝堂と同じ抑制のきいたモダニズムの語彙で統一されています。シンプルなプロポーション、深い軒、堀の水面や周囲の緑との控えめな調和。礼拝堂とは渡り廊下によって物理的にも視覚的にも結ばれており、二つの建物がひとつの構成として読み取れるよう丁寧にデザインされています。礼拝堂の床に残る木レンガなど、創建時の意匠も多く受け継がれており、2018年から2020年にかけての文化財的保存改修によって、耐震性能が確保されながらも歴史的な趣が大切に守られました。

建築家・浦辺鎮太郎

浦辺鎮太郎は1909年、現在の岡山県倉敷市に生まれました。京都帝国大学工学部建築学科に学ぶなかで、オランダの小都市ヒルヴェルスムをまちぐるみで設計したウィレム・デュドックの仕事に深く感銘を受け、「自分も倉敷の建築家になりたい」という志を抱きます。1934年に倉敷絹織(現・クラレ)に入社後は、社長の大原總一郎とともに、倉敷の歴史的な町並みに調和する近代建築を求め続け、後年には大原美術館分館、倉敷国際ホテル、倉敷アイビースクエアなどの代表作を世に送り出しました。四十代前半に手がけた西条栄光の建築群は、その「地域に根ざした近代主義」の出発点として位置づけられています。

訪問の際のご案内

西条栄光幼稚園は現役の保育施設ですので、園舎の中に自由に立ち入ることはできません。外観は、堀沿いの遊歩道や周囲の道路から自由にご覧いただけます。礼拝堂と園舎が並ぶ姿は四季を通じて絵になり、写真に収める旅人の姿もしばしば見かけます。園児がいる時間帯は、お声を控えめに、子どもたちの個人が分かる写真は撮影しないようにご配慮をお願いいたします。建物について詳しく知りたい方は、事前に幼稚園あるいは教会へ公式サイト経由でご連絡されることをお勧めします。

園舎はJR予讃線・伊予西条駅から徒歩圏にあり、西条高等学校、堂々たる大手門、西条郷土博物館などと同じ、緑豊かな堀の一角に位置しています。市内に湧き出す名水「うちぬき」がきらめく晴れた日に、堀沿いをゆっくり歩きながら鑑賞するのが最も楽しみ方として相応しいでしょう。

周辺のおすすめ

旧西条藩陣屋跡一帯は、こぢんまりとしながらも見どころに富んだ歴史文化の小さな一画です。立派な大手門は、現在は愛媛県立西条高等学校の正門として往時の場所に残り、西条市民に長く愛されてきた象徴的な建築です。すぐそばに建つ西条郷土博物館も浦辺鎮太郎の設計で、西条藩の歴史資料や、地元出身の田中大祐氏が収集した鉱物・生活道具などが展示されています。

  • 西条藩陣屋跡 大手門 — 江戸時代から現在地に残る藩庁の正門。現在は西条高等学校の正門として使われている。
  • 西条郷土博物館 — 浦辺鎮太郎が設計した、西条藩の歴史と地域の自然を伝える総合博物館。
  • うちぬき — 西条市内に湧き出す自噴の名水。市内のあちこちで地元の人々の生活と結びついた光景を目にすることができる。
  • 石鎚神社 — 西日本最高峰・石鎚山を御神体とする神社。古くから信仰を集めてきた。
  • 伊予西条駅・四国鉄道文化館 — 西条と日本の鉄道史との深いつながりを伝える施設。

Q&A

Q西条栄光幼稚園園舎の中を見学することはできますか?
A園舎は現役の保育施設のため、内部の自由な見学はできません。外観は堀沿いの遊歩道や公道から自由にお楽しみいただけます。詳しく見学を希望される方は、事前に幼稚園または教会へお問い合わせください。
Qいつ建てられ、いつ文化財に登録されたのですか?
A園舎は1953年に建てられ、隣接する礼拝堂・牧師館とともに2021年2月26日に国の登録有形文化財として正式に登録されました。
Q設計者はどんな建築家ですか?
A設計者は浦辺鎮太郎です。後に倉敷国際ホテルや倉敷アイビースクエアなどを手がけ、倉敷の近代建築を語るうえで欠かせない建築家として知られています。西条栄光の建築群は、その独立した設計者としての出発点に位置づけられる作品です。
Qアクセス方法を教えてください。
AJR予讃線・伊予西条駅から徒歩でおよそ15〜20分です。堀に囲まれた旧陣屋跡の一画にあり、徒歩やレンタサイクルで巡るのに適した場所にあります。
Q訪れるのに最適な季節はいつですか?
Aいずれの季節にもそれぞれの趣があります。春は堀沿いの桜、夏は名水「うちぬき」に映る木々の緑、秋は活気あふれる西条まつりの時期、冬は人通りの少ない静かな佇まいの中で、建物の端正な線をじっくりと味わうことができます。

基本情報

名称 西条栄光幼稚園園舎
設計 浦辺鎮太郎(倉敷レイヨン営繕部)
施工 株式会社藤木工務店
竣工 1953年(1964年・1979年に増築、2018〜2020年に保存改修)
構造 木造、地上1階建
延べ面積 約351.11平方メートル
所在地 愛媛県西条市明屋敷字旧陣屋内236-17他
所有 学校法人西条栄光協会
文化財種別 国登録有形文化財(2021年2月26日登録)
アクセス JR予讃線・伊予西条駅から徒歩約15〜20分

参考文献

西条栄光幼稚園「国の登録有形文化財として正式に登録されました。」
https://saijoeiko.com/国の登録有形文化財として正式に登録されました/
えひめ近代建築「西条栄光教会 礼拝堂・牧師館・西条栄光幼稚園」
https://www.i-manabi.jp/system/landmarks/landmarks/show/44
西条栄光幼稚園 公式サイト
https://saijoeiko.com/
学芸出版社「『建築家 浦辺鎮太郎の仕事 倉敷から世界へ、工芸からまちづくりへ』」
https://note.com/gakugei_pub/n/ne0460d129260
西条陣屋 — Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/西条陣屋
浦辺鎮太郎 — Wikipedia
https://ja.wikipedia.org/wiki/浦辺鎮太郎

最終更新日: 2026.05.05