どの部屋にも天井がない

旧五十嵐家住宅(きゅういがらしけじゅうたく)は、福島県河沼郡会津坂下町大字塔寺字大門にある江戸時代中期の農家住宅で、享保14年(1729年)の建立、昭和46年(1971年)3月11日に国の重要文化財に指定された。

大戸口から入って、まず上を見てほしい。頭上をさえぎるものが何もない。天井板も屋根裏の床もなく、煤けた小屋組と茅がそのまま見える。それが座敷まで含めて、家じゅうすべての部屋で同じである。

失われたわけでも手を抜いたわけでもない。建てられたときからこうだった。十八世紀の会津平坦部では、それなりの構えの農家は少なくとも座敷まわりに天井を張るようになっていた。この家は最後まで張らなかった。そして昭和30年(1955年)まで住居として使われながら改造が比較的少なかったため、初期の形式が保存修理の時代まで残った。

建立年の根拠は、梁束に残された墨書である。「享保14年」。所有していたのは会津坂下町中開津の五十嵐家で、同家から町へ寄贈された。文化庁の記録は寄贈者を五十嵐智信氏としている。

中堅層農家の広間型三間取り

五十嵐家は本百姓、すなわち自分名義の田畑を持ち年貢を直接納める階層で、村役人層と小作の中間にあたる。そのなかでも中堅層に位置づけられ、この家は会津平坦部でその階層が建てた住宅の典型例とされる。

正面から見て左寄りに大戸口が開く。屋内は左手三分の一強が土間と馬屋。右手に「なかのま」と呼ぶ居間、客を通す座敷、寝室の三室が並ぶ。三間取りのうち一室が広い多目的空間として機能するこの型を広間型(ヒロマ型)といい、この地域この階層の標準形である。

平面は張り出しのない長方形、直屋(すごや)である。同じ福島県内でも山間部の民家には玄関と馬屋をL字に突き出した中門造が多く、平坦部との違いがここに出る。

間取りのなかで、特に見ておきたい点が二つある。

一つは足元にある。「なかのま」は土地の言葉で「おめぇ」と呼ばれ、板を張っていない。突き固めた土の上に直接わらやムシロを敷いた土座である。家族はここに座り、食べ、寝た。根太を組んで床板を張るのは新しく費用のかかるやり方であり、享保年間の建物に土座の居間が残っている例は、通常であれば最初の近代化で真っ先に消える種類の証拠にあたる。

もう一つは柱の根元だ。土台がない。柱は丸石の上に直接立ち、石の不整形な天端に合わせて木口を刻んである。石場建てと呼ばれる古い方式で、のちに標準となる土台建てより単純だが、地震時には架構が石の上をわずかに滑って力を逃がす。

寸法については資料間で数値が揃わない。会津坂下町は桁行8間半、梁間3間半、床面積117.19平方メートルとする。国指定文化財等データベースは桁行16.3メートル、梁間8.0メートル、文化遺産オンラインは梁間7.9メートルと記す。間数と実測値は計測の基準点が異なるとみられ、単純な換算では一致しない。両方を並べて参照するのが実際的である。

解体、耐震補強、そして復原

昭和30年まで住居として使われ、その間の改造が比較的少なかったことは、この建物にとって幸運だった。ただし、建てられた場所に建っているわけではない。

会津坂下町は「歴史とふれあいの里」整備の拠点のひとつとして、平成6年度(1994年度)から解体修理に着手し、平成9年度(1997年度)に移築復原を終えた。一般公開は平成8年(1996年)から始まっている。

この工事について記しておきたい判断がある。作業のさなかの平成7年(1995年)1月、阪神・淡路大震災が起きた。町はその教訓を現場に反映させ、土壁を塗り直す過程で壁の中に耐震用ボードを組み込んだ。訪れた人にこれは見えない。壁面はふつうの土壁に見え、架構も本来の姿のまま読める。補強材は壁厚の内側に隠れ、享保14年の大工が想定しなかった災害に対して建物を支えている。

使い続ける建造物の保存が何を含む作業なのかを、この一点がよく示している。対象を凍結するのではなく、現在の社会が受け入れられる条件で立たせ続けるということだ。

現在は生涯学習に利用できる文化財施設として運用され、屋内には昔の農具や民芸品などの民俗資料が並ぶ。空間がどう使われていたかを補助線として理解できる。

見学案内と、同じ丘の上にあるもの

内部見学ができ、入館料は無料である。開館時間は午前9時から午後4時まで、開館期間は4月から11月。休館日は毎週月曜日(月曜が祝祭日の場合は翌日)、および祝祭日の翌日(その日が土曜・日曜にあたる場合を除く)。12月1日から3月31日までは冬季閉館となる。問い合わせは会津坂下町教育委員会文化振興係(0242-83-3010、中央公民館代表)。

撮影について明文の制限は公表されていない。個人利用の範囲であれば問題になることは少ないが、係員がいる場合は確認したい。

鉄道ではJR只見線塔寺駅が最寄りで、徒歩15分から20分ほど。車なら磐越自動車道会津坂下インターチェンジから約5分、新鶴スマートインターチェンジから約15分。敷地は高台にあり、会津盆地を見渡せる。

この家だけを目当てに来る人はほとんどいないし、その必要もない。約60メートル先に恵隆寺、通称「立木観音」が建つ。真言宗豊山派の寺院で、本尊の十一面千手観音は根のついた立木に彫られたと伝わる一木造の大像であり、一木造としては国内最大級とされる。会津ころり三観音の一つに数えられる。心清水八幡神社も約240メートルの距離にある。三か所は徒歩で続けて回れる。

並べて見ることに意味がある。巨大な仏像を擁する寺、村の八幡社、そして天井を張らずに暮らした百姓の家。同じ丘の上に、それらを成り立たせていた社会の三つの層が残っている。

名称についての注意を最後に。福島県内には「旧五十嵐家住宅」という名の国指定重要文化財が二件あり、しばしば取り違えられる。もう一件は南会津郡只見町大字叶津にあり、享保3年(1718年)建立、昭和47年(1972年)指定で、車で1時間30分ほど離れている。家系にも建築年にも建物の型にもつながりはない。案内や検索結果を見る際は、町名まで確認してから行き先を決めたい。

Q&A

Q会津坂下町の旧五十嵐家住宅は内部を見学できますか。開館時間と料金は。
A内部見学ができ、入館料は無料です。開館時間は午前9時から午後4時、開館期間は4月から11月です。休館は毎週月曜日(祝祭日の場合は翌日)、祝祭日の翌日(土曜・日曜を除く)、および12月1日から3月31日までの冬季閉館。問い合わせは会津坂下町教育委員会文化振興係、0242-83-3010です。
Q会津坂下町の旧五十嵐家住宅へのアクセス方法は。
A鉄道ではJR只見線塔寺駅が最寄りで、徒歩15分から20分ほどです。車の場合、磐越自動車道会津坂下インターチェンジから約5分、新鶴スマートインターチェンジからは約15分。駐車場があり、恵隆寺(立木観音)の駐車場に隣接した高台に建っています。
Q会津坂下町の旧五十嵐家住宅は建築的に何が貴重なのですか。
A近代化で失われやすい初期の形式が残っている点です。どの部屋にも天井がなく、居間「おめぇ」は土に直接わらやムシロを敷いた土座、柱は土台を用いず丸石の上に直接立つ石場建てです。梁束の墨書から享保14年(1729年)の建立と判明しており、昭和30年まで大きな改造なく住まわれていました。
Q会津坂下町の旧五十嵐家住宅は元の場所に建っていますか。
Aいいえ。もとは会津坂下町中開津にあり、五十嵐家から町へ寄贈されました。平成6年度から解体修理が始まり、平成9年度に現在地の塔寺で移築復原が完了しています。一般公開は平成8年から。工事中に発生した阪神・淡路大震災を受け、土壁の中に耐震用ボードを入れる補強が施されました。
Q会津坂下町の旧五十嵐家住宅の周辺に他に見どころはありますか。
A約60メートル先に恵隆寺(立木観音)があり、一木造としては国内最大級とされる千手観音像を安置します。会津ころり三観音の一つです。心清水八幡神社も約240メートルの距離にあります。三か所は同じ高台にまとまっており、続けて歩いて回れます。

基本情報

名称旧五十嵐家住宅(福島県河沼郡会津坂下町)
所在地福島県河沼郡会津坂下町大字塔寺字大門1466番地
指定区分重要文化財(建造物) 指定番号 01786
指定年昭和46年(1971年)3月11日
員数1棟
寸法桁行16.3メートル、梁間8.0メートル(文化遺産オンラインは梁間7.9メートル)、寄棟造、茅葺。会津坂下町は桁行8間半、梁間3間半、床面積117.19平方メートルと記載
所有者会津坂下町
公開状況公開(内部見学可・入館無料)。午前9時から午後4時、4月から11月。月曜・祝祭日の翌日休館、12月1日から3月31日は冬季閉館。問い合わせは会津坂下町教育委員会文化振興係 0242-83-3010

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)旧五十嵐家住宅(福島県河沼郡会津坂下町)
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/102/220
文化遺産オンライン(文化庁)旧五十嵐家住宅(福島県河沼郡会津坂下町)
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/192880
会津坂下町 旧五十嵐家住宅(文化財ページ)
https://www.town.aizubange.fukushima.jp/soshiki/30/279.html
会津坂下町 観光スポット・文化編
https://www.town.aizubange.fukushima.jp/soshiki/29/268.html
ふくしまの旅(福島県観光物産交流協会)旧五十嵐家住宅(会津坂下町)
https://www.tif.ne.jp/jp/entry/article.html?spot=826

最終更新日: 2026.08.25