山裾に南面して建つ農家主屋

石田家住宅主屋は、福島県双葉郡大熊町大字大川原字西平にある江戸時代末期の農家建築で、令和元年(2019年)12月5日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。登録番号は07-0227、第94回登録である。同じ敷地内の土蔵・籾蔵・門とあわせて4件が同日に登録された。

この日付には注釈がいる。大川原地区の避難指示が解除されたのは平成31年(2019年)4月10日で、東京電力福島第一原子力発電所の事故により全町避難が続いていた大熊町のうち、最初に居住が認められた区域であった。同年5月には大川原に町役場の新庁舎が開庁している。登録告示はその8か月後にあたる。

主屋は敷地の奥中央に位置し、南を向いて建つ。文化庁のデータベースは構造を木造平屋建、瓦葺、建築面積230平方メートルと記載し、年代を江戸末期(1830〜1868年)とする。屋根は入母屋造で、現在は桟瓦葺だが、当初は茅葺であった。昭和33年(1958年)頃の改修で瓦葺に改められ、荷重条件が変わるため小屋組もこのとき刷新されている。さらに昭和45年(1970年)頃に増築の手が入った。

登録の根拠と浜通りの農家

登録有形文化財は、重要文化財の指定と比べて規制の緩やかな制度である。築後おおむね50年を経た建造物を対象とし、所有者が住み続けたり用途を変えたりすることを妨げない。石田家住宅主屋に適用されたのは「国土の歴史的景観に寄与しているもの」という登録基準であった。

評価の焦点は家格にある。阿武隈高地と太平洋に挟まれた浜通りの農村社会には明確な階層差があり、この規模と仕上げの住宅は上層に属する。19世紀の農家主屋として建築面積230平方メートルは大きい。屋根形式に入母屋造を選んでいる点も、村方の一般的な住宅の水準を超える。

福島県浜通りで、間取りの読み取れる近世農家がまとまって残る例は多くない。大川原地区は8年余りにわたって避難指示区域に置かれ、その間、暖房も通風もないまま冬を越した建物が健全な状態で残る保証はなかった。

六間取と西端の座敷

内部は南北二列に三室ずつ、計六室を並べる。いわゆる六間取である。農家においてこの構成は、日常の生活空間と客を迎える空間を分けられるだけの余裕があったことを示す。

性格を決定づけるのは、後列の西端に置かれた座敷である。床・棚・付書院を備える。掛軸と花を据える床、その脇の違い棚、明かり障子を伴う書院造の造作という三点が揃うのは書院座敷の正式な形であり、農家がこれを設けるのは、それを見分ける客を迎える家であったことの現れといえる。

古い部分で天井を見上げると、小屋組が下の軸部より新しい。昭和30年代の葺き替えの結果である。庭から軒の線を眺めると、なお茅葺建物の均衡を残している。架構そのものは組み替えられず、覆いだけが替わったからだ。

建物は個人の所有で、定期的な公開は行われていない。拝観時間や料金の設定はなく、通常は敷地に面する道路から外観を見るにとどまる。大川原には人が戻って生活と仕事を営んでおり、私有地であることに配慮したい。町が催しに合わせて内部を開けた例はある。令和5年(2023年)1月には、おおくまふるさと塾を中心とする約20人が町学芸員から建物の概要説明を受けたうえで主屋の清掃と庭木の手入れにあたり、その後、八幡神社や百万遍の塔など周辺の史跡を歩いて巡っている。内部を見たい場合は大熊町役場(0240-23-7568)に予定を問い合わせるのが確実である。

交通は自動車が前提となる。常磐自動車道の大熊インターチェンジから車でおよそ10分、令和2年(2020年)3月に運転を再開したJR常磐線大野駅からも同程度の距離にある。町内の公共交通は限られる。

Q&A

Q石田家住宅主屋は見学できますか。内部に入れますか。
A常時の公開は行われていません。個人所有の住宅で、拝観時間や拝観料の設定はなく、内部の公開は大熊町が主催する催しの機会に限られてきました。外観は敷地に面する道路から見ることができます。最新の状況は大熊町役場(0240-23-7568)にお問い合わせください。
Q石田家住宅主屋はどこにあり、どう行けばよいですか。
A所在地は福島県双葉郡大熊町大字大川原字西平160です。町の西寄り内陸部にあたる大川原地区に位置し、常磐自動車道大熊インターチェンジから車でおよそ10分、JR常磐線大野駅からも車でおよそ10分の距離です。移動には自動車かタクシーが必要になります。
Q石田家住宅主屋は京都の石田家住宅と同じものですか。
A別の建物です。同姓の住宅が各地にあります。京都府南丹市美山町の石田家住宅は慶安3年(1650年)の年代が確認される重要文化財で、日本最古の農家として知られます。ほかに京都府長岡京市と福井市にも登録有形文化財の石田家住宅があります。大熊町の石田家住宅は令和元年に登録された別個の物件です。
Q石田家住宅主屋は一般の農家とどこが違うのですか。
A規模と接客空間です。建築面積230平方メートルは19世紀の農家として大きく、西端の座敷には床・棚・付書院という書院座敷の正式な造作が揃います。これらは浜通り地域の上層農家に見られる要素です。
Q石田家住宅では何棟が登録有形文化財になっていますか。
A4棟です。いずれも令和元年12月5日付で、主屋(07-0227)、土蔵(07-0228)、籾蔵(07-0229)、門(07-0230)が登録されました。江戸末期から昭和前期にわたる建築が揃い、屋敷構え全体の姿を保っています。

基本情報

名称石田家住宅主屋(いしだけじゅうたくしゅおく)
所在地福島県双葉郡大熊町大字大川原字西平160
指定区分登録有形文化財(建造物) 登録番号 07-0227
指定年令和元年(2019年)12月5日登録 第94回
員数1棟
寸法木造平屋建、瓦葺、建築面積230平方メートル
所有者文化庁データベースに所有者名の記載なし
公開状況個人所有につき常時公開なし。外観のみ道路から見学可。内部は町主催の催し時に限り公開実績あり。

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース「石田家住宅主屋」
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00013034
文化遺産オンライン「石田家住宅主屋」
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/432662
大熊町「古民家に親しむ催し 活用への第一歩」
https://www.town.okuma.fukushima.jp/soshiki/somu/23405.html
大熊町「町の状況」
https://www.town.okuma.fukushima.jp/site/fukkou/1905.html

最終更新日: 2026.08.04