屋敷の前方に構える土蔵

石田家住宅土蔵は、福島県双葉郡大熊町大字大川原字西平にある明治時代前期の土蔵で、令和元年(2019年)12月5日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。登録番号は07-0228である。

建つ位置は主屋の西寄り前方、棟の向きは東西。敷地に入る者を先に迎えるのは主屋ではなくこの蔵である。文化庁のデータベースは年代を明治前期(1868〜1882年)とし、平成元年(1989年)頃の改修を記載する。木造2階建、瓦葺、建築面積45平方メートル。

土蔵は家財の要を収める建物である。売るための米、農具、証文や帳簿、冠婚葬祭に出す漆器、あらたまった場でしか着ない衣類。厚く塗り重ねた土壁は、隣家から飛ぶ火と、穀物や紙を傷める湿気の双方を遮るために積まれた。データベースの構造欄が「木造2階建」と記すのは軸部の記述であり、解説文が「土蔵造」と呼ぶのはその周囲に塗り固められたものを指す。

置屋根という解

詳しく見る値打ちがあるのは屋根である。この蔵は置屋根形式で、日本の民家建築が到達した合理的な工夫の一つにあたる。

土蔵の本体は密閉された土の箱である。そこへ直接瓦を葺けば、葺き土や漏水が土壁に染み、壁は膨れ、割れ、やがて崩れる。そこで土の箱の上に束を立て、切妻造桟瓦葺の屋根を別構造として架け、間に空気層を設けた。雨は外側の屋根で受け流され、漆喰や土壁に触れない。空気層を風が抜き、湿気を運び出す。瓦の葺き替えも、建物本体に手を入れずに済む。土蔵に差し掛けられた傘という表現が近い。

小屋組の構成は簡潔である。桁行中央に梁を渡し、その梁の上に束を立てて棟木を受ける。必要以上のものを置かない。内部は一階が土間、二階が板敷という一般的な使い分けで、湿気に強い物を下に、乾いた状態を保つべき物を上に納めた。

北面と東面には下屋が付く。東妻側の下屋が蔵前である。東北の雨のなかで重い扉を開けた経験があれば、この空間の意味はすぐわかる。蔵前は敷居に雨を寄せつけず、出し入れする荷を一時置く乾いた場所になる。

建物を取り巻くもの

土蔵は個人所有の屋敷地に建つ。入場券も公開時間もなく、敷地内に立ち入ることは想定されていない。敷地前方にあるため、西側の妻面と屋根の稜線は前面道路から目に入る。通りがかりの見学はそこまでにとどめたい。大熊町が催しに合わせて敷地を開けた例はあり、令和5年(2023年)1月には参加者が町学芸員とともに主屋と庭の手入れを行い、その後八幡神社ほか周辺の史跡を歩いている。問い合わせ先は大熊町役場(0240-23-7568)。

建物より大きく変わったのは周囲である。大川原地区は平成23年(2011年)3月以降、避難指示区域に置かれ、平成31年4月10日に解除された。翌5月に町役場が移り、令和3年(2021年)10月には交流施設「linkる大熊」を含む交流ゾーンが開所している。土蔵はその間ずっと同じ場所に建っていた。登録以前に記録される大きな手入れは、平成元年頃の改修が最後である。

同じ大川原地区、1.5キロほど離れた場所には渡部家住宅がある。令和3年(2021年)2月4日登録で、農業に加えて馬産で身代を築いた家の屋敷構えを残す。石田家とあわせ、浜通りの農家建築を伝える町内の代表的な事例である。

交通は自動車による。常磐自動車道大熊インターチェンジ、JR常磐線大野駅とも、車でおよそ10分の距離にある。

Q&A

Q石田家住宅土蔵はどのような建物で、何に使われていたのですか。
A明治前期に建てられた土蔵で、石田家の屋敷地に建ちます。土蔵は農家が貯蔵米、農具、証文類、漆器、晴れ着といった家財の要を納めるための建物です。厚い土壁が火の粉を防ぎ、湿度の変化をやわらげる役割を担いました。
Q石田家住宅土蔵の置屋根とは何ですか。
A土蔵本体の上に束を立て、別構造として架けた屋根のことです。本体との間に空気層ができるため、雨水が土壁に及ばず、通気によって湿気も抜けます。瓦の葺き替えの際も蔵本体に手を入れずに済みます。この蔵では切妻造桟瓦葺の置屋根としています。
Q石田家住宅土蔵は見学できますか。
A外観のみです。屋敷は個人の所有で、定期的な一般公開はありません。土蔵は敷地の前方に位置するため、屋根の稜線や妻面は前面道路から見えます。内部の公開は大熊町主催の催しの機会に限られており、大熊町役場(0240-23-7568)にお問い合わせください。
Q石田家住宅土蔵はいつ建てられ、いつ改修されましたか。
A文化庁のデータベースは年代を明治前期、西暦1868年から1882年の間とし、平成元年(1989年)頃の改修を記録しています。登録有形文化財への登録は令和元年12月5日、第94回登録です。
Q石田家住宅の近くに他の登録有形文化財の屋敷はありますか。
A同じ大川原地区に渡部家住宅があり、令和3年2月4日に登録されました。建築面積193平方メートルの明治期主屋、薬医門と板塀、小規模な板蔵などで構成されます。石田家住宅からは1.5キロほどの距離です。

基本情報

名称石田家住宅土蔵(いしだけじゅうたくどぞう)
所在地福島県双葉郡大熊町大字大川原字西平160
指定区分登録有形文化財(建造物) 登録番号 07-0228
指定年令和元年(2019年)12月5日登録 第94回
員数1棟
寸法木造2階建、瓦葺、建築面積45平方メートル
所有者文化庁データベースに所有者名の記載なし
公開状況個人所有につき常時公開なし。外観のみ道路から見学可。内部は町主催の催し時に限り公開実績あり。

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース「石田家住宅土蔵」
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00013035
文化遺産オンライン「石田家住宅土蔵」
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/447263
大熊町「古民家に親しむ催し 活用への第一歩」
https://www.town.okuma.fukushima.jp/soshiki/somu/23405.html
大熊町交流ZONE「渡部家住宅(登録文化財)」
https://okumakouryu.jp/ns003/

最終更新日: 2026.08.04