11平方メートルの籾蔵
石田家住宅籾蔵は、福島県双葉郡大熊町大字大川原字西平にある昭和前期の板倉で、令和元年(2019年)12月5日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。登録番号は07-0229である。
石田家住宅の登録4棟のうち、最も小さい。建築面積は11平方メートル、小さめの一室ほどの規模にとどまる。主屋の西側に南北棟で建ち、木造平屋建、切妻造、屋根は金属板葺。文化庁のデータベースは年代を昭和前期(1926〜1945年)とし、平成18年(2006年)の改修を記載する。
収めたのは籾米、すなわち籾殻を付けたままの米である。この区別は見た目以上に重い。精白した米は数か月で酸化と虫害が進むが、籾のままなら1年以上もつ。籾殻が一粒ごとの覆いとして働くためである。農家は当座に食う分、売る分だけを摺り、残りの収穫はこの一つの用途のために建てられた小屋に納めた。
通気で守る構法
籾蔵は板倉である。柱の内側に彫った溝へ横板を落とし込み、上へ順に積み重ねる。板を留める釘は用いない。板自身の重さと溝が保持する。割れた板は軸部に触れずに一枚だけ抜き替えられる。
同じ敷地に建つ土蔵と並べると、収蔵物に応じた構法の違いがはっきりする。土蔵は質量で守る。厚い土壁が温度変化をならし、火を防ぐ。板倉は流れで守る。薄い板壁の隙間を空気が抜け、穀物が湿った空気の中に滞留しない。息の通わない米には黴が来る。
床は板敷で、土台より一段高く張ってある。地面の湿気から収穫物を離し、床下に空気の層を残すためである。出入口は東西両面に設けられ、どちらからでも出し入れができ、開け放てば風が通り抜ける。
架構の割り付けには農家の合理がある。桁行は柱間四間、柱の位置ごとに梁を架けるが、棟木を受ける束を立てるのは中央の梁だけ。ほかの梁は両側の壁をつなぐ役に徹する。要らないものを置いていない。
金属板葺の屋根は後年の仕様である。昭和期の農村では、茅や板葺に代わる安価で軽く燃えにくい屋根材として、波板や平板の金属屋根が付属屋を中心に広まった。現在この蔵を覆っているのもそれである。
農がやんだ町の籾蔵
大川原は大熊町の西寄り内陸にある農業集落で、昭和40年代から50年代にかけて海岸部に建設された東京電力福島第一原子力発電所からは距離がある。この蔵に籾が納められていたのは、記憶に残る時代のことである。平成23年(2011年)3月以降、町全域が避難を強いられ、田は耕作から離れた。
大川原地区の避難指示が解除されたのは平成31年4月10日。同年5月に町役場の新庁舎が地区内で業務を開始し、12月に籾蔵を含む4棟が登録された。登録は、これらの建物を生んだ農業経営を戻すものではないし、そのための制度でもない。建物を残す価値があると公に記録し、所有者を制度上の支援につなぐことが役割である。
4棟のうち外から最も見にくいのがこの籾蔵である。主屋の西側、門や土蔵より奥まった位置にあり、屋敷は個人の住宅で一般公開はない。見学は道路上からにとどめたい。町が催しに合わせて敷地を開けた例はあり、令和5年(2023年)1月には参加者が町学芸員とともに主屋と庭の手入れを行い、周辺の史跡を歩いている。予定については大熊町役場(0240-23-7568)に確認するのがよい。
常磐自動車道大熊インターチェンジから車でおよそ10分、JR常磐線大野駅からも同程度である。
Q&A
- 石田家住宅籾蔵には何が納められていたのですか。
- 籾米、つまり籾殻を付けたままの米です。籾のまま保管すると精白米より格段に長くもつため、農家は収穫の大半をこの形で蔵に納め、必要な分だけを摺りました。この建物はその用途のために建てられています。
- 石田家住宅籾蔵はなぜ土蔵ではなく板倉なのですか。
- 穀物には通気が要るためです。板倉は柱の溝に横板を落とし込んだ薄い板壁で、継ぎ目から空気が抜けて米が乾いた状態に保たれます。同じ敷地の土蔵は逆に、厚い土壁で火を防ぎ環境を一定に保つ建物で、農具や証文、家財を納めます。
- 石田家住宅籾蔵の床が一段高いのはなぜですか。
- 土台より一段上げて板床を張ることで、収蔵した籾を地面の湿気から離し、床下に空気の層をつくるためです。出入口は東西両面にあり、開け放てば建物を風が通り抜ける構成になっています。
- 石田家住宅籾蔵はいつ建てられ、どのくらいの大きさですか。
- 文化庁のデータベースは年代を昭和前期、西暦1926年から1945年の間とし、平成18年(2006年)の改修を記録しています。木造平屋建、切妻造金属板葺で、建築面積は11平方メートル。石田家住宅の登録4棟で最小の建物です。
- 石田家住宅籾蔵は見学できますか。
- 一般公開はありません。屋敷は個人所有で、籾蔵は主屋の西側という奥まった位置にあるため、道路からも見えにくい建物です。内部の公開は大熊町主催の催しの機会に限られてきました。大熊町役場(0240-23-7568)にお問い合わせください。
基本情報
| 名称 | 石田家住宅籾蔵(いしだけじゅうたくもみぐら) |
|---|---|
| 所在地 | 福島県双葉郡大熊町大字大川原字西平160 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) 登録番号 07-0229 |
| 指定年 | 令和元年(2019年)12月5日登録 第94回 |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 木造平屋建、金属板葺、建築面積11平方メートル |
| 所有者 | 文化庁データベースに所有者名の記載なし |
| 公開状況 | 個人所有につき常時公開なし。敷地奥に位置し道路からの視認も限られる。内部は町主催の催し時に限り公開実績あり。 |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース「石田家住宅籾蔵」
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00013036
- 文化庁 国指定文化財等データベース「石田家住宅土蔵」
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00013035
- 大熊町「町の状況」
- https://www.town.okuma.fukushima.jp/site/fukkou/1905.html
- 大熊町「古民家に親しむ催し 活用への第一歩」
- https://www.town.okuma.fukushima.jp/soshiki/somu/23405.html
最終更新日: 2026.08.04