東と西で形の変わる屋根

佐藤家住宅主屋は、福島県福島市泉字清水内にある明治6年(1873年)建築の大型民家で、平成25年(2013年)12月24日に国の登録有形文化財(建造物)となった。

広い敷地のほぼ中央に、南を向いて建つ。木造平屋建で一部が2階、建築面積は267平方メートルある。

この建物は、見る位置によって屋根の形が変わる。東側から近づくと茅葺の屋根が段状に立ち上がって兜造となり、西側へ回り込むと同じ屋根が入母屋造におさまる。棟の中央には越屋根が載る。煙を抜き、光を落とすための小さな屋根である。

ひとつの民家に二種類の屋根形式を同居させるのは、大工が偶然たどりついた妥協ではない。兜造は東北地方の養蚕地帯に多い形式とされ、蚕棚を置く小屋裏に風を通す必要から生まれたと考えられている。福島市を含む信達地方は、19世紀を通じて全国有数の養蚕地だった。いっぽう入母屋造が語るのは労働ではなく格式である。東面は働く農家の顔をし、西面は家の位を示す顔をしている、と言ってもよい。

登録有形文化財という選択

日本の建造物保護には二つの水準がある。国宝や重要文化財を生む「指定」は対象が限られ、規制も強い。もうひとつが平成8年(1996年)の文化財保護法改正で始まった「登録」で、おおむね築50年以上の建物を日常の使用のまま守り、外観を大きく変更する際に文化庁への届出を求める、より緩やかな制度である。

主屋の登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」。登録番号は07-0144、第76回登録にあたる。

同じ日、同じ敷地の3棟も登録された。昭和7年(1932年)の離れが07-0145、明治8年(1875年)の文庫蔵が07-0146、そして主屋と同じ明治6年建築の味噌蔵が07-0147である。4棟を個別にではなくまとめて登録した判断には、これらを別々の建物ではなく一群の屋敷構えとして評価した姿勢が読み取れる。福島盆地でこの規模の屋敷が丸ごと残る例は、確実に減っている。

外壁にも注目したい。真壁造とし、柱と貫を塗り込めずに見せている。文化庁の解説はこれを意匠として現したものと記しており、たまたま構造が露出しているのではなく、見せるために選ばれた仕上げだということになる。

見どころと、近づける範囲

内部の平面は東西で性格が分かれる。東寄りに土間を取り、農作業も炊事も出入りもひとつながりの土の床でこなす。その西側に居室が並ぶ。なかでも広いのがブツマで、ここでは軸組の材が一段と太くなる。梁間を渡すのに必要な寸法をはっきり超えた材が使われている。

ただし、実際に訪れる前に確認しておくべきことがある。佐藤家住宅は個人の住まいである。一般公開は行われておらず、拝観料の設定も、見学のための施設もない。文化庁のデータベースに所有者名の記載がないのは、個人所有であることを示す場合が多い。泉まで足を運んでも、見えるのは公道から生垣越しに覗く茅葺屋根までで、敷地に立ち入ることはできない。撮影の際も、窓や戸口の方向にレンズを向けないでいただきたい。

アクセスは分かりやすい。福島駅から福島交通飯坂線に乗れば、泉駅までおよそ10分。ひとつ手前の岩代清水駅は泉駅から300メートルほどしか離れておらず、同じ地区を受け持つ。この路線は北へ進んで飯坂温泉に至る。元禄2年(1689年)に松尾芭蕉が立ち寄った温泉地である。途中の医王寺前駅から徒歩15分の医王寺は、源義経に従った中世の佐藤一族の菩提寺として知られる。ただし、その一族と泉の佐藤家を結ぶ史料上の関係は確認されていない。佐藤は福島県で最も多い姓であり、名字の一致は偶然と考えるのが妥当だろう。

屋根の形を確かめたいなら、木々が葉を落とした晩秋から冬がよい。裸の田畑を背に、茅の厚みがはっきり見える。

Q&A

Q佐藤家住宅主屋はどこにあり、いつ建てられたのですか?
A福島県福島市泉字清水内3に所在し、明治6年(1873年)の建築です。平成25年(2013年)12月24日に国の登録有形文化財となりました。
Q佐藤家住宅主屋は見学できますか?内部は公開されていますか?
A個人の住宅であり、一般公開・内部公開はいずれも行われていません。公道から外観を眺めることはできますが、敷地内への立入りはできません。
Q佐藤家住宅主屋の屋根はどこが珍しいのですか?
A同じ茅葺屋根が、東面では兜造、西面では入母屋造という異なる形式をとり、棟の中央に越屋根が載ります。1棟の民家で二種類の屋根形式を併せ持つ例は多くありません。
Q佐藤家住宅(福島市泉)へのアクセス方法を教えてください。
A福島駅から福島交通飯坂線で泉駅まで約10分です。隣の岩代清水駅も約300メートルの距離にあり、同じ地区から歩けます。
Q福島市の佐藤家住宅は、秋田県や岩手県の佐藤家住宅と同じものですか?
A別の建物です。秋田県横手市増田町と同県大仙市の佐藤家住宅は重要文化財、岩手県一関市千厩町の佐藤家住宅は登録有形文化財です。福島県内でも、伊達郡国見町の旧佐藤家住宅は県指定重要文化財で、本件とは無関係です。

基本情報

名称佐藤家住宅主屋(さとうけじゅうたくしゅおく)
所在地福島県福島市泉字清水内3
指定区分登録有形文化財(建造物) 登録番号 07-0144
指定年平成25年(2013年)12月24日登録 第76回登録
員数1棟
寸法木造平屋一部2階建、茅葺、建築面積267平方メートル
所有者文化庁データベースに所有者名の記載なし(個人所有とみられる)
公開状況非公開。公道からの外観の眺望のみ

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース「佐藤家住宅主屋」
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00009702
文化遺産オンライン「佐藤家住宅主屋」
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/231811
福島市「福島市の文化財 登録有形文化財(建造物)一覧」
https://www.city.fukushima.fukushima.jp/soshiki/7/1032/2/1/3/725.html
福島県「ふくしまの文化財情報」
https://www.pref.fukushima.lg.jp/site/edu/bunkazai01.html

最終更新日: 2026.08.25