紙を守るための建物
佐藤家住宅文庫蔵は、福島県福島市泉字清水内にある明治8年(1875年)建築の土蔵造二階建の蔵で、平成25年(2013年)12月24日に国の登録有形文化財(建造物)となった。
主屋の西方、離れを介した位置に東西棟で建つ。文化庁の記録は桁行6.6メートル、梁間4.8メートルとし、建築面積はおよそ32平方メートル。小さい。現代の2台分の車庫よりまだ小さい。
名称が用途を決めている。文庫蔵は米蔵でも道具蔵でもない。文庫とは書物や記録を収める場所で、この格の家が文庫蔵を建てたのは必要があったからである。検地帳、売券や質入証文、年貢の記録、代を重ねた帳簿、書簡、系図。要するに紙である。267平方メートルの主屋は焼けても建て直せる。何を所有しているかを証明する紙は、焼けたら戻らない。
土蔵はどうやって火を防ぐか
構法は土蔵造。木の軸組に厚く土を塗り重ね、表面を漆喰で仕上げることで、壁というより窯の外殻に近い性能を持たせる。外で火が上がっても、燃えるものに届く前に何寸もの土がある。
細部を三つ挙げておきたい。屋根は置屋根式で、土壁の箱に構造的に組み込まず、上から別の小屋組を載せている。土壁は屋根の重さを負担せず、瓦の葺き替えも下の壁を傷めずに行える。形式は切妻造、桟瓦葺。戸口は東の妻面、つまり母屋の側を向く。そして二階の東面には土戸を開く。戸そのものに土を塗り込めた建具で、外皮のなかで最も弱くなる開口部を、壁と同じ材料で塞ぐ考え方である。上には庇が付く。
外壁は漆喰塗とし、腰の部分だけ洗出し仕上げとする。塗った表面がまだ固まりきらないうちに水で洗い、内側の骨材を粒のまま浮き上がらせる技法である。白い滑らかな壁の下に、ざらついた帯が回る。腰は泥はねや衝撃を受けやすい場所だから実用でもあり、見た目の切り替えとしても意図されている。
文化庁の記述は、この蔵が屋敷の西側の景観を整えていると位置づける。適用された基準は隣の3棟と同じく、歴史的な景観の形成に寄与する建物を対象とするもので、登録番号は07-0146、第76回登録にあたる。
4棟の一括登録と、実際に見える範囲
この蔵は、平成25年12月24日に同じ敷地で登録された4棟のうちの一つである。明治6年(1873年)の主屋が07-0144、昭和7年(1932年)の離れが07-0145、本件の文庫蔵が07-0146、そして主屋と同年の味噌蔵が07-0147。味噌蔵も同じ土蔵造二階建だが、屋根は鉄板葺で建築面積35平方メートル。本記事では扱わない。
離れの南面を走る廊下は主屋と離れを結び、さらにこの文庫蔵まで達している。外へ出ずに書類を取りに行けたということである。雪の降る土地では、これは優雅さの話というより、帳簿を抱えて吹きだまりを踏まずに済むかどうかの話だろう。
ここで断りを入れる。この蔵に入れる人はいない。屋敷は現役の個人住宅で、係員も入場券も存在せず、文化庁の台帳が所有者欄を空けているのは私有の建物に対する通例である。蔵の中身は公開の対象ではない。公道にとどまれば、境界の向こうに白い壁の一部と瓦の稜線が見える。カメラを出すときは、向ける先に気を配りたい。
福島交通飯坂線の電車は福島駅を出て、10分ほどで泉に着く。ひと駅手前の岩代清水からも歩ける距離である。土蔵に関心があるなら、この沿線と福島市の旧市街には同種の蔵がまだ相当数残っており、単独で登録有形文化財となっているものも少なくない。
名称について一点。秋田県横手市増田町の佐藤家住宅にも文庫蔵と呼ばれる建物があるが、そちらは重要文化財で、本件とは関係がない。
Q&A
- 佐藤家住宅文庫蔵とはどんな建物で、いつ建てられたのですか?
- 福島県福島市泉字清水内3にある土蔵造二階建の蔵で、明治8年(1875年)の建築です。桁行6.6メートル、梁間4.8メートル、建築面積約32平方メートル。平成25年(2013年)12月24日に国の登録有形文化財となりました。
- 佐藤家住宅文庫蔵には何が収められていたのですか?
- 文庫蔵は米蔵ではなく記録を収める蔵です。旧家では検地帳や証文、帳簿、年貢の記録、系図などの文書を、厚い土壁で火災から守るために納めました。
- 佐藤家住宅文庫蔵の置屋根式とはどういう構造ですか?
- 土壁の箱に屋根を組み込まず、上から別の小屋組を載せる形式です。土壁が屋根の荷重を負担せず、瓦の葺き替えも下の漆喰壁を傷めずに行えます。
- 佐藤家住宅文庫蔵の内部は見学できますか?
- できません。個人の住宅の一部であり、一般公開も見学施設もありません。公道からの外観の眺望のみで、敷地内に立ち入ることはできません。
- 福島市の佐藤家住宅文庫蔵は、秋田県増田の佐藤家住宅文庫蔵と同じものですか?
- 別の建物です。秋田県横手市増田町の佐藤家住宅は重要文化財で、そこにも文庫蔵と呼ばれる建物がありますが、福島市泉の登録有形文化財とは無関係です。
基本情報
| 名称 | 佐藤家住宅文庫蔵(さとうけじゅうたくぶんこぐら) |
|---|---|
| 所在地 | 福島県福島市泉字清水内3 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) 登録番号 07-0146 |
| 指定年 | 平成25年(2013年)12月24日登録 第76回登録 |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 土蔵造2階建、瓦葺、桁行6.6メートル・梁間4.8メートル、建築面積32平方メートル |
| 所有者 | 文化庁データベースに所有者名の記載なし(個人所有とみられる) |
| 公開状況 | 非公開。内部の見学はできない |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース「佐藤家住宅文庫蔵」
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00009704
- 文化庁 国指定文化財等データベース「佐藤家住宅味噌蔵」(同一敷地の4棟目)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00009705
- 福島市「福島市の文化財 登録有形文化財(建造物)一覧」
- https://www.city.fukushima.fukushima.jp/soshiki/7/1032/2/1/3/725.html
- 福島県「ふくしまの文化財情報」
- https://www.pref.fukushima.lg.jp/site/edu/bunkazai01.html
最終更新日: 2026.08.25