会津の城下町に残る造り酒屋の敷地
末廣酒造嘉永蔵は、福島県会津若松市日新町にある造り酒屋の敷地と建物群で、明治25年(1892年)から大正後期にかけて建てられた9件が平成30年(2018年)11月2日に登録有形文化財となった。内訳は建築物6棟と工作物3基で、すべて末廣酒造株式会社が所有し、現在も酒造会社の施設として使われている。
読みは「すえひろしゅぞうかえいぐら」。嘉永蔵という呼び名は嘉永3年(1850年)の創業に由来し、会津美里町にあるもう一つの製造拠点「博士蔵」と区別するときにも使われる。地元では単に「末廣」と呼ぶことも多い。
敷地が占めるのは若松城下の旧町人地にあたる一角で、東と北の二方が街路に面する。街路側には主屋と新蔵が並び、その間に正面門、北隅に煉瓦塀が続いて、通りに向いた表構えをつくる。奥へ進むと仕込蔵と貯蔵庫が敷地の南・北・西を囲み、その中央に煉瓦造の煙突が立つ。
二度の焼失と、そのあとの再建
嘉永3年(1850年)、会津藩の御用酒蔵だった新城家の二男包裕が本家から分かれ、初代猪之吉を名乗って酒造りを始めた。創業の年号がそのまま蔵の名になっている。
戊辰戦争で蔵は焼け、明治2年(1869年)に酒造りを再開した。三代目の時代に本店の改築が進み、明治25年(1892年)に新蔵が落成する。しかし明治39年(1906年)の大火で蔵の大半を再び失った。現存する建物のうち最も古いのが新蔵なのはこのためで、ほかの蔵は大火のあとに建て直されたものが中心を占める。
明治40年(1907年)に三号蔵と四号蔵、明治42年(1909年)に主屋、大正11年(1922年)に壱号蔵が建ち、主屋にも同じ年に増築が加えられた。五号蔵は大正後期にあたる。9件の年代がおよそ30年の幅に収まるのは、この集中的な再建による。
建物が整っていく時期は、酒造技術が大きく動いた時期でもあった。明治41年(1908年)にはエンゲルベルク精米機を導入して自社精米を始めている。大正6年(1917年)1月には山廃酛の考案者として知られる嘉儀金一郎がこの蔵で山廃酒母・速醸酒母・生酛酒母の比較試験を行い、大正9年(1920年)まで指導に通った。
大正4年(1915年)9月、16年ぶりにアメリカから帰国した野口英世が嘉永蔵に立ち寄っている。三代目猪之吉の妻の弟にあたる小林栄が英世の後見人であり、英世の実弟清三はこの蔵で働いていた。主屋事務所2階の大広間で撮られた写真が同社に残る。
平成8年(1996年)に会津美里町の博士蔵が落成して製造の主力が移ったあとも、嘉永蔵では数量を限った仕込みが続いている。平成30年(2018年)の登録は、使われ続けてきた敷地の全体に対して行われた。
敷地の配置と歩く順序
嘉永蔵の敷地は、街路に向いた東面と、その奥に広がる作業の場とで性格が分かれる。表側に立つのは主屋・新蔵・正面門・煉瓦塀の4件で、和風の木造建築に煉瓦と花崗岩が交ざる。奥側は壱号蔵・三号蔵・四号蔵・五号蔵と煉瓦煙突が占め、酒を仕込み、貯え、運び出す動線がそのまま建物の配置になっている。
入口を入ったところの吹き抜けの広間が見学の出発点で、案内を受けながら仕込蔵の内部へ進む。通りからは見えない煙突や、蔵と蔵の取り合いは、この動線に入って初めて位置関係が分かる。
敷地の東北隅、主屋の北側で街路との境をつくるのが煉瓦塀である。主屋との間に前庭があり、塀の両端に通用口が開く。主屋事務所と新蔵の間には正面門が東を向いて立ち、門柱の間に灯具付きの鋼管アーチが渡る。表構えの構成を理解するには、通りの向かい側まで下がって全体を見るのがよい。
登録された9件
9件はいずれも登録基準の「国土の歴史的景観に寄与しているもの」により、第91回の登録として平成30年(2018年)11月2日に登録された。登録番号は07-0185から07-0193まで連番で付されている。
- 主屋(07-0185)明治42年(1909年)/大正11年(1922年)増築。木造2階建及び3階建、建築面積414平方メートル
- 新蔵(07-0186)明治25年(1892年)。土蔵造2階建、建築面積45平方メートル
- 壱号蔵(07-0187)大正11年(1922年)。土蔵造2階建、建築面積365平方メートル
- 三号蔵(07-0188)明治40年(1907年)。土蔵造2階建、建築面積146平方メートル
- 四号蔵(07-0189)明治40年(1907年)。土蔵造2階建、建築面積146平方メートル
- 五号蔵(07-0190)大正後期。土蔵造2階建、建築面積219平方メートル
- 煉瓦煙突(07-0191)明治後期。煉瓦造、高さ10メートル
- 煉瓦塀(07-0192)明治後期。煉瓦造、延長17メートル
- 正面門(07-0193)明治後期。石造、間口2.2メートル
9件はいずれも登録有形文化財である。これは平成8年(1996年)に設けられた登録の制度によるもので、所有者が使いながら守ることを前提としている。稼働中の酒造施設である嘉永蔵は、その趣旨にそのまま当てはまる例といえる。
見学と行き方
嘉永蔵では、係員の案内による酒蔵見学を受け付けている。所要は約30分、個人は予約不要で、団体は事前予約が必要になる。見学そのものに料金はかからない。案内の開始時刻は季節によって変わり、3月から11月は午前10時・午前11時・午後1時・午後2時・午後3時・午後4時の6回、12月から2月は午前11時・午後1時・午後3時の3回である。定休日は毎月第2水曜日。
敷地内の酒蔵ショップは午前9時30分から午後4時30分まで開いており、定休日は見学と同じく毎月第2水曜日。蔵喫茶「杏」は午前10時から午後4時30分まで(ラストオーダーは午後4時)で、定休日は毎週水曜日と第1・第3木曜日にあたる。祝日の場合は営業する。
撮影については建物の外観に制限はない。内部は営業中の製造施設であり、案内の際に係員の指示に従う必要がある。
所在地は福島県会津若松市日新町12-38。文化庁のデータベースには地番による「日新町159他」が記録されている。JR会津若松駅からはまちなか周遊バス「ハイカラさん」に乗り、七日町中央で降りて徒歩約5分、または大和町で降りて徒歩約1分。車の場合は磐越自動車道の会津若松インターチェンジから約15分で、20台分の駐車場がある。
この情報は2026年9月17日に確認した。料金や時間は変わることがあるため、訪問前に公式サイトで確かめてほしい。
参考文献
- 国指定文化財等データベース 末廣酒造嘉永蔵主屋(文化庁)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00012470
- 国指定文化財等データベース 末廣酒造嘉永蔵新蔵(文化庁)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00012471
- 国指定文化財等データベース 末廣酒造嘉永蔵壱号蔵(文化庁)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00012472
- 国指定文化財等データベース 末廣酒造嘉永蔵煉瓦煙突(文化庁)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00012476
- 国指定文化財等データベース 末廣酒造嘉永蔵正面門(文化庁)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00012478
- 末廣の歴史(末廣酒造株式会社)
- https://sake-suehiro.co.jp/history
- 嘉永蔵見学(末廣酒造株式会社)
- https://sake-suehiro.co.jp/museum
- 末廣酒造 嘉永蔵(一般社団法人東北観光推進機構)
- https://www.tohokukanko.jp/attractions/detail_1009352.html
最終更新日: 2026.09.17
基本情報
| 名称 | 末廣酒造嘉永蔵 |
|---|---|
| 所在地 | 福島県会津若松市日新町159他 |
| 所有者 | 末廣酒造株式会社 |
| 指定 | 登録有形文化財 9件 |
| 座標 | 37.49796, 139.92315 |