曳屋とは

曳屋は、建物を解体せずに持ち上げ、そのまま別の位置へ動かす工法である。柱や小屋組を組んだまま移すため、建物の構成が保たれる。

山口県の有近家住宅は、「主屋は明治25年に街道に面して建てたものを大正13年に曳屋して現在地に移したと考えられ、曳屋にあわせて玄関や応接室、隠居屋などが増築され、現在の屋敷構えが整えられた」と解説されている。国指定文化財等データベースの年代欄には「大正13年曳屋完成」と記録されている。

移動が敷地内で完結する例も多い。東京都の花重店舗は明治10年の建築で、「谷中墓地開設とほぼ同時期に開業した生花問屋。明治10年に前身建物を背面側に曳屋し、木造2階建の店舗兼居室を建てる」と解説されている。前の建物を敷地の奥へ動かし、空いた表側に新しい店舗を建てている。

京都府の稲葉家住宅北宝蔵は江戸末期の建築で、「桁行2間梁間1間半規模、切妻造桟瓦葺の2階建土蔵で、古図から主屋建設時に曳家された経緯がわかる」と解説されている。

記録での現れ方と表記

曳屋は建物の来歴の一部として記録される。香川県の川鶴酒造川鶴資料館は大正期の建築で、「もと北側敷地内住居部の米蔵を曳家したもので、現在は酒造用具等の展示場に活用」と解説されている。年代欄には「昭和30頃移築」と記される。

移動にともなって改造が加わることもある。山梨県の村松家住宅主屋は慶応元年の建築で、「2階開口部のアーチ形枠取は商家蔵建設に伴う曳家時の改装か」と解説されている。移動の時期と改造の時期が重なるため、部位ごとの年代を分けて読む必要がある。

表記は曳屋と曳家の両方が使われ、文化庁の記録にも双方が現れる。読みはいずれもひきやである。記事に書くときは、引用する記録の表記に合わせるのが確実である。

移築との違いにも注意したい。移築は解体して別の場所で組み直すことを指し、曳屋は解体せずに動かすことを指す。ただし記録では両者が同じ移築という語でまとめられる場合もあるため、解説文の書き方から判断することになる。

参考文献

文化庁 文化財の紹介 登録有形文化財(建造物)
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/shokai/yukei_kenzobutsu/toroku_yukei.html
国指定文化財等データベース(文化庁)有近家住宅/明治25年の主屋を大正13年に曳屋して現在地に移す
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/102/00004610
国指定文化財等データベース(文化庁)花重店舗/明治10年に前身建物を背面側に曳屋し店舗兼居室を建てる
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00003074
国指定文化財等データベース(文化庁)稲葉家住宅北宝蔵/古図から主屋建設時に曳家された経緯がわかる
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00003113
国指定文化財等データベース(文化庁)川鶴酒造川鶴資料館(旧米蔵)/外装の腰部を海鼠壁、上部を白漆喰壁
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00003000
国指定文化財等データベース(文化庁)村松家住宅主屋/2階開口部の枠取は蔵建設に伴う曳家時の改装か
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00003084

最終更新: 2026.08.31