金物商の屋敷が博物館になるまで
旧相川家住宅は、群馬県伊勢崎市三光町にある商家の屋敷で、天保8年(1837年)建築の主屋を中心とする建物と門・塀の6件が、令和7年(2025年)8月6日に国の登録有形文化財となった。所有者は公益財団法人相川考古館で、屋敷全体が博物館として公開されている。
相川家は江戸時代の初めから伊勢崎の町で金物を商い、町役人も務めた家である。創業の年は分かっていない。館の記録では、寛永16年(1639年)以降、幕府の巡検使が伊勢崎へ派遣されるたびに相川家の屋敷が使われた。天保9年(1838年)には巡検使の内藤源助が、前年に建ったばかりの主屋で休憩している。館はこの屋敷を「町役人の居宅・脇本陣」と説明している。
屋敷を博物館へ変える道筋をつけたのは、慶応2年(1866年)に金物商相川次郎平の長男として生まれた相川之賀(あいかわ しが)である。之賀は明治18年(1885年)に単身で渡米し、北米で人類学の資料を集めた。一時帰国の際には東京帝国大学へカナダ太平洋岸の先住民関係資料を寄贈し、帰郷のたびに伊勢崎周辺の出土品も手元に集めていった。
大正3年(1914年)に家督を継ぐため帰国した之賀は、伊勢崎郵便局長や町会議員を務め、大正10年(1921年)には群馬県の史跡名勝天然記念物調査委員に就いた。昭和11年(1936年)には博物館の建設会を設立したが、戦争のため実現しなかった。
昭和25年(1950年)に之賀が亡くなると、長女の徹子が「公共に役立てよ」という父の意思に従い、同年10月15日に自宅で相川郷土館を開いた。のちに相川考古館と改称し、平成5年(1993年)に財団法人となって現在に至る。住まいをそのまま展示の場にしたため、店・住まい・蔵・屋敷神・門が一つの敷地に揃って残った。
6件の登録と建てられた年代
令和7年(2025年)3月21日、文化審議会は全国135件の建造物を登録有形文化財に登録するよう文部科学大臣に答申した。旧相川家住宅の6件はその中に含まれ、同年8月6日付の官報告示で登録が成立している。登録番号は10-0367から10-0372まで連続し、6件とも登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」である。
- 旧店舗:江戸後期の建築で、昭和中期に改修。土蔵造2階建
- 主屋:天保8年(1837年)の建築。木造平屋建の書院座敷
- 土蔵:天保15年(1844年)の建築。旧金物蔵で、土蔵造2階建
- 稲荷社:明治15年(1882年)の建築。土蔵造の屋敷神
- 表門及び塀:明治33年(1900年)の建築。薬医門と板塀
- 裏門及び塀:昭和前期の建築。腕木門と板塀
建てられた時期は江戸後期から昭和前期まで百数十年にわたる。一度に計画された屋敷ではなく、商いと暮らしの必要に応じて建て足されてきた姿が、そのまま登録の単位になっている。
火への備えが、この屋敷の形をよく説明する。店・蔵・屋敷神の3件が厚い土壁の土蔵造で、館によれば、主屋にかつて付いていた湯殿や厠、店に通じる茶の間や台所は防火のために取り壊された。
敷地には登録の対象ではない文化財もある。茶室「觴華庵(しょうかあん)」は、幕末に家を再興した相川杪保が隠居屋を兼ねて文久元年(1861年)に建てた茶室で、平成12年(2000年)3月21日に群馬県の指定文化財となった。伊勢崎市は県内最古の本格的な茶室建築と紹介している。収蔵庫には、之賀が集め、国の指定を受けた人物埴輪4点が展示されている。
屋敷の配置
旧相川家住宅の敷地は西町の通りの西側にあり、通りに面した東側が屋敷の表になる。通り沿いの北寄りに旧店舗が低い姿で建ち、その南に続けて表門と板塀が敷地の東面を区切る。
旧店舗の西には主屋が接続し、店の奥に住まいが続く。主屋の北には東西に長い土蔵が建ち、主屋の北面西端とつながっている。土蔵は敷地の北側の景観をつくる建物で、その西、敷地の北西隅に稲荷社が東を向いて建つ。裏門と塀は反対側、敷地南の小路に面して敷地の西側を区切っている。
通りから見えるのは店と門、その奥に住まい、さらに奥に蔵と屋敷神という順序である。商家の敷地が表から奥へと役割を変えていく様子は、この屋敷を歩くとよく分かる。表の構えは西町の通りの向かい側から、裏門は南の小路から見るとよい。
見学とアクセス
旧相川家住宅は相川考古館として公開されている。開館時間は午前9時30分から午後4時30分まで(入館は午後4時まで)。休館日は月曜日で、月曜日が祝日の場合は開館して翌火曜日が休館となる。年末年始は12月30日から1月3日まで休館する。資料整理のための臨時休館もあるので、出かける前に館の告知を確かめたい。
入館料は令和7年(2025年)10月1日の改定により、大人700円、小中学生300円。20名以上の団体は1割引きになる。茶室觴華庵では菓子付きの抹茶(600円、入館者は100円引き)を頼める。団体での来館や体験学習は事前に連絡する。館の資料の撮影や掲載を希望する場合は、館への問い合わせが求められている。
電車では東武伊勢崎線の新伊勢崎駅から徒歩約10分、JR両毛線の伊勢崎駅から徒歩約12分。車は北関東自動車道の駒形インターチェンジから約10分で、駐車場は7台分ある。館の案内上の所在地は伊勢崎市三光町6-10、電話は0270-25-0082。文化庁の登録上の所在地は6件のうち5件が三光町6-11、裏門及び塀が三光町6-17となっている。
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁):旧相川家住宅主屋
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00015406
- 国指定文化財等データベース(文化庁):旧相川家住宅旧店舗
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00015405
- 国指定文化財等データベース(文化庁):旧相川家住宅土蔵
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00015407
- 国指定文化財等データベース(文化庁):旧相川家住宅稲荷社
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00015408
- 国指定文化財等データベース(文化庁):旧相川家住宅表門及び塀
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00015409
- 国指定文化財等データベース(文化庁):旧相川家住宅裏門及び塀
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00015410
- 文化庁:文化審議会の答申(登録有形文化財(建造物)の登録)令和7年3月21日
- https://www.bunka.go.jp/koho_hodo_oshirase/hodohappyo/94187801.html
- 群馬県:群馬の文化財
- https://www.pref.gunma.jp/page/5190.html
- 相川考古館:考古館概要
- https://aam.or.jp/exhibition/
- 相川考古館:ご利用案内
- https://aam.or.jp/guide/
- 相川考古館:10月から入館料が値上げします
- https://aam.or.jp/2025/07/20/%E3%80%90%E3%81%8A%E7%9F%A5%E3%82%89%E3%81%9B%E3%80%9110%E6%9C%88%E3%81%8B%E3%82%89%E5%85%A5%E9%A4%A8%E6%96%99%E3%81%8C%E5%80%A4%E4%B8%8A%E3%81%92%E3%81%97%E3%81%BE%E3%81%99/
- 相川考古館:祝!国登録文化財 2025.08.06付
- https://aam.or.jp/2025/08/13/%E3%80%90%E3%81%8A%E7%9F%A5%E3%82%89%E3%81%9B%E3%80%91%E7%A5%9D%EF%BC%81%E5%9B%BD%E7%99%BB%E9%8C%B2%E6%96%87%E5%8C%96%E8%B2%A1-2025-08-06%E4%BB%98/
- 伊勢崎市:相川家茶室 觴華庵
- https://www.city.isesaki.lg.jp/soshiki/kyoikubu/hogo/bunkazaihogo/shitei/kenchiku/2599.html
最終更新日: 2026.09.24
基本情報
| 名称 | 旧相川家住宅 |
|---|---|
| 所在地 | 群馬県伊勢崎市三光町6-11 |
| 所有者 | 公益財団法人相川考古館 |
| 指定 | 登録有形文化財 6件 |
| 座標 | 36.31858, 139.19150 |