榛名神社の奥、参拝者の多くが通り過ぎる場所に
榛名川上流砂防堰堤は、群馬県高崎市大字榛名山地内、榛名川最上流部に築かれた昭和30年(1955年)竣工の砂防堰堤で、平成18年(2006年)8月3日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。堤長69メートル、堤高17メートル。所有者は国(国土交通省)である。
榛名神社に参拝する人の大半は、この堰堤の存在に気づかないまま帰る。参道の途中、土産物屋の先で道が二股に分かれる。左の石段を上がれば本社。堰堤へは右、トイレの方へ下る道を進む。榛名山へ続く関東ふれあいの道の一部でもある。本社からおよそ徒歩5分。
短い坂を下りきると、渓谷を塞ぐ石積みの壁が正面に立ち上がる。天端を越えた水が幅いっぱいに広がって落ち、下の滝壺へ吸い込まれていく。水量の少ない時期には、滝壺のそばまで下りることもできる。
中身はコンクリート、表面は間知石の谷積
文化庁の解説は、この堰堤を「表面を間知石の谷積とした大規模な重力式コンクリート造堰堤」と記す。間知石は面を四角く整えた積石で、谷積とは石を斜めに傾けて積む手法をいう。目地が水平に走らず、菱形の格子として現れるのはそのためである。
一方、高崎市の文化財説明では「練石積粗石コンクリート構造」と表現している。二つの記述は同じものを別の角度から見ているに過ぎない。荷重を受け持つ本体はコンクリート、外に出て水に叩かれるのが石積みで、技術が問われるのは後者だ。市はこの点をはっきり評価しており、当時の高度な石積技術がうかがえるとしたうえで、これほどの規模のものは群馬県内に5基しかないと記している。
築かれた位置にも理屈がある。支渓が本流に合流する地点の下流、露出した岩盤の上。基礎が固く、二つの流れから運ばれてくる土砂をまとめて受け止められる場所である。
水害の記憶から生まれた堰堤
榛名川は榛名山を水源とする。上流域の谷は急峻で、大雨のたびに水だけでなく岩や土砂が動く川である。明治43年(1910年)の水害、昭和10年(1935年)の水害で大きな土砂災害の被害を受け、昭和11年度から国による砂防事業が始まったと伝わる。昭和22年(1947年)に関東を襲ったカスリーン台風も、事業の背景として語られる。昭和30年に完成したこの堰堤は、その一連の砂防工事の中でも最大級のものだった。
下流には榛名神社がある。本社・幣殿・拝殿は文化3年(1806年)の建築で、これを含む社殿6棟が平成17年(2005年)12月27日に国の重要文化財に指定された。参道の矢立スギは高さ55メートル、樹齢400年から500年とされる国指定天然記念物である。それらを土砂災害から守ることが、この堰堤に与えられた役目だった。
登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」、登録番号は10-0187。災害の起こりやすい谷で半世紀にわたり働き続けてきたこと自体が、評価の一部を成している。
訪ねるときに
拝観料も門も、開閉時間もない。屋外の遊歩道沿いにあり、駐車場やトイレは榛名神社のものを利用できる。撮影の制限もない。
堰堤の前に立ったら、いちど上を見上げるとよい。背後にそびえるのが九折岩。岩が九十九折のように何度も折れ曲がった形をしていることからその名がある。参道の鞍掛岩とともに、平成2年(1990年)に高崎市指定名勝となっている。堰堤を越えてさらに進めば榛名川の河原に出られ、道は階段状になって天神峠から榛名湖へ通じる。
石積みの目地をはっきり見たいなら、草木の茂る前の春がよい。秋は渓谷が色づき、夏は水量が増える。滝壺周辺の岩は濡れているので、靴は滑りにくいものを選びたい。
参道沿いには登録有形文化財の宿坊も並ぶ。一宮家住宅(般若坊)主屋・長屋門、門倉家住宅(善徳坊)主屋、鐸木家住宅(本坊)門などで、いずれも平成18年(2006年)3月2日の登録。堰堤とあわせて歩けば、社殿だけでは見えてこない榛名山信仰の裾野が見えてくる。
Q&A
- 榛名川上流砂防堰堤へは榛名神社からどう行きますか。
- 本社から徒歩5分ほどです。参道の途中、土産物屋の先で道が二股に分かれるので、本社へ上がる石段ではなく右のトイレ方面へ下ってください。榛名山へ続く関東ふれあいの道の一部です。
- 榛名川上流砂防堰堤の見学に料金や予約は必要ですか。
- 不要です。屋外の遊歩道沿いにあり、門も受付も開閉時間もありません。駐車場やトイレは榛名神社のものを利用できます。
- 榛名川上流砂防堰堤はいつ造られ、どのくらいの大きさですか。
- 昭和30年(1955年)の竣工で、堤長69メートル、堤高17メートルです。重力式コンクリート造で、表面は間知石の谷積で仕上げられています。
- 榛名川上流砂防堰堤はなぜ登録有形文化財になったのですか。
- 平成18年(2006年)8月3日に「国土の歴史的景観に寄与しているもの」として登録されました。登録番号は10-0187です。高崎市は石積技術の高さを評価し、同種同規模の堰堤は県内に5基しかないと説明しています。
- 榛名川上流砂防堰堤を訪ねるのに適した季節はいつですか。
- 石積みの構造をよく観察したいなら草木の茂る前の春が向いています。秋は渓谷の紅葉、夏は水量が見どころです。滝壺周辺の岩場は濡れているため、滑りにくい靴をおすすめします。
基本情報
| 名称 | 榛名川上流砂防堰堤(はるながわじょうりゅうさぼうえんてい) |
|---|---|
| 所在地 | 群馬県高崎市大字榛名山地内 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) 登録番号 10-0187 |
| 指定年 | 平成18年(2006年)8月3日 登録(告示 同年8月24日、第51回) |
| 員数 | 1基 |
| 寸法 | 重力式コンクリート造堰堤、堤長69メートル、堤高17メートル、表面は間知石の谷積 |
| 所有者 | 国(国土交通省) |
| 公開状況 | 屋外・常時見学可(榛名神社本社から徒歩約5分、料金不要) |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁) — 榛名川上流砂防堰堤
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00005581
- 文化遺産オンライン(文化庁) — 榛名川上流砂防堰堤
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/196579
- 高崎市文化財情報 — 榛名神社および周辺の登録文化財
- https://www.city.takasaki.gunma.jp/site/cultural-assets/4631.html
最終更新日: 2026.08.08