一室ほどの大きさの神殿

谷川の旧主屋の北、南を向いて、登録された建造物のなかでもとりわけ小さな一棟が建つ。建築面積およそ7.3平方メートル、天照皇大神を祀る神殿である。切妻造の平入で、屋根は割竹の押縁で押さえた杉皮葺、外壁は周囲の建物と同じく杉皮張仕上。正面と、側面の正面寄りに板戸を建てる。内部は一室で、その幅いっぱいに上壇を構えて祭壇とする。天井もまた割竹の竿縁に杉皮張と、意匠を通している。

この建物の名は「廣池千九郎谷川記念館神壇」。昭和11年(1936年)に建てられ、昭和40年代に改修された。小さいながら、周囲の大きな建物と同じ素朴な語彙でつくられており、同じ山の杉から生えた小さな社殿のような趣がある。

学者の療養地に置かれた信仰

私的な温泉の療養地になぜ神殿があるのか。それを解く鍵は、ここを使った人物の幅にある。廣池千九郎は歴史と法学で早くに名を成したが、伊勢の神宮皇學館で教鞭を執り、神道史を講じ、そこから宗教の実際を深く研究するに至った。のちに提唱した道徳の体系にも、その素地が流れ込んでいる。暮らし療養した場所のすぐ北に、天照皇大神を祀る小さな神殿が置かれていることは、その生涯のなかに無理なく収まる。

神壇は令和7年(2025年)3月13日、「国土の歴史的景観に寄与しているもの」を基準として登録有形文化財に登録された。旧主屋や大穴の建物とひとまとまりに扱われることで、この地の全体像が見えてくる。休むための場、働くための場、そして静かに拝するための場が、同じ材と同じ抑えた手つきで築かれている。登録はその群としてのまとまりを崩さず、そのまま残そうとしている。

訪れて見るべきところ

この神殿の面白さは、その寸法にある。大きな社殿が備えるものが、ここでは凝縮されている。幅いっぱいの上壇、板戸、丁寧な杉皮の表面。それらが、多くの居室より小さな面積に収まっている。割竹の押縁が屋根をどう押さえているのか、建物が低く手近なので、間近に読み取れる。

神殿の慣例どおり南を向いて建つその前に立つと、供をなすべく建てられた旧主屋が見通せる。二棟は一組であり、見学もこれを一対として受けとめることになる。谷川・大穴の両記念館は入館無料、開館はおおむね7時から16時で、休館日は不定。山へ登る前に確認しておくのが賢明だ。

Q&A

Q何が祀られていますか。
A天照皇大神です。内部の一室に、幅いっぱいの上壇を構えて祭壇としています。
Qなぜ温泉の療養地に神殿があるのですか。
A廣池千九郎は神道史を講じて研究し、その思想に宗教的な実践の場を位置づけていました。療養の居所のそばに小さな神殿があることは、その生涯に沿っています。
Qどのくらいの大きさですか。
A建築面積はおよそ7.3平方メートルで、国の登録有形文化財のなかでも小さな部類に入ります。昭和11年(1936年)建築、昭和40年代に改修されています。
Q割竹の押縁は何のためですか。
A杉皮葺の屋根を押さえるためのものです。同じ手法が内部の天井にも使われ、小さな社殿に一貫した手づくりの表情を与えています。
Q見学できますか。
A谷川記念館の一部として見学できます。入館無料、開館はおおむね7時から16時、休館日は不定のため事前にご確認ください。

基本情報

名称廣池千九郎谷川記念館神壇
所在地群馬県利根郡みなかみ町谷川字上原557-1他
指定区分登録有形文化財(建造物)/令和7年(2025年)3月13日登録
登録番号10-0360
年代・改修昭和11年(1936年)/昭和40年代改修
構造・員数木造平屋建、杉皮葺、建築面積7.3㎡/1棟
所有者公益財団法人モラロジー道徳教育財団
公開状況入館無料/開館おおむね7:00〜16:00、休館日不定

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁) — 廣池千九郎谷川記念館神壇
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00015286
文化遺産オンライン — 廣池千九郎谷川記念館神壇
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/616150
モラロジー道徳教育財団 — 登録の官報掲載について
https://www.moralogy.jp/post-44265/
モラロジー道徳教育財団 創立100周年サイト — 登録に関する新着情報
https://moralogy-100th.jp/news/100/

最終更新日: 2026.07.04