谷川の木立に建つ旧主屋
谷川温泉の木立のなかに、麗澤館と呼ばれる旧療養施設が建つ。平屋建切妻造の主屋で、東の端に浴場を接続する。だから居室と浴場は、木々の下でひと続きの長く低い姿として目に入る。大穴と同じく、屋根は杉皮の上にさらに杉皮を重ねた二重葺で、それがこの建物に意図された毛羽立った質感を与える。内部は十二畳半と七畳半の続き間座敷で、西面に床を構え、天井は割竹の押縁に杉皮張。建築面積はおよそ94平方メートルと、2025年に一括登録されたみなかみの4件のなかで最も大きい。
正式名称は「廣池千九郎谷川記念館麗澤館(旧主屋及び旧浴場)」。昭和11年(1936年)に建てられ、昭和40年代に改修された。廣池千九郎が谷川の山中で過ごし、仕事を続けた場所である。
学者の家と、受け継がれた名
廣池千九郎がこの山に至ったのは、長い学者の歩みの果てだった。ほとんど独学で、国家的大事業だった大百科事典『古事類苑』の編纂に加わり、早稲田大学で講じ、大正元年(1912年)には東洋法制史の研究によって東京帝国大学から法学博士の学位を得た。その分野の開拓に大きく寄与した人である。晩年は自ら「モラロジー」と名づけた道徳の研究へ、そしてそれを継ぐ学校と財団へと向かった。それらの学校が今も掲げる「麗澤」の名は、彼の生涯に繰り返し現れる。木立のこの家を呼ぶ名も、同じ二文字である。
旧主屋は令和7年(2025年)3月13日、「国土の歴史的景観に寄与しているもの」を基準として登録有形文化財に登録された。ここに残されたのは壮麗な別荘ではなく、働くための隠れ家である。休み、考えるための座敷、地元の源泉を引いた浴場。いずれも山の杉から質素に組み上げられている。隣の神壇、そして町を隔てた大穴の建物とひとまとまりに扱われ、学者が晩年を過ごした地の中心をなしている。
訪れて見るべきところ
内部では、十二畳半と七畳半の続き間が、慎ましい家をいかに休息と思索の双方へ整えたかを見せる。西壁の床が、その空間の正式な焦点を示す。天井を見上げる価値もある。割竹の押縁の下に杉皮という、両所のすべての建物を貫く手づくりの面がここにもある。
外に出れば、主屋の東端で浴場がどう接続しているかに目を留めたい。この隠れ家全体が湯を中心に組まれていたことの証しである。家は木立に囲まれ、その静けさもまた体験の一部だ。谷川・大穴の両記念館は入館無料、開館はおおむね7時から16時で、休館日は不定。令和4年(2022年)に発足した保存委員会が建物の記録と修理を進めており、訪れるたびに細部が変わることもある。登る前に開館を確かめておきたい。
Q&A
- 「麗澤」とはどういう意味ですか。
- 廣池千九郎の生涯に繰り返し現れる名で、財団に連なる学校が今も掲げています。この旧主屋を呼ぶ名も、同じ二文字です。
- この建物は何に使われましたか。
- 廣池が谷川に滞在した時期の療養と生活の場でした。東側に地元の温泉を引いた浴場が接続しています。
- どのくらいの大きさですか。
- 建築面積はおよそ94平方メートルで、2025年に登録されたみなかみの4件で最大です。内部は十二畳半と七畳半の続き間です。
- 廣池千九郎とはどのような人物ですか。
- 東洋法制史を開拓した法学者で、大正元年(1912年)に法学博士となり、のちに道徳の研究「モラロジー」を提唱しました。晩年をこの山中で療養して過ごしました。
- 見学できますか。
- 谷川記念館の一部として見学できます。入館無料、開館はおおむね7時から16時、休館日は不定のため事前にご確認ください。
基本情報
| 名称 | 廣池千九郎谷川記念館麗澤館(旧主屋及び旧浴場) |
|---|---|
| 所在地 | 群馬県利根郡みなかみ町谷川字上原557-1他 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物)/令和7年(2025年)3月13日登録 |
| 登録番号 | 10-0359 |
| 年代・改修 | 昭和11年(1936年)/昭和40年代改修 |
| 構造・員数 | 木造平屋建、杉皮葺、建築面積94㎡/1棟 |
| 所有者 | 公益財団法人モラロジー道徳教育財団 |
| 公開状況 | 入館無料/開館おおむね7:00〜16:00、休館日不定 |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁) — 廣池千九郎谷川記念館麗澤館
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00015285
- 文化遺産オンライン — 廣池千九郎谷川記念館麗澤館(旧主屋及び旧浴場)
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/622419
- モラロジー道徳教育財団 — 登録の官報掲載について
- https://www.moralogy.jp/post-44265/
- モラロジー道徳教育財団 — 登録有形文化財への答申について
- https://www.moralogy.jp/post-43868/
最終更新日: 2026.07.04