二枚の橋歴板が示す、二つの時代の鋼

わたらせ渓谷鐵道不動沢橋梁は、群馬県桐生市黒保根町水沼にある大正元年(1912年)竣工の鉄道橋で、平成21年(2009年)に登録有形文化財となった。水沼駅の南西、鳥居沢と不動沢が合流する地点に架かる。橋長16メートル、単線仕様の鋼製2連桁橋である。

桁の組み合わせが変わっている。文化庁データベースによれば、一方は「達第1084号型」のプレートガーダー、もう一方はイギリスのドーマンロング社製鋼材を用いた「達第875号型」のIビーム。規格の異なる二種類の桁が一つの橋に並ぶ。桐生市の調査では橋歴板が二枚残り、一枚は明治44年(1911年)に大阪の汽車製造合資会社が製造したこと、もう一枚は鉄道省が発注し昭和8年(1933年)に東京石川島造船所が製作、昭和9年(1934年)に竣工したことを記す。文化庁データベースは昭和12年(1937年)の改修を記録している。

下部は割石積の橋台二基と橋脚一基で、橋台と橋脚の一部にはフランス積風の布積が残る。

近代の鉄と石が、そのまま置かれている

わたらせ渓谷鐵道不動沢橋梁が示すのは、大正の鉄道建設が輸入鋼材と国産の技術を組み合わせて進められたという事実である。イギリス製の鋼材に日本の規格番号が付き、大阪でつくられた桁が渡良瀬の谷に据えられ、二十年余りのちに東京でつくられた桁が加わった。橋歴板がそれを一枚ずつ記録している。

路線の鉄道施設は平成21年(2009年)11月2日に一括して登録有形文化財となり、告示は同月19日である。桐生から間藤までの38施設が対象で、2県にまたがる全線の登録は全国で初めてとなった。登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」。平成28年(2016年)には施設群が土木学会選奨土木遺産にも認定された。足尾銅山の鉱石輸送のために敷かれた路線が、閉山から半世紀を経てなお使われていることが、これらの構造物を今日まで残した。

間近に立てる、数少ない一基

わたらせ渓谷鐵道不動沢橋梁の特徴は、近くから見られることにある。運行会社のパンフレットは、この橋を間近に見ることのできる数少ない一基と紹介する。桐生市の説明では、渡良瀬川右岸、水沼駅の南にある黒保根公園の入口付近から望見できる。橋桁のリベットや、割石を積んだ橋台の目地まで、距離を置かずに見わたせる。

列車からは、水沼駅を桐生方面へ出てわずか約15秒、本宿駅からなら約4分半で視界に入る。季節でいえば、春は黒保根運動公園の桜が咲き、夏は沢の水面が近い。橋の東およそ600メートルには水沼沢橋梁、南へ約520メートルには江戸川橋梁があり、いずれも同じ日に登録されている。

見学方法

わたらせ渓谷鐵道不動沢橋梁は現役の鉄道施設で、橋上や軌道敷に立ち入ることはできない。一方で、公道からの見学は路線でも容易なほうである。水沼駅で下車し、渡良瀬川右岸を南へ歩けば橋に近づける。水沼駅には温泉施設が併設され、待ち時間の使いようがある。

列車で通り過ぎるだけなら、トロッコ列車も水沼駅に停車する。乗車には乗車券のほかトロッコ整理券(2026年9月1日から大人700円、小児350円)が必要である。一日フリーきっぷは大人1,880円、小児940円。公道からの撮影に制限はないが、無人航空機による軌道敷や列車の空撮は全面的に禁止されている。きっぷの案内は公式サイトにある(料金は2026年9月13日時点)。

Q&A

Qわたらせ渓谷鐵道不動沢橋梁は近くから見られますか。
A見られます。桐生市によれば、水沼駅の南、渡良瀬川右岸の黒保根公園入口付近から望見できます。路線でも間近に見られる数少ない橋の一つです。
Qわたらせ渓谷鐵道不動沢橋梁の橋歴板には何が書かれていますか。
A二枚あり、一枚は明治44年(1911年)に大阪の汽車製造合資会社が製造したこと、もう一枚は昭和8年(1933年)に東京石川島造船所が製作し昭和9年(1934年)に竣工したことを示します。
Qわたらせ渓谷鐵道不動沢橋梁の長さと構造は。
A橋長16メートルの鋼製2連桁橋です。「達第1084号型」のプレートガーダーと、ドーマンロング社製鋼材による「達第875号型」のIビームからなります。
Qわたらせ渓谷鐵道不動沢橋梁は列車のどのあたりで見えますか。
A水沼駅を桐生方面へ出て約15秒、本宿駅から間藤方面へ向かう場合は約4分半で見えはじめます。
Qわたらせ渓谷鐵道不動沢橋梁を見るのに向く季節は。
A春は近くの黒保根運動公園の桜が咲き、夏は沢の水辺が涼しく感じられます。落葉期は橋の構造がよく見通せます。

基本情報

名称わたらせ渓谷鐵道不動沢橋梁
所在地群馬県桐生市黒保根町水沼
指定区分登録有形文化財(建造物)
指定年平成21年(2009年)登録
員数1基
寸法橋長16メートル
所有者文化庁データベースに記載なし。路線はわたらせ渓谷鐵道株式会社が運行
公開状況非公開。橋上へは立ち入り不可、公道と車窓から見学可

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)/わたらせ渓谷鐵道不動沢橋梁
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00007865
桐生市/国登録文化財 わたらせ渓谷鐵道(6件)
https://www.city.kiryu.lg.jp/kankou/bunkazai/1010700/kunitouroku/1009117.html
わたらせ渓谷鐵道株式会社/登録有形文化財パンフレット「車窓の旅 鉄道文化財めぐり」
https://www.watetsu.com/assets/pdf/sightseeing/culture_yukei_des02.pdf
わたらせ渓谷鐵道株式会社/お得な一日フリーきっぷ
https://www.watetsu.com/rail-info/ticket_1dayfree.php

最終更新日: 2026.09.13