時報塔 ― 100年を超えて時を告げ続ける大正の鐘楼
広島県東広島市志和町志和堀地区の中央に、ひときわ存在感を放つコンクリート造りの塔が建っています。それが「時報塔(じほうとう)」です。大正11年(1922年)に建設されたこの高さ7.8メートルの鐘楼は、平成9年(1997年)に国の登録有形文化財に登録されました。「覚醒の鐘(かくせいのかね)」「鐘撞堂(かねつきどう)」の愛称で地域に親しまれ、建設から一世紀以上が経った今も、1日5回サイレンで時を知らせ続けています。
太平洋を越えて届いた鐘 ― 時報塔誕生の物語
時報塔の誕生は、遠くアメリカと深い縁で結ばれています。大正時代、旧志和堀村出身でアメリカに在住していた15名の方々が、故郷の在郷軍人会志和堀分会が掲げる「定時励行」の趣旨に賛同し、米国製の鐘を寄贈しました。この貴重な鐘を受けて、地元の人々が力を合わせて建設したのが時報塔です。
切石積みの基壇の上に建てられた塔は、完成と同時に村の「時の番人」となりました。鐘の音が田畑や家々の屋根を越えて響きわたり、人々の暮らしのリズムを刻んできたのです。海を渡った同郷の想いと、それを受けとめた村の絆が形になった建造物と言えるでしょう。
田園風景の中のアールデコ
時報塔の大きな特徴は、その独特な意匠にあります。鉄筋コンクリート造でありながら、壁面には凹凸が施され、石造りのような重厚な質感が表現されています。さらに注目すべきは、当時世界的に流行していたアールデコ様式を取り入れた装飾です。幾何学的なパターンと直線的なデザインは、1920年代のパリやニューヨークから農村の広島にまで届いた国際的な美意識の波を物語っています。
塔の四面には「時ハ金」「定時勵行」「時間節約」といった標語が刻まれており、大正時代の近代化に向けた気概を今に伝えています。これらの文字は単なる装飾ではなく、当時の社会が目指していた理想を記録した貴重な文化的資料でもあります。
塔の上部は木造で、日本風の屋根が載せられています。コンクリートとアールデコの西洋的な意匠に和風の屋根が組み合わさった和洋折衷のデザインは、大正という時代ならではの自由で開放的な建築精神を感じさせます。
なぜ登録有形文化財に登録されたのか
時報塔が平成9年(1997年)9月3日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された背景には、いくつかの重要な価値が認められています。
第一に、農村部における大正期の鉄筋コンクリート建造物として非常に希少な存在であることです。都市部にはこの時代のコンクリート建築が残っている例はありますが、小さな農村にこのような構造物が現存していることは、近代建築技術が地方にどのように伝播したかを示す貴重な事例です。
第二に、アールデコ風の装飾や石造風の壁面処理など、1920年代の国際的な建築潮流を反映した意匠的価値があります。壁面に刻まれた標語もまた、大正期の社会思潮を今に伝える歴史的資料として高く評価されています。
第三に、アメリカに渡った同郷の人々が鐘を寄贈し、地元がそれに応えて塔を建設したという物語そのものが、近代日本における国際的な人的交流と地域の絆を示す文化的遺産として意義深いものです。
そして第四に、昭和17年(1942年)頃にサイレンが追加され、平成12年(2000年)に解体修理が行われた後も、現在に至るまで時報塔として機能し続けている「生きた文化財」であることが、その価値をさらに高めています。
見どころと楽しみ方
時報塔の魅力は、近くでじっくりと観察することで深まります。凹凸をつけて石造り風に仕上げられたコンクリートの壁面、アールデコ調の幾何学文様、そして四面に刻まれた大正時代の標語——それぞれが100年以上前の職人技と時代の空気を伝えています。
特におすすめなのは、サイレンが鳴る時間帯(7:00、10:00、12:00、15:00、17:00の1日5回)に合わせた訪問です。塔が本来の役割を果たす瞬間に立ち会うことで、一世紀にわたって村の暮らしのリズムを刻んできた時報塔の存在意義を肌で感じることができるでしょう。
時報塔が建つ志和堀地区は、昔ながらの農村の風景が残る静かな集落です。塔のすぐ近くにはレトロな雰囲気の酒蔵もあり、煙突には「美酒 千代乃春」の文字が見られます。東広島らしい酒造りの風景と大正期の文化財が溶け合った、趣のある散策が楽しめます。
周辺情報
時報塔を訪れた後は、東広島エリアの多彩な魅力をぜひ味わってください。
最も有名な見どころは、JR西条駅周辺に広がる「西条酒蔵通り」です。西条は兵庫の灘、京都の伏見と並ぶ日本三大銘醸地のひとつとして知られ、現在も7社の蔵元が酒造りを続けています。赤煉瓦の煙突、白壁となまこ壁が織りなす独特の景観を楽しみながら、試飲や仕込み水の試飲を体験できます。経済産業省の「近代化産業遺産群」にも認定されている歴史的な町並みです。
また、安芸国分寺歴史公園では奈良時代の寺院跡を散策でき、高屋町の白市地区には江戸時代から昭和初期にかけての町家が残る風情ある町並みが広がっています。春には志和みはらし公園が桜の名所として賑わい、志和エリア全体を見渡す絶景が楽しめます。
東広島市は広島大学のキャンパスタウンでもあり、若々しい活気と国際色豊かな飲食店も充実しています。伝統文化と現代的な魅力が共存する町をゆっくりと巡ってみてはいかがでしょうか。
Q&A
- 時報塔のサイレンは今も鳴っていますか?
- はい、現在も毎日5回(7:00、10:00、12:00、15:00、17:00)サイレンが鳴っています。訪問の際はこの時間帯に合わせると、塔が時を告げる瞬間を体験できます。
- 見学に入場料はかかりますか?
- いいえ、時報塔は志和堀地区の中央に建っており、いつでも自由に外観を見学できます。塔の内部には入ることができません。
- 公共交通機関でのアクセス方法は?
- JR山陽本線八本松駅から志和循環線バスに乗車し、約25分で「志和堀」バス停に到着します。そこから徒歩約5分です。車の場合は、山陽自動車道志和ICから約15分です。
- 駐車場はありますか?
- 専用駐車場はありませんが、周辺に車を停められるスペースがあります。訪問前に東広島市教育委員会文化課(082-420-0977)にお問い合わせいただくと安心です。
- おすすめの訪問時期はいつですか?
- 一年を通じて見学可能です。春の桜の季節や秋の紅葉の時期は、志和堀の田園風景が特に美しく、時報塔との調和を楽しめます。
基本情報
| 名称 | 時報塔(じほうとう) |
|---|---|
| 別称 | 覚醒の鐘(かくせいのかね)、鐘撞堂(かねつきどう) |
| 種別 | 登録有形文化財(建造物) |
| 登録日 | 平成9年(1997年)9月3日 |
| 建設年 | 大正11年(1922年) |
| 構造 | 鉄筋コンクリート造(上部は木造)、高さ7.8m |
| 所在地 | 広島県東広島市志和町志和堀字二ノ平3324-7 |
| 所有者 | 東広島市 |
| 入場料 | 無料(外観見学のみ) |
| アクセス | 山陽自動車道志和ICから車で約15分/JR八本松駅から志和循環線バスで約25分、「志和堀」バス停下車徒歩約5分 |
| お問い合わせ | 東広島市教育委員会 生涯学習部 文化課 文化財係 TEL: 082-420-0977 |
参考文献
- 登録有形文化財 時報塔 - 東広島市
- https://www.city.higashihiroshima.lg.jp/soshiki/kyoikuiinkaishogaigakushu/3/11/bunkazai/town/shiwa/39713.html
- 時報塔 - 文化遺産オンライン(文化庁)
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/180223
- 時報塔 | 東広島市観光協会
- https://hh-kanko.ne.jp/sightseeing/273/
- 時報塔 - Wikipedia
- https://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%99%82%E5%A0%B1%E5%A1%94
- 時報塔 | ひろしま観光ナビ
- https://dive-hiroshima.com/explore/1197/
- 時報塔、東広島市に大正から残るレトロな塔は国の登録有形文化財 | tabetainjya.com
- https://tabetainjya.com/archives/cat43/post_2815/
最終更新日: 2026.03.26