土管工場から市場へ
旧肥田製陶工場(EBRI)は、北海道江別市東野幌町にある昭和26年(1951年)頃建設の煉瓦造・鉄筋コンクリート造平屋建の工場建築で、平成31年(2019年)3月29日に国の登録有形文化財に登録された。旧ヒダ工場とも呼ばれる。
JR函館本線の車窓から、江別で最初に目に入る建物がこれである。野幌駅のすぐ西、線路と平行に長い煉瓦の側面が伸び、屋根の上に煙突が一本立つ。文化財として保護される以前から、市民にとっては位置を測る目印だった。
現在、内部にはパン屋、焙煎所、ワインショップ、青果店、イベントフロアなどが入る。煉瓦の壁はそのまま露出させてある。見上げれば小屋組が見え、木造トラスが幅いっぱいに架かって金属板葺の切妻屋根を支えている。
火災と再建、そして土管の商い
江別の煉瓦づくりは明治24年(1891年)にさかのぼる。明治30年代には北海道炭礦鉄道会社が野幌に煉瓦工場を置いた。野幌丘陵の粘土、空知の石炭、札幌へつながる鉄道。この三つが揃ったことで、江別は道内の窯業の中心地になっていった。
肥田房二が愛知県常滑市から移り、東野幌に土管の製造工場を設けたのは昭和16年(1941年)である。常滑もまた土管の産地で、粘土を扱う技術を携えての移住だった。昭和22年5月に肥田製陶株式会社となり、房二が初代社長に就いた。つくっていたのは器ではなく、排水用・井戸用のリブ管、集合煙突用の素焼管、セラミックブロックといった産業用の製品である。
昭和26年6月、工場が火災で焼失した。いま来訪者が歩いている建物は、その後に建て直されたものだ。すべてを失った直後の会社が、あらためて煉瓦で組み直すことを選んだ結果が、昭和26年から28年にかけての再建・増設だった。
その後の歩みは、一度の持ち直しを挟んだ緩やかな縮小である。昭和46年2月に社名を株式会社ヒダへ改称。昭和52年12月に工場としての操業を中止。昭和50年代後半にはオール電化住宅向けの蓄熱れんが製造で再稼働したものの、平成10年3月に自主廃業した。江別市が土地と建物を取得したのは平成12年10月、建物を残すためである。
登録が評価したもの
登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」。文化庁の解説文が着目しているのは、この建物の均整ではなく、むしろ不揃いさである。
先に建った煉瓦造の部分はT字型平面をもつ。そこへ昭和28年頃、L字型平面の鉄筋コンクリート造増築部が連なった。結果として生まれた輪郭は、はじめから設計すれば決して描かれない形をしている。ところが施工者は、増築部の壁を煉瓦積として仕上げた。新旧二つの工事が、外から見ると一つの建物として読める。窯業会社が外観のために下したこの判断が、線路沿いの長い側面がいまも途切れなく見える理由になっている。
建築面積は文化庁のデータベースで1300平方メートル、江別市の記録では1階1,291.03平方メートルとされる。屋根の骨組みは、煉瓦造部分も増築部分も木造トラスである。
煙突には別の経緯がある。江別市は平成15年2月から3月にかけて煉瓦造の屋外煙突をいったん解体し、同年6月から8月にかけて復元した。したがって現在立っているのは復元されたものであり、創建当初のまま残ったわけではない。平成21年2月に近代化産業遺産、平成31年3月に登録有形文化財、令和2年7月には第17回公共建築賞の地域特別賞を受けている。
EBRIを訪ねる
建物が商業施設「EBRI(エブリ)」として全面開業したのは平成28年3月である。平成26年に江別市が保存活用の事業者を公募して選定し、20年間の使用賃借契約を結んだ。改修工事は平成27年の後半に行われた。名称は江別(EBETSU)と煉瓦(BRICK)を組み合わせた造語である。
入館料はない。商店街に入るのと同じように歩いて入れて、文化財はそのまま買い物をする空間になっている。営業時間は建物ではなく各テナントが定めているため、建築を目的に訪ねるなら事前に公式サイトを確認しておきたい。週末はイベントフロアが催事で埋まることも多い。
交通は分かりやすい。JR函館本線の野幌駅南口から徒歩5分。夕鉄バス江別・札幌線なら野幌バスターミナルまたは野幌東町から徒歩2分。野幌は札幌駅から快速でおよそ20分の距離にある。
内部の撮影は、共用部の煉瓦壁や小屋組についてはおおむね受け入れられている。ただし商品や陳列の撮影は各店が方針を定めているので、まず店頭でひと声かけたい。外観の撮影に制限はない。西日が回る夕方、線路側の壁の煉瓦がいちばん温かい色に見える。
ゆっくり歩く価値のある場所を二つ挙げておく。ひとつは内壁をたどって煉瓦の表情が変わる地点。そこが昭和26年の建物と増築部の継ぎ目である。もうひとつは、外に出て同じ継ぎ目を探すこと。外側では煉瓦積の仕上げによって、その境目が消してある。
Q&A
- 旧肥田製陶工場(EBRI)の内部に入ることはできますか。入館料は必要ですか。
- 入れます。入館料はかかりません。建物は商業施設EBRIとして営業しており、営業時間内であれば自由に入館できます。時間は建物ではなく各店舗が定めているため、公式サイトでの事前確認をおすすめします。
- 旧肥田製陶工場(EBRI)へは札幌からどう行きますか。
- JR函館本線で野幌駅へ向かい、南口から徒歩5分です。札幌駅から快速でおよそ20分。夕鉄バス江別・札幌線を使う場合は、野幌バスターミナルまたは野幌東町から徒歩2分です。
- 旧肥田製陶工場(EBRI)はなぜ登録有形文化財になったのですか。
- 平成31年3月、国土の歴史的景観に寄与するものとして登録されました。昭和26年頃のT字型平面の煉瓦造に、昭和28年頃のL字型平面の鉄筋コンクリート造増築部を連ね、増築部の壁を煉瓦積として外観に一体感を与えた点が評価されています。
- 旧肥田製陶工場では何を製造していたのですか。
- 食器ではなく産業用の窯業製品です。排水用・井戸用のリブ管、集合煙突用の素焼管、セラミックブロックなどを生産していました。昭和50年代後半からはオール電化住宅用の蓄熱れんがも製造し、平成10年に廃業しています。
- 旧肥田製陶工場(EBRI)の煙突は創建当時のものですか。
- いいえ。江別市の記録によれば、煉瓦造の屋外煙突は平成15年2月から3月に解体され、同年6月から8月に復元されました。現在立っているのは復元された煙突です。
基本データ
| 名称 | 旧肥田製陶工場(EBRI)(きゅうひだせいとうこうじょう) |
|---|---|
| 所在地 | 北海道江別市東野幌町3-3他 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) 登録番号 01-153 |
| 指定年 | 平成31年(2019年)3月29日登録・同日告示 |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 煉瓦造及び鉄筋コンクリート造平屋建、金属板葺、建築面積1300平方メートル(江別市記録では1階1,291.03平方メートル)。屋根は木造トラス構造 |
| 所有者 | 江別市 |
| 公開状況 | 商業施設EBRIとして無料公開。営業時間は各テナントによる |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース 旧肥田製陶工場(EBRI)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00012673
- 文化遺産オンライン 旧肥田製陶工場(EBRI)
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/379667
- 江別市公式ホームページ 旧ヒダ工場
- https://www.city.ebetsu.hokkaido.jp/soshiki/kanko/2240.html
- EBRI 公式サイト
- https://www.ebri-nopporo.com/
最終更新日: 2026.08.27