米国の建築書を頼りに建てられた開拓使の庁舎
旧開拓使工業局庁舎は、明治10年(1877年)に建てられた木造二階建ての建物である。屋根は寄棟造でこけら葺き、正面には玄関ポーチが付き、建築面積は178.48平方メートル。規模そのものは大きくないが、細部に目を向けると見どころが多い。建てた大工たちは、米国から輸入された建築の雛形書を手がかりに、実物を見たことのない装飾や納まりを写し取っていった。
もともとは札幌の市街中心部、いまの地下鉄大通駅のあたりに建っていた。現在は札幌市東部の野外博物館「北海道開拓の村」に移され、当時の姿のまま室内まで歩いて見学できる。
北海道開拓を担った開拓使と工業局
明治2年(1869年)、新政府は北海道の開拓を進めるために開拓使を置いた。開拓使は米国人を中心とする外国人技術者を雇い、農業や測量、建築の手法を米国に学んだ。その中で明治6年(1873年)に設けられた工業局は、道路・橋梁・官庁・学校の建設から、家材・機械・農具・車両の製造まで、幅広い仕事を引き受けていた。
この建物は、その工業局の庁舎として使われた。設計や営繕にあたった営繕課は、輸入された建築書を読み込み、書物の中の様式を札幌の材料と職人の技術に置き換えながら洋風建築を習得していった。
開拓使は明治15年(1882年)に廃止され、関係する工作場や庁舎の多くはのちに取り壊された。工業局の工作場に連なる建物としては、これが現存する唯一の遺構となっている。
重要文化財に指定された理由
この庁舎は平成25年(2013年)8月7日に重要文化財へ指定された。評価された点は二つある。一つは、北海道の開拓を支えた工業局工作場の現存唯一の遺構であること。もう一つは、営繕課がどのように設計の仕事を進めていたか、その実態を建物自体が示している点である。
明治期には洋風を模した建築が各地に建てられたが、参照した書物と、そこから写し取った過程まで読み取れる建物は多くない。この具体性が、歴史を研究するうえで高い価値を持つ。
注目したい細部
輸入された雛形書の影響は、いくつかの箇所にはっきりと現れている。平面の中心には、玄関から奥へ通り抜けられるホールがあり、これが階段室を兼ねている。当時の米国の住宅や公共建築でよく見られた構成をそのまま取り入れたものだ。屋根の上には棟飾りが置かれる。
ポーチにも目を留めたい。破風には彫り飾りがあり、軒の下には張り出しを受ける小さな持送りが並ぶ。いずれも構造上どうしても必要なものではなく、印刷された図案を、見よう見まねで木に起こした「引用」である。
室内が公開されているため、通り抜けのホールが人の動きをどう導くかも実際に確かめられる。玄関から階段へまっすぐ視線が抜ける造りの中に立つと、明治10年代に図面を抱えて二階へ上がっていった役人や製図工の姿が思い浮かぶ。
見学と周辺の楽しみ方
庁舎が建つ北海道開拓の村は、道内各地の明治から昭和初期にかけての建物五十数棟を集めた野外博物館である。野幌森林公園の中に約54ヘクタールの敷地が広がり、市街地・農村・漁村・山村の四つの区画に分かれている。
暖かい季節には目抜き通りを馬車鉄道が走り、冬は馬そりに変わる。春から秋にかけては数か所の建物にボランティアガイドが立ち、一週間ほど前に申し込めば英語での解説も頼める。入口付近には旧札幌停車場を再現した建物や旧開拓使札幌本庁舎などもあり、あわせて見て回りたい。
行き方は分かりやすい。JRまたは地下鉄東西線で新札幌・新さっぽろへ出て、新札幌バスターミナルから「開拓の村」行きのJR北海道バスに乗ると、約20分で終点に着く。数百台分の無料駐車場もある。
Q&A
- 建物の中に入れますか。
- 入れます。庁舎は北海道開拓の村の一部として室内まで公開されており、玄関ホールや各室を歩いて見学できます。
- もとはどこに建っていたのですか。
- 札幌の市街中心部、いまの大通あたりです。昭和54年(1979年)に開拓の村の敷地へ移築され、野外博物館は昭和58年(1983年)に開村しました。
- どこに価値があるのですか。
- 開拓使工業局の工作場に連なる現存唯一の建物であり、明治の職人が米国の建築書を写し取った様子が装飾に直接読み取れる点にあります。
- どうやって行けばよいですか。
- 新札幌から「開拓の村」行きのJR北海道バスに乗り、約20分で終点下車、入口まで徒歩1分です。
- 見学にはどのくらい時間がかかりますか。
- 敷地が広く五十数棟が点在するため、半日が目安です。ゆっくり巡りたい場合は丸一日みておくとよいでしょう。
基本情報
| 名称 | 旧開拓使工業局庁舎 |
|---|---|
| 所在地 | 北海道札幌市厚別区厚別町小野幌(北海道開拓の村内) |
| 指定区分 | 重要文化財 平成25年(2013年)8月7日指定 |
| 建築年 | 明治10年(1877年)、当初は札幌市街中心部 |
| 構造 | 木造、二階建、寄棟造、こけら葺、玄関ポーチ付、建築面積178.48平方メートル |
| 員数 | 1棟 |
| 所有者 | 北海道 |
| 開村時間 | 9:00〜17:00(5月〜9月)、9:00〜16:30(10月〜4月)。最終入村は閉村30分前 |
| 休村日 | 10月〜4月の月曜(祝日の場合は翌日)、12月29日〜1月3日。5月〜9月は無休 |
| 入村料 | 大人1,000円程度、中学生以下は無料。最新の料金は公式サイトで確認のこと |
参考文献
- 文化遺産オンライン(国立文化財機構)
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/278580
- 国指定文化財等データベース(文化庁)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/102/00004621
- 北海道開拓の村(公式サイト)
- https://www.kaitaku.or.jp/
- 北海道開拓の村 ご利用案内
- https://www.kaitaku.or.jp/userguide/
最終更新日: 2026.06.04