野幌の丘に建つ林業試験の庁舎

北海道林木育種場旧庁舎は、北海道江別市文京台緑町にある昭和2年(1927年)11月竣工の林業研究施設で、平成13年(2001年)8月28日に国の登録有形文化財に登録された。

江別市の資料によれば、工事費は約13万5千円、工期は8か月。この規模の2階建としては短い工期だが、材料は惜しまれていない。昭和10年代の戦時体制で建築資材の質が落ちる前に建てられた点は、この建物を語るうえで外せない条件である。

試験機関そのものは建物より古い。明治41年(1908年)、札幌郡江別村字志文別(現在の西野幌)に内務省所管の林業試験場が創設され、3,426ヘクタールの試験林を抱えて森林の育成と経営の研究を進めていた。昭和2年、その拠点が現在地の高台へ移り、新しい庁舎が北方林業研究の中心となる。文化庁の解説は「北海道庁林業試験場として建設」と記し、江別市の年表は「内務省林業試験場北海道支場庁舎」とする。表記の違いは、戦前期の林業試験行政が何度も所管替えを重ねた事情によるものと考えられる。

名称はその後も変わり続けた。昭和8年に内務省北海道林業試験場、昭和22年に農林省林業試験場札幌支場、そして昭和32年4月から林野庁北海道林木育種場。現在の登録名はこの時期に由来する。優良品種の開発、のちには樹木遺伝子を用いた研究がこの建物で続けられ、平成8年(1996年)3月、隣接地に新庁舎が完成したことで庁舎としての役目を終えた。

登録の理由と建築的な価値

登録番号は01-0030。登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」である。理由は現地に立てばすぐに分かる。建物は野幌森林公園の北端の高台にあり、白い上層部が石狩平野の平坦な景観のなかで目印として働いている。

構造は混構造で、そこが見どころでもある。1階は煉瓦組積造。2階と小屋裏は木造で、大正から昭和初期に流行したハーフティンバー風の意匠にまとめられている。外装はモルタル洗出。屋根は鉄板葺で、小屋組はクイーンポストトラス風に組まれている。

文化庁のデータは建築面積744平方メートル。江別市は階ごとに数字を出していて、1階743.64平方メートル、2階649.12平方メートル、小屋裏139.12平方メートル、延べ1,531.88平方メートルとなる。1920年代の北海道の研究機関としては相当な規模である。

内部の造作もよく残る。林業試験場の庁舎として建てられた経緯から、木製ドア、腰壁板、木製窓枠が全体に用いられ、天井、壁、階段手すりにも、実験施設として必要な水準を超えた意匠が施されている。

訪ねたときに見ておきたいところ

まず石積みの門柱をくぐる。少し離れた位置から庁舎正面を切り取る額縁のような役割を果たしていて、坂を上がる前に一度立ち止まりたい。

正面に回ると、目が行くのは上下階の対比だろう。重い煉瓦の基部と、その上に載る軽い木の骨組み。淡い洗出仕上げの壁面に、濃い色の木材が格子を描く。側面へ回れば窓の性格が変わり、いまの建築ではあまり見かけない縦長の開口が並ぶ。妻面の頂部には飾りが付いていて、近寄って見る価値がある。

年表のなかで、ひとつだけ重みの違う日付がある。昭和11年(1936年)10月7日、北海道陸軍特別大演習にあたり、昭和天皇がこの林業試験場に行幸した。2階に設けられた御座所で石原供三場長の上奏を受け、その後、秩父宮・三笠宮両殿下とともに試験林を歩いている。当日の写真は入口付近に掲げられている。

この建物は博物館ではない。だからこそ気軽に入れる。平成14年(2002年)1月に江別市が国から土地と建物を購入したあと、市は休憩所として開放しながら活用方法を探ってきた。令和2年(2020年)の保存・活用事業者の公募には4事業者が応募し、選定を経て株式会社珈房サッポロ珈琲館が選ばれる。令和3年に外観と内装の工事を行い、令和4年4月に同社の本社事務所が移転、5月11日に直営カフェ「Rinboku(リンボク)」が1階にオープンした。

つまり、登録有形文化財の内部に腰を下ろして珈琲を飲める。営業時間は9時30分から18時(ラストオーダー17時頃)、月曜定休、席数はおよそ36、駐車場は11台と伝えられる。個人経営規模の店舗なので時間や休業日は変わりやすい。出かける前に確認しておきたい。外観の撮影に制限はない。内部は一般の喫茶店と同じ配慮で、他の客が写り込まないように。

行き方には少し準備がいる。場所は酪農学園大学の東端、住宅地の奥の丘の上で、JR函館本線の野幌駅・大麻駅からはいずれも2キロ前後。札幌中心部からは車でおよそ30分。進入路は見落としやすいので、地図を見ながら向かうことをすすめる。

Q&A

Q北海道林木育種場旧庁舎の中には入れますか。
A入れます。1階が珈房サッポロ珈琲館の直営カフェ「Rinboku」として営業しており、営業時間は9時30分から18時、月曜定休と伝えられます。2階は同社の事務所で、一般公開はされていません。
Q北海道林木育種場旧庁舎の見学に料金はかかりますか。
A建物の入館料はありません。カフェで注文した分の代金のみです。外観と敷地は自由に見ることができます。
Q北海道林木育種場旧庁舎へは札幌からどう行けばよいですか。
A車なら札幌中心部から約30分、敷地内に11台程度の駐車場があります。鉄道の場合はJR函館本線の野幌駅または大麻駅が最寄りですが、どちらからも2キロ前後あるため、タクシーか路線バスと徒歩を組み合わせるのが現実的です。
Q北海道林木育種場旧庁舎の建築上の特徴は何ですか。
A1階を煉瓦組積造、2階をハーフティンバー風の木造とし、外装をモルタル洗出で仕上げた混構造です。屋根は鉄板葺で、小屋組はクイーンポストトラス風。組積造と木造を上下で組み合わせた構成は、現存する1920年代の北海道の公共建築のなかでも珍しいものです。
Q北海道林木育種場旧庁舎に昭和天皇が来たというのは本当ですか。
A事実です。昭和11年10月7日、北海道陸軍特別大演習に際して林業試験場に行幸し、2階の御座所で石原供三場長の上奏を受けたのち、秩父宮・三笠宮両殿下と試験林を散策しました。当日の写真は江別市が公開しています。

基本情報

名称北海道林木育種場旧庁舎(ほっかいどうりんぼくいくしゅじょうきゅうちょうしゃ)
所在地北海道江別市文京台緑町561-1
指定区分登録有形文化財(建造物) 登録番号 01-0030
指定年平成13年(2001年)8月28日登録/同年9月14日告示
員数1棟
寸法1階煉瓦組積造・2階および小屋裏木造、鉄板葺、建築面積744平方メートル(江別市資料では延べ1,531.88平方メートル)
所有者江別市
公開状況1階はカフェ「Rinboku」として公開(9時30分〜18時、月曜定休と伝えられる)。入館料なし。2階は事務所として使用

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース「北海道林木育種場旧庁舎」
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00002189
文化遺産オンライン「北海道林木育種場旧庁舎」
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/193189
江別市「登録有形文化財 北海道林木育種場旧庁舎の歴史」
https://www.city.ebetsu.hokkaido.jp/site/kyouiku/86684.html
江別市「北海道林木育種場旧庁舎」
https://www.city.ebetsu.hokkaido.jp/site/kyouiku/3025.html
珈房サッポロ珈琲館「サッポロ珈琲館【Rinboku】」
https://sapporocoffeekan.co.jp/shop/rinboku/

最終更新日: 2026.08.27