旧札幌控訴院庁舎とは

大通公園の西端、灰白色の石壁を持つ建物の正面上部に、目隠しをした女神の像が彫られている。傍らには天秤と剣。これは「法の女神」をかたどったもので、目隠しは公平、天秤は判断の均衡、剣は法の力を表す。この建物が長く裁判所だったことを示す印である。

大正15年(1926年)に札幌控訴院として建てられ、昭和48年(1973年)からは札幌市資料館として一般に公開されている。入館は無料。令和2年(2020年)12月23日には国の重要文化財に指定された。

外壁に使われているのは札幌軟石。札幌・石山地区で切り出された火山性の凝灰岩で、加工がしやすく、明治から大正にかけて札幌の建築を支えた地元の石材である。旧札幌控訴院庁舎は、この札幌軟石でつくられた建物として現存最大級にあたる。

北の司法を担った庁舎

戦前の裁判制度では、地方裁判所と東京の大審院との間に「控訴院」が置かれていた。いまの高等裁判所にあたる機関で、全国8か所――札幌・仙台・東京・名古屋・大阪・広島・高松・長崎――に設けられた。このうち建物が今も残るのは2棟だけで、ひとつは名古屋市市政資料館として使われている旧名古屋控訴院、もうひとつがこの旧札幌控訴院庁舎である。

札幌に控訴院が置かれるまでには経緯がある。明治38年(1905年)、函館控訴院の管轄から青森県が外れたことをきっかけに、北の控訴院をどこに置くかという問題が持ち上がった。札幌への移転が決まったのは大正に入ってから。庁舎の工事は大正11年(1922年)に始まり、大正15年(1926年)8月に竣工した。

設計を手がけたのは司法省の会計課で、図面の作成者は浜野三郎と推定されている。技師長は山下啓次郎が務め、細部の実施設計は司法省の技手たちが担当した。その後、裁判所の移転にともなって札幌市が建物を引き継ぎ、昭和48年(1973年)11月3日に札幌市資料館として開館した。

重要文化財に指定された理由

2020年の指定では、1920年代に日本の建築が意匠と構造の両面で近代化していく過程を、この一棟がよく示している点が評価された。

外観の基調はルネサンス様式で、左右対称や古典的な比例がそこにある。一方で、歴史的な様式建築から離れようとした近代の改革運動、セセッション(ゼツェッシオン)の影響もうかがえる。性格の異なる二つの方向が同じ壁面に同居している。

構造も同じように過渡期の姿をとどめる。厚い外壁は石と煉瓦を積み上げた組積造で、19世紀以来の工法による。ところが2階の床や、梁・階段・柱の一部には、当時の日本ではまだ新しかった鉄筋コンクリートが使われている。旧来の組積造と新しいコンクリート造が一つの建物のなかで組み合わされているわけだ。重要文化財の指定にあたっては、司法省が充実した時期の設計をうかがわせる建物であり、建築の近代化が進んだ時代を具体的に示す例として高く評価された。

国指定に至るまでには段階があった。平成9年(1997年)に国の登録有形文化財となり、平成19年(2007年)に札幌景観資産、平成30年(2018年)に札幌市指定有形文化財と位置づけられ、令和2年(2020年)の重要文化財指定によって、それまでの登録・指定は整理された。

見どころ

まず石そのものに目を向けたい。札幌軟石は切ったり彫ったりしやすく、外壁には平滑に仕上げた面から表面を粗く残した面まで、いくつもの加工が使い分けられている。石を扱う多彩な技法を一棟のうちに見られることが、保存に値すると判断された理由のひとつになっている。

玄関上部の女神像も忘れずに。目隠し、天秤、剣という三つの要素は、それぞれ公平・公正な判断・法の権威を意味する。半世紀にわたって法廷だった建物にとって、この彫刻は装飾というより建物の役割そのものの宣言に近い。

館内では、控訴院時代の刑事法廷が復元され、「刑事法廷展示室」として公開されている。かつて被告人や裁判官、弁護人が並んだ位置に立って眺めることができる。このほか、札幌生まれのイラストレーターを紹介する「おおば比呂司記念室」や、まちの歴史を扱う展示室もある。館内外ともに写真撮影ができる。

周辺の楽しみとアクセス

資料館が建つのは、札幌の中心を東西に貫く大通公園の西の端。夏のビアガーデンや2月の雪まつりの舞台となる場所で、公園を東へ歩けばさっぽろテレビ塔に出る。時計台や北海道庁旧本庁舎といった札幌を代表する歴史的建物も徒歩圏内にある。

最寄りは地下鉄東西線「西11丁目」駅で、徒歩4分ほど。市電やバスの停留所も数分の距離にある。建物に見学者用の駐車場はないが、周辺には有料の時間貸し駐車場が多い。

運営は札幌市で、月曜を除いて開館し、入館は無料。重要文化財となったことを受けて、札幌市は耐震補強と保存修理、活用整備を一体で進める計画を立てている。2026年時点では耐震診断や保存活用計画の検討段階にあるが、遠方から訪れる場合は、開館状況を札幌市資料館の公式サイトで確かめてから出かけるとよい。

Q&A

Q入館料はかかりますか。
Aいいえ。札幌市資料館の入館は無料です。
Q「札幌軟石」とは何ですか。
A札幌・石山地区で切り出された、加工しやすい火山性の凝灰岩です。明治・大正期の札幌では倉庫や公共建築に広く使われ、この庁舎はその札幌軟石でつくられた建物として現存最大級にあたります。
Q建物の中に入れますか。写真は撮れますか。
A入れます。一般公開されており、館内外ともに写真撮影ができます。
Qどうやって行けばよいですか。
A地下鉄東西線「西11丁目」駅から徒歩4分ほど。大通公園の西端にあります。
Qほかに現存する控訴院の建物はありますか。
Aもう1棟だけあります。同じく重要文化財で、現在は名古屋市市政資料館として公開されている旧名古屋控訴院の庁舎です。

基本データ

名称旧札幌控訴院庁舎(現・札幌市資料館)
所在地北海道札幌市中央区大通西13丁目
指定区分重要文化財(令和2年〈2020年〉12月23日指定)
種別近代/官公庁舎
建設年大正15年(1926年)竣工、大正11年(1922年)着工
構造石造・煉瓦造の組積造に鉄筋コンクリート造を一部併用、二階建一部三階建、鉄板葺、建築面積約849.8平方メートル
員数1棟(附:門 2所)
所有者札幌市
開館時間9:00~19:00/休館:月曜(祝休日の場合は翌平日)、12月29日~1月3日
入館料無料

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/102/00005321
札幌市資料館(旧札幌控訴院庁舎)/札幌市
https://www.city.sapporo.jp/shimin/bunka/sapporoshishiryokan/shiryokan.html
旧札幌控訴院庁舎保存修理事業/札幌市
https://www.city.sapporo.jp/shimin/bunka/sapporoshishiryokan/kousoinhozonsyuri.html
札幌市資料館|ようこそさっぽろ(札幌観光協会)
https://www.sapporo.travel/spot/facility/shiryokan/

最終更新日: 2026.06.05