大学構内に残る明治の農場建築群

北海道大学農学部(旧東北帝国大学農科大学)第二農場は、札幌市北区の北海道大学札幌キャンパス内に残る明治期の農場建築群で、9棟が昭和44年(1969年)8月19日に国の重要文化財に指定された。北海道大学は「札幌農学校第2農場」の名称を用いており、中心となる建物の英語名から「モデルバーン」とも呼ばれる。

建物は、キャンパス北側の開けた土地にまとまって建つ。砂利の敷かれた前庭を挟んで畜舎が向かい合い、低い柵が敷地を区切る。展示施設として整えられた配置ではなく、一軒の農家の作業場としての並びがそのまま残っている。

それがこの場所の性格そのものである。第二農場は、実際に経営される農場を実物大で見せるために作られた。移住者が未経験の大規模有畜農業に取り組む前に、その仕組みを目で確かめられるようにするための施設だった。

クラーク、ホイラー、ブルックス

札幌農学校が開校したのは明治9年(1876年)。教頭として招かれたウィリアム・スミス・クラークは、家畜を組み込んだ大規模農業を北海道に導入する構想を持っていた。マサチューセッツ農科大学の学長を務めた経験に基づく計画である。クラークの滞在は8か月に過ぎなかったが、彼が組み立てた農学教育の枠組みは長く残った。

構想を引き継いだのは後任の教師たちである。明治10年(1877年)建設の模範家畜房はW.ホイラーが、同じ年の穀物庫はW.P.ブルックスが設計した。ブルックスは北海道の気候に適した作物と農機具の輸入・選定にあたり、栽培法と経営法を指導して、北海道農法の骨格を作った。

構造にはバルーンフレームが用いられている。開拓期のアメリカ中西部に広まった軽木骨造で、細い部材を土台から軒まで通し、継手ではなく釘で留めていく工法である。製材と非熟練の労働力で大きな建物を短期間に建てられた。模範家畜房の二階に上がると、その効果がすぐにわかる。干草置場だった空間には柱が一本もなく、屋根まで見通せる。

農場は当初の場所にとどまり続けたわけではない。明治42年(1909年)から45年(1912年)にかけて現在地に整備し直され、明治10年建設の3棟が解体のうえ移築された。文化庁の解説は、これらが改造を受けながらも、クラークの計画のもとで米人教師が設計した当初のおもかげをなお残しており、札幌農学校の由緒を伝える点で貴重であると述べている。

9棟の内訳

指定の対象は9棟で、附として設計図2枚が加えられている。年代は二つの層に分かれる。明治10年の3棟と、農場が移された明治42年から44年にかけての6棟である。

  • 産室・追込所及び耕馬舎(明治10年/1877年)木造、建築面積476.9平方メートル、二階建、中央換気塔付、鉄板葺。いわゆる模範家畜房。
  • 種牛舎(明治10年/1877年)木造、223.1平方メートル、一階建、鉄板葺。
  • 穀物庫(明治10年/1877年)木造、110.2平方メートル、二階建、妻入、鉄板葺、西面に高架廊下が付く。コーンバーンと呼ばれる。
  • 牧牛舎(明治42年/1909年)木造、449.6平方メートル、一階建、換気塔八所付、スレート葺、東西面に角屋が付く。
  • 事務所(明治43年/1910年)木造、115.7平方メートル、一階建、正面玄関付、鉄板葺。
  • 秤量場(明治43年/1910年)木造、28.9平方メートル、一階建、妻入、鉄板葺。
  • 釜場(明治43年/1910年)石造、66.1平方メートル、一階建、鉄板葺。
  • 収穫室及び脱稃室(明治44年/1911年)木造、133.9平方メートル、一部二階、鉄板葺。
  • 製乳所(明治44年/1911年)煉瓦造、76.9平方メートル、一階建、北面玄関、西面ボイラー室付、鉄板葺。

木造、石造、煉瓦造の三種が混在する。使い分けは意匠ではなく用途に対応している。火を扱う釜場は石造、乳の処理に清潔と温湿度の安定が求められる製乳所は煉瓦造、家畜や飼料を収める建物は木造という具合である。

外から見て面白いのは穀物庫だ。高さ1メートルほどの束石が49本並び、その上に床が載る高床式で、束石の頂部には鼠返しが付く。壁は簀子板張りで、板と板のあいだに隙間を取って風を通す。北海道の冬を越して穀物を乾いた状態で保つための工夫が、外観のあらゆる部分に現れている。

敷地内には大正元年(1912年)建設の緑飼貯蔵庫が建つ。道内最古のサイロと伝えられているが、9棟の指定範囲には含まれない。前庭からその姿を見ることができる。

見学の実際

入場料は無料である。屋外の公開は通年で8時30分から17時まで。屋内公開は模範家畜房、穀物庫、牧牛舎の3棟で、4月29日から11月3日まで、10時から16時まで行われる。冬期間は屋内公開を休止し、建物の外観と前庭のみの公開となる。休館日は毎月第4月曜日、および12月28日から1月4日までである。

個人の撮影に制限はない。畜舎の内部は光量が少なく、木部も暗いため、フラッシュよりも高感度に強いカメラが役に立つ。二階の狭い空間では、フラッシュは他の見学者の妨げになりやすい。

場所は北海道大学札幌キャンパス内、エルムトンネルのほぼ直上にあたる札幌市北区北18条西7丁目。地下鉄南北線「北18条」駅から徒歩約10分である。JR札幌駅から構内を歩いて向かうと25分以上かかる。夏は気持ちのよい散歩になるが、それ以外の季節は相応の防寒を用意したい。

畜舎の内部には、明治初期にアメリカから輸入された農具や畜力機械が展示されている。ケースに入れて並べるのではなく、使われていた空間にそのまま置かれているため、機械の大きさを実感として掴みやすい。

第二農場は平成13年(2001年)に北海道遺産に選定されている。同じキャンパスの南、徒歩15分ほどの北海道大学総合博物館と合わせて回ると、半日の行程としてちょうどよい。

Q&A

Q北海道大学第二農場は一般公開されていますか。入場料はかかりますか。
A公開されており、入場料は無料です。屋外は通年8時30分から17時まで、屋内は模範家畜房・穀物庫・牧牛舎の3棟が4月29日から11月3日まで10時から16時まで公開されます。冬期間は屋内公開を休止します。
Q北海道大学第二農場の休館日はいつですか。
A毎月第4月曜日が休館日です。加えて、年末年始の12月28日から1月4日まで休館します。
Q北海道大学第二農場では何棟が重要文化財に指定されていますか。
A9棟が昭和44年(1969年)8月19日に一括して指定され、指定番号は01746です。附として設計図2枚が加えられています。9棟のうち3棟は明治10年(1877年)の建設で、現在地へ移築されたものです。
Q北海道大学第二農場へのアクセス方法を教えてください。
A北海道大学札幌キャンパス内、エルムトンネルのほぼ直上にあたる札幌市北区北18条西7丁目に位置します。地下鉄南北線「北18条」駅から徒歩約10分、JR札幌駅から構内を歩く場合は25分以上を見てください。
Q北海道大学第二農場が「札幌農学校第2農場」「モデルバーン」とも呼ばれるのはなぜですか。
A官報に告示された指定名称は北海道大学農学部(旧東北帝国大学農科大学)第二農場ですが、北海道大学は由来を明確にするため札幌農学校第2農場の名称を用いています。モデルバーンは、中心となる明治10年建設の畜舎(模範家畜房)の英語名です。

基本データ

名称北海道大学農学部(旧東北帝国大学農科大学)第二農場/札幌農学校第2農場・モデルバーン
所在地北海道札幌市北区 北海道大学構内(指定台帳は北八条西五丁目、現地入口は北18条西7丁目)
指定区分重要文化財(近代/学校) 指定番号 01746
指定年昭和44年(1969年)8月19日
員数9棟(附:設計図2枚)
寸法木造・石造・煉瓦造 建築面積28.9〜476.9平方メートル
所有者国立大学法人北海道大学
公開状況入場無料。屋外は通年8時30分〜17時、屋内3棟は4月29日〜11月3日の10時〜16時。第4月曜日・12月28日〜1月4日休館

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)— 北海道大学農学部(旧東北帝国大学農科大学)第二農場
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/102/16
文化遺産オンライン — 北海道大学農学部(旧東北帝国大学農科大学)第二農場 事務所
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/198939
北海道大学総合博物館 — 札幌農学校第2農場
https://www.museum.hokudai.ac.jp/outline/dai2noujou/
北海道遺産 — 北海道大学札幌農学校第2農場
https://www.hokkaidoisan.org/sapporo_no2noujo.html
ようこそさっぽろ(札幌市公式観光サイト)— 札幌農学校第2農場
https://www.sapporo.travel/spot/facility/sapporo_agricultural_college_farm_no_2/

最終更新日: 2026.08.27

同エリアの文化財

いずれも同じエリアの徒歩圏内にあるので、あわせての見学がおすすめです。

  1. 北海道大学農学部(旧東北帝国大学農科大学)第二農場 釜場 0.00 km
  2. 北海道大学農学部(旧東北帝国大学農科大学)第二農場 製乳所 0.02 km
  3. 北海道大学農学部(旧東北帝国大学農科大学)第二農場 秤量場 0.04 km
  4. 北海道大学農学部(旧東北帝国大学農科大学)第二農場 牧牛舎 0.05 km
  5. 北海道大学農学部(旧東北帝国大学農科大学)第二農場 産室・追込所及び耕馬舎 0.07 km
  6. 北海道大学農学部(旧東北帝国大学農科大学)第二農場 収穫室及び脱稃室 0.08 km
  7. 北海道大学農学部(旧東北帝国大学農科大学)第二農場 種牛舎 0.08 km
  8. 北海道大学農学部(旧東北帝国大学農科大学)第二農場 穀物庫 0.09 km
  9. 北海道大学農学部(旧東北帝国大学農科大学)第二農場 事務所 0.10 km