行啓の宿所を解いて運んだ座敷
飯田家住宅座敷棟は、北海道沙流郡日高町富川南にある明治44年(1911年)建築の木造平屋建で、平成26年(2014年)12月19日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。
文化庁の記録をたどると、この建物の主体部はもともと別の場所にあったことがわかる。明治44年、旧門別町に、皇太子嘉仁親王の行啓時の宿所として一棟が建てられた。嘉仁親王は翌年即位して大正天皇となる。同年8月、皇太子は東京を発ち、軍艦香取で函館に上陸したのち、小樽・札幌を経て旭川まで道内を巡っている。
それから40年後の昭和26年(1951年)、門別の建物は解体された。座敷二室と東廊下、つまり格式の中心にあたる部分が富川へ運ばれ、組み直される。周囲には新たな部分が増築された。いま建つ姿は建築面積56平方メートル、屋根は鉄板葺である。
移されたのは核だけで、外側は後の仕事にあたる。この建物を見る目は、まずそこで分かれる。
登録の理由と、内部に残る造作
登録と指定は制度が異なる。国宝や重要文化財は「指定」され、そこには強い保護が働く。登録有形文化財は平成8年(1996年)に始まった緩やかな仕組みで、建設からおおむね50年を経て、なお日常のなかで使われている建造物を対象とする。所有者は改修の自由を比較的保ったまま、修理の設計監理費への補助や固定資産税の軽減といった措置を受けられる。座敷棟の登録番号は01-0142、第79回の登録にあたる。
登録の基準は三つ用意されており、この建物に記されているのは「造形の規範となっているもの」である。
その判断の根拠は内部にある。軸部にはヒノキの良材がふんだんに使われた。ヒノキは北海道に自生せず、自生の北限は東北南部とされるから、材は海路で本州から運ばれたと考えてよい。座敷の上に張られているのは折上格天井。格子に組んだ天井の周縁を曲面で持ち上げる形式で、寺院の仏堂や大名の対面所に用いられる格の高い意匠である。それが、56平方メートルの建物に載っている。
座敷飾も一通り揃っている。トコがあり、付書院がある。付書院は障子窓を備えた造り付けの机で、書院造という呼び名の由来になった設備にあたる。建具の仕事は細かく、柱や框を留める錺金具にも彫りが施されている。
見学の可否と交通
先に断っておくべきことがある。ここは個人の住宅である。文化庁データベースの所有者名は空欄で、これは個人所有の物件で通常そうなる扱いにあたる。日高町にも文化庁にも、一般公開の記載はない。
外観を公道から眺めることはできる。ただし敷地内には立ち入れず、内部を撮影する仕組みも用意されていない。もう少し詳しく知りたい場合は、出発前に日高町教育委員会へ問い合わせるのが確実である。国のデータベースに載る写真は同教育委員会の提供によるもので、この建物についての窓口はそこにあるとみてよい。
富川へ向かうには、いまは車が前提になる。JR日高本線の鵡川〜様似間は令和3年(2021年)4月1日に廃止され、富川駅も同時に姿を消した。最寄りの高速出口は日高自動車道の日高富川インターチェンジで、新千歳空港からはおよそ1時間。公共交通は日高地域広域公共バス(JR北海道バス・道南バス)が担っており、着いてから調べるのではなく、出発前に時刻表を確かめておきたい。
同じ町内には、もう一件の登録有形文化財がある。門別本町の飯田家住宅主屋で、国道235号を東へ車で15分ほど。あちらも個人の住宅なので、同じ配慮が要る。
Q&A
- 飯田家住宅座敷棟は見学できますか。日高町のどこにありますか。
- 所在地は北海道沙流郡日高町富川南1-401-50です。文化庁にも日高町にも一般公開の記載はなく、個人所有の住宅です。外観を公道から見ることはできますが、敷地には立ち入れません。訪問を計画する前に日高町教育委員会へご相談ください。
- 飯田家住宅座敷棟は昭和26年に何を移築したものですか。
- 明治44年に旧門別町で建てられた建物のうち、座敷二室と東廊下の主体部です。これらを富川へ運んで組み直し、周囲に新たな部分を増築しています。移築の理由については、文化庁の記録に記載がありません。
- 飯田家住宅座敷棟に大正天皇が実際に宿泊したのですか。
- 文化庁の記録は「行啓時の宿所として旧門別町で建てられた」と記すにとどまり、皇太子が宿泊したとは書いていません。現在富川に建つのは、その一部を40年後に別の場所で組み直したものです。それ以上の話は日高町にご確認ください。
- 飯田家住宅座敷棟の見どころはどこですか。
- 座敷の折上格天井、トコと付書院、彫りの入った錺金具、そして軸部のヒノキです。ヒノキは北海道に自生しないため、この材は本州から運ばれたものと考えられます。
- 飯田家住宅座敷棟へ車以外で行く方法はありますか。
- 容易ではありません。JR日高本線の鵡川〜様似間は令和3年4月1日に廃止され、富川駅もなくなりました。現在はJR北海道バスと道南バスによる日高地域広域公共バスが地域を結んでいます。時刻表は事前にご確認ください。
基本情報
| 名称 | 飯田家住宅座敷棟(いいだけじゅうたくざしきとう) |
|---|---|
| 所在地 | 北海道沙流郡日高町富川南1-401-50 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物)/登録番号 01-0142 |
| 指定年 | 平成26年(2014年)12月19日登録(第79回) |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 建築面積56平方メートル/木造平屋建、鉄板葺 |
| 所有者 | 文化庁データベースに記載なし(個人所有) |
| 公開状況 | 一般公開の記載なし。外観を公道から見るのみ |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁)飯田家住宅座敷棟
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00010242
- 文化遺産オンライン 飯田家住宅座敷棟
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/274246
- 文化庁 登録有形文化財(建造物)
- https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/shokai/yukei_kenzobutsu/toroku_yukei.html
- 北海道日高町 観光・文化
- https://www.town.hidaka.hokkaido.jp/culture/
- JR北海道 日高地域広域公共バスのご案内
- https://www.jrhokkaido.co.jp/hidakasen/
最終更新日: 2026.08.27