沙流川源流原始林——日勝峠に広がる北海道屈指の天然林

日高山脈の北端、日本でも有数の清流として名高い沙流川がその水源を発する場所に、北海道を代表する原始林が広がっています。沙流川源流原始林は、日勝峠の日高側に広がる広大な天然林で、トドマツ・エゾマツ・ダケカンバが混じり合う冷温帯上部の代表的な森林として、1970年(昭和45年)12月4日に国の天然記念物に指定されました。長く人の手が入らずに守られてきたこの森は、かつて北海道の高地一帯を覆っていた本来の植生を、今日に伝える貴重な生きた標本でもあります。

北海道の原生の自然に触れたいと願う旅人にとって、この森は今や得がたい体験を提供してくれます。古木の梢を渡る風の音、エゾライチョウの鳴き声、清冽な源流の水音——そうした静寂のなかで、訪れる者は北の大地が本来もっていた姿に出会うことができるのです。

沙流川源流原始林について

沙流川源流原始林は、北海道と道東を結ぶ日勝峠の日高側、沙流川の源流域に広がる原始林です。一帯は日高山脈襟裳十勝国立公園の区域に含まれ、さらに鳥獣保護区にも指定されています。沙流川は日高山脈北部の熊見山(標高1,175メートル)に源を発し、南西に約104キロメートル流れて太平洋へと注ぐ一級河川です。2004年に国土交通省が実施した全国一級河川の水質調査では、沙流川は全国第1位の清流に選ばれました。この極めて高い水質は、源流域の原始林がほぼ手つかずのまま保たれていることと深く結びついています。

森を構成する主役はトドマツ・エゾマツ・ダケカンバの三種で、標高の高い場所ではハイマツも分布します。豊かな自然のイメージが強い北海道ですが、開発が進んだ現代において、本来の植生が連続して残る原始林は決して多くありません。沙流川源流原始林は、北海道における冷温帯上部の代表的な森林として、植物学的にも生態学的にも他に代えがたい価値を持つ存在です。

なぜ天然記念物に指定されたのか

沙流川源流原始林は、1970年(昭和45年)12月4日に「保護すべき天然記念物に富んだ代表的一定の区域」という指定基準のもと、国の天然記念物(天然保護区域)に指定されました。その背景には、この森が単に古いというだけでなく、ほぼ自然のままの生態系として残されていることへの高い評価があります。

第一に、トドマツ・エゾマツ・ダケカンバを主体とした針広混交林は、北海道の冷温帯上部を代表する森林型です。かつて本州北部から北海道の高地一帯に広がっていたこの植生は、各地で開発や伐採により大きく損なわれてきましたが、ここでは原生の構成がよく保たれています。

第二に、エゾシカやエゾライチョウをはじめ、北海道固有の野生動物が暮らす生息地として極めて重要な役割を担っています。さらに広範囲が鳥獣保護区にも指定されており、自然保護の枠組みが二重三重に重ねられています。

第三に、この森は名水・沙流川の源流を守る天然のダムとして機能しています。深く張った根と分厚い堆積層が雨水や雪解け水をゆっくりと濾過し、冷たく澄んだ水を下流へと送り出すことで、日本屈指の清流が守られているのです。森を守ることが、すなわち川を守ることに直結している——そうした自然の連鎖を体現している点も、この区域が高く評価される理由です。

魅力・見どころ

沙流川源流原始林の最大の魅力は、四季ごとに大きく姿を変えるその景観にあります。訪れる時期によって、まったく異なる森の表情に出会うことができます。

初夏の新緑

5月下旬から6月にかけて、トドマツやエゾマツの濃い常緑とダケカンバの瑞々しい新緑とが鮮やかなコントラストを描きます。標高の高いこの一帯では空気もひときわ澄み、針葉樹の樹脂の香りが立ちのぼり、雪解け水を集めた渓流が勢いよく流れます。

真夏の万緑

8月、森は最も豊かな緑に包まれます。高く伸びた樹冠が陽光を柔らかな木漏れ日に変え、林床ではシダ類や山野草が涼しい微気候のなかで生き生きと茂ります。この時期は野鳥のさえずりが最も豊かに響き、林縁でエゾシカに遭遇できる可能性も高まります。

秋の紅葉

9月中旬から10月にかけて、広葉樹は鮮やかな黄金色に染まり、変わらぬ針葉樹の濃緑との重なりが美しい錦織を生み出します。とくに銅色の幹をもつダケカンバが黄葉する姿は写真愛好家にも人気で、針葉樹と広葉樹が層をなす光景は、北海道屈指のドライブルートにふさわしい絶景として知られています。

日勝園地展望台

原始林の中心部に近い標高約740メートルに位置する日勝園地展望台からは、十勝平野が一望でき、遠方に阿寒・東大雪連峰の山並みが連なります。展望台周辺には森の中を歩くことができる散策路も整備されており、エゾマツやトドマツの巨木の足元を歩きながら、原生林の空気を直に体感することができます。

周辺情報

日勝峠という辺境に位置する一方で、沙流川源流原始林は日高地方の魅力的な観光地と組み合わせて巡ることができます。沙流川の上流に位置する日高町には道の駅「樹海ロード日高」があり、清流・沙流川で育ったヤマメを使った「山女魚天そば」など地元の味覚や、特産品・お土産が揃います。

また周辺には沙流川温泉があり、ドライブや散策のあとにゆっくりと湯に浸かるのもおすすめです。河畔の沙流川オートキャンプ場では、川の音を聞きながら一夜を過ごすこともできます。さらに足を伸ばせば、沙流川流域の中流に位置する平取町には二風谷アイヌ文化博物館があり、「アイヌの伝統と近代開拓による沙流川流域の文化的景観」として国の重要文化的景観に選定された地域も訪ねられます。日高山脈の最高峰で日本百名山にも数えられる幌尻岳(標高2,052メートル)も、本格的な登山者にとって憧れの山として知られています。

Q&A

Q沙流川源流原始林を訪れるベストシーズンはいつですか?
A新緑の6月、万緑の8月、紅葉の9月中旬から10月下旬がそれぞれ見頃です。冬季は雪が深く、日勝峠自体の通行が困難になるため、観光目的の訪問は基本的に推奨されません。
Q主要都市からのアクセス方法を教えてください。
A車の場合は、道の駅「樹海ロード日高」から国道274号を帯広方面へ約40分、源流橋手前から展望園地への分岐に入ります。公共交通機関の場合は、JR石勝線占冠駅から日高町営バスに約25分乗車して「日高総合支所前」で下車、そこからタクシーで約40分です。
Q森の中に散策路はありますか?
A日勝園地展望台周辺には、エゾマツ・トドマツ・ダケカンバの大木の間を歩ける小道が整備されています。天然記念物および鳥獣保護区に指定された区域ですので、整備された道から外れず、植物の採取や動物への影響を与える行為は控えるようお願いします。
Qどのような野生動物が見られますか?
Aエゾシカやエゾライチョウのほか、北海道の高地に生息する小動物や野鳥が暮らしています。広い日高山脈一帯にはヒグマも生息していますので、熊鈴の携行や複数人での行動、日中の訪問など、通常の山岳地帯と同様の備えを心がけてください。
Qなぜ沙流川は「日本一の清流」と呼ばれるのですか?
A2004年に国土交通省が実施した全国一級河川の水質調査で、沙流川は全国第1位に選ばれました。源流域に広がる原始林の深く豊かな根と土壌が、雨水や雪解け水をゆっくりと濾過していることが、その清らかさの大きな理由とされています。

基本情報

名称 沙流川源流原始林(さるがわげんりゅうげんしりん)
指定区分 国指定天然記念物(1970年〈昭和45年〉12月4日指定)
指定基準 保護すべき天然記念物に富んだ代表的一定の区域
所在地 〒055-2314 北海道沙流郡日高町字千栄国有林
森林の特徴 北海道における冷温帯上部の代表的な針広混交林
主な樹種 トドマツ、エゾマツ、ダケカンバ、ハイマツ
主な野生動物 エゾシカ、エゾライチョウ ほか
見頃 新緑(6月)、万緑(8月)、紅葉(9月中旬〜10月下旬)
関連区域 日高山脈襟裳十勝国立公園、鳥獣保護区
車でのアクセス 道の駅「樹海ロード日高」から国道274号で約40分
公共交通でのアクセス JR石勝線占冠駅 → 日高町営バス「日高総合支所前」(約25分) → タクシー(約40分)
駐車場 あり
お問い合わせ 日高町役場日高総合支所 地域経済課(TEL:01457-6-2008)

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁):沙流川源流原始林
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/401/43
文化遺産オンライン:沙流川源流原始林
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/137534
HOKKAIDO LOVE!(北海道公式観光サイト):沙流川源流原始林
https://www.visit-hokkaido.jp/spot/detail_13071.html
北海道ひだか観光ナビ:沙流川源流原始林
https://hokkaido-hidaka-kankonavi.com/facility/沙流川源流原始林/
環境省:日高山脈襟裳十勝国立公園 見どころ・施設
https://www.env.go.jp/nature/nationalparks/list/hidakasanmyaku-erimo-tokachi/spot/

最終更新日: 2026.05.06