化学者が自分のために建てた家
杉野目家住宅は、北海道札幌市中央区南19条西11丁目にある昭和8年(1933年)建築の木骨煉瓦造2階建住宅で、平成11年(1999年)10月14日に国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。鉄板葺、建築面積231平方メートル。札幌市街の南寄り、山鼻地区の住宅地に、今も個人の住まいとして建っています。
建てたのは杉野目晴貞(すぎのめ はるさだ、1892年から1972年)。有機化学者で、アルカロイド研究で知られました。昭和5年(1930年)に北海道帝国大学の理学部が新設された際に教授となり、のちに北海道大学の学長を長く務めた人物です。この家が建った昭和8年は、彼が理学部の立ち上げに追われていた時期にあたります。
設計を担当したのは、北海道帝国大学の技師で営繕課長だった萩原惇正。当時、帝大の教授が家を建てるにあたっては、札幌で人気の高かった建築家に依頼する例が多かったといわれます。そのなかで大学の営繕課長に頼んだという選択には、施主なりの理由があったのでしょう。
チューダー様式と、破風の湾曲した木組み
外観は、16世紀イギリスのチューダー様式を参考にしています。柱や梁を外壁面に見せ、その間を白い壁で埋めるハーフティンバーの意匠。文化庁が具体的に挙げているのは、破風部の湾曲した木組みです。まっすぐな材ではなく、曲線を描く木を破風に組み込んでいる。歩道から木立越しに見上げると、この曲線が最初に目に入ります。
木骨煉瓦造という選び方
構造は木骨煉瓦造。木で骨組みを組み、その間に煉瓦を充填する構法です。木造よりも壁が厚く重くなり、蓄熱性が高まります。札幌の冬を前提にしたとき、この選択は意匠の問題であると同時に性能の問題でした。屋根は鉄板葺。積雪を落とすためです。
市内で最初の集中暖房
この住宅が建築史のうえで注目されてきた最大の理由は、外観ではなく設備にあります。文化庁は、市内最初の集中暖房住宅として知られる、と記しています。各室を個別のストーブで温めるのではなく、一箇所の熱源から建物全体に熱を配る方式。昭和8年の札幌の民家としては、かなり先を行く設備でした。札幌市の資料は、当時としては珍しい水洗トイレも備えていたと伝えています。
化学者が、自分の住む建物で熱と水の扱いを設計させた。そう考えると、この家の性格がはっきりしてきます。登録基準が「造形の規範となっているもの」であることも、意匠と技術の両面が評価されたことを示しています。登録番号は01-0015です。
見学は歩道から
最初に、はっきりお伝えしておくべきことがあります。杉野目家住宅は現在も個人の住宅として使われており、内部を見学することはできません。札幌市の文化財情報も、公開時間の欄に「敷地外からのみ観覧可」と明記しています。門から中へ入ることも、敷地内で撮影することもできません。
それでも見る価値はあります。敷地は木立に囲まれており、歩道からその隙間越しに建物の輪郭を追うことになります。裏手に回ると煙突が二本立っているのが確認できる。集中暖房の話を知ったうえで煙突を見ると、意味が違って見えてきます。
門のあたりには、この建物の由来を記した案内板と、札幌景観資産および「さっぽろ・ふるさと文化百選」のプレートが置かれています。歩道からでも読み取れる範囲です。
アクセスは、札幌市電の「石山通」または「ロープウェイ入口」電停、あるいはじょうてつバスの「南19条西11丁目」停留所から。札幌駅からは市電を乗り継いで30分程度を見ておけば十分です。住宅地ですから、静かに、短時間で。住んでいる方の生活があります。
Q&A
- 杉野目家住宅は内部を見学できますか。
- できません。現在も個人の住宅として使用されており、札幌市の文化財情報でも「敷地外からのみ観覧可」とされています。敷地内に立ち入ることはできず、歩道から外観を眺めるのみとなります。
- 杉野目家住宅へのアクセスは。最寄りの電停やバス停はどこですか。
- 札幌市電の「石山通」電停または「ロープウェイ入口」電停、じょうてつバスの「南19条西11丁目」停留所が最寄りです。所在地は札幌市中央区南19条西11丁目1-25。札幌駅からは市電を利用して30分程度です。
- 杉野目家住宅の写真は撮ってもよいですか。
- 敷地外の公道からであれば外観の撮影は可能ですが、敷地内には立ち入れません。居住者の生活する住宅ですので、長時間の滞在や窓に向けた撮影は控えてください。
- 杉野目家住宅を建てた杉野目晴貞とはどのような人物ですか。
- 有機化学者で、アルカロイド研究で知られました。昭和5年(1930年)に新設された北海道帝国大学理学部の教授となり、のちに北海道大学の学長を務めています。この住宅は昭和8年に自邸として建てたものです。
- 杉野目家住宅は、どの点が評価されて登録有形文化財になったのですか。
- 登録基準は「造形の規範となっているもの」です。チューダー様式を参考にした意匠、とりわけ破風部の湾曲した木組みと、木骨煉瓦造という構造、そして市内最初の集中暖房住宅として知られる設備面が評価されています。
基本データ
| 名称 | 杉野目家住宅(すぎのめけじゅうたく) |
|---|---|
| 所在地 | 北海道札幌市中央区南19条西11丁目1-25 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物)/登録基準「造形の規範となっているもの」/登録番号 01-0015 |
| 指定年 | 平成11年(1999年)10月14日登録(告示は同年10月28日) |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 木骨煉瓦造2階建、鉄板葺/建築面積231平方メートル |
| 所有者 | 個人(文化庁の国指定文化財等データベースに所有者名の記載なし) |
| 公開状況 | 非公開。現役の個人住宅であり、敷地外からのみ観覧可 |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁)— 杉野目家住宅
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00001349
- 文化遺産オンライン(文化庁)— 杉野目家住宅
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/192349
- 札幌市 — 文化財データベース「杉野目家住宅」
- https://www.city.sapporo.jp/ncms/shimin/bunkazai/bunkazai/syousai/41s_suginome.html
最終更新日: 2026.08.27