もう一つの、静かな離れ

富裕な家の部屋がすべて人を圧するために建てられたわけではない。昭和9年(1934年)に竣工した旧片岡家住宅平屋離座敷は、先に建った格式高い迎賓の座敷とは対照的に、軽やかで私的な気分のために設けられた建物である。主屋の南西に建つ平屋建で、建築面積は約56平方メートル。西側を切妻造、東側を入母屋造とした桟瓦葺で、南に下屋を付す。

内部は続き間の座敷で、北側は縁を介して庭へ開く。大正4年の二階建離座敷が自らを主張するのに対し、この離れは住まうために設計されている。細部の意匠は数寄屋の系譜に連なり、誇示よりも抑制と自然素材の味わいを尊ぶ。

登録の理由と価値

平屋離座敷は令和3年(2021年)6月、旧片岡家住宅の六棟の一つとして登録有形文化財となった。ともに歴史的景観を形づくる建物群としての評価だが、この離れの独自の価値は対比にある。一つの屋敷地に、大正期の格式ある書院造と昭和初期のくつろいだ数寄屋とが隣り合い、有力な一家が暮らしと接客をどう使い分けたかを、訪れる人はそこに読み取ることができる。

細部は丁寧に見るほど応える。西の六畳間は地袋付の蹴込床を備え、落掛には竹を用いる。脇には琵琶床風の棚を設け、低い平書院には火燈窓を穿つ。いずれも壮麗さではなく、素材の肌合いと線の運びを選び取った、数寄屋らしい控えめな手わざである。

訪ねて見たいところ

まず西の座敷に入り、床まわりを見たい。竹の落掛、その下の地袋、傍らの棚。続いて火燈窓を探す。寺院建築に由来する意匠を、住まいの一室のために和らげて用いたものだ。北の縁に立てば庭が構図を完成させ、もう一つの部屋のように近く感じられる。この建物の楽しみは、声高でないものにどれほどの思案が込められているかに気づくことにある。

屋敷は2020年から鴨料理で知られる「とりなご久兵衛」となり、座敷は食事のなかで内側から味わう形になっている。予約をして訪ねるのが賢明だ。なお、通りを隔てて建つ旧片岡家別荘(現・芦田家住宅)は別に登録された物件で、この屋敷の一部ではない点に留意されたい。

Q&A

Q数寄屋風とはどのような様式ですか。
A茶室から生まれた住宅の様式で、書院造の格式に対し、自然素材や抑制、繊細な細部を尊ぶものです。
Q二階建離座敷とはどう違うのですか。
A大正4年の二階建離座敷は来客を迎える格式ある書院造です。この昭和9年の建物は、より静かで私的な用途のための軽やかな数寄屋風の空間です。
Q火燈窓とは何ですか。
A上部を尖頭アーチ状にした窓で、もとは禅宗の寺院建築に由来します。ここでは意匠の見せどころとして用いられています。
Q見学できますか。
Aはい。屋敷を使う飲食店「とりなご久兵衛」の客として見られます。内部は食事の際に見るのがよく、予約をおすすめします。

基本情報

名称旧片岡家住宅平屋離座敷
所在地京都府福知山市字下柳15
指定区分登録有形文化財(令和3年6月24日登録)
員数1棟
構造及び形式木造平屋建、瓦葺、建築面積56平方メートル
建築年昭和9年(1934年)/令和2年改修
活用飲食店「とりなご久兵衛」
アクセス福知山駅から徒歩約15分。食事の際に内部見学可、要予約

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)— 旧片岡家住宅平屋離座敷
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00013830
文化遺産オンライン — 旧片岡家住宅主屋
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/591530
福知山市オフィシャルホームページ — 旧片岡家住宅
https://www.city.fukuchiyama.lg.jp/soshiki/7/46298.html

最終更新日: 2026.07.03