二つの表情をもつ土蔵

旧片岡家住宅南土蔵は主屋の南に建ち、由良川の堤防沿いを走る旧京街道に面する。東西棟の切妻造桟瓦葺、土蔵造二階建で、建築面積は約22平方メートル。大正4年(1915年)に建てられ、昭和9年(1934年)に現在地へ移築された。屋敷が今日見る姿におおむね整った時期にあたる。

この蔵が二度見に値するのは、面ごとの扱いがまるで異なるからだ。日常の出入口は北面、主屋の土間側に向く。外壁は漆喰塗で、腰は人造石洗出仕上とする。ところが東面に回ると、蔵は通りに合わせて表情を変える。

登録の理由と価値

南土蔵は令和3年(2021年)6月、旧片岡家住宅の六棟の一つとして登録された。この蔵が評価に加わる理由は、通りの景観をまとめ上げる役割にある。東面は主屋北面の高塀の意匠に合わせて仕立てられ、腰板張に付柱を立て、目板瓦葺の水切庇を付す。純粋に実用の蔵に通り側の顔を与え、街道沿いの建物の連なりが一つの整った町並みとして読めるようにしている。

これは登録基準がそのまま形になった例である。片岡家の建物群は、突出した単体の傑作としてではなく、三つの時代にわたって育った商家の屋敷が全体として旧城下町への歴史的な導入部を今も形づくっている点で評価された。南土蔵は、その統一感を支えるささやかで、しかし雄弁な一部である。

訪ねて見たいところ

通りから近づき、北隣の高塀とこの蔵を見比べたい。腰板張や目板瓦葺の水切庇といった揃えられた細部は、意識しなければ見落としがちだが、気づいた途端に街道側の一連の意図が見えてくる。配置が許せば回り込んで、飾り気の少ない北面と人造石洗出の腰を見たい。働く壁と見せる壁の違いが一目で立ち上がる。

屋敷は現在、鴨料理を軸とする「とりなご久兵衛」として営まれ、建物は決まった順路ではなく訪問のなかで体験する形になっている。予約をして訪ねるのがよい。他の片岡家の建物と同じく、この本宅を、通りを隔てて建つ旧片岡家別荘(現・芦田家住宅)と混同しないよう注意されたい。

Q&A

Qなぜ蔵の壁は面ごとに違って見えるのですか。
A北面は飾り気のない実用の壁です。東面は主屋脇の高塀に合わせて仕上げ、通り側の景観に統一感を持たせています。
Q最初からこの場所にあったのですか。
Aいいえ。大正4年(1915年)に建てられ、昭和9年(1934年)に現在地へ移築されました。屋敷がほぼ現在の配置に整った時期です。
Q腰の人造石洗出仕上とは何ですか。
A人造石の表面を洗い出して骨材を見せる仕上げで、耐久性のある近代の技法です。北面の腰部分に用いられています。
Q近くで見られますか。
A東面は通りからよく見えます。屋敷は飲食店「とりなご久兵衛」として営まれており、敷地内は食事の際に見られます。

基本情報

名称旧片岡家住宅南土蔵
所在地京都府福知山市字下柳15
指定区分登録有形文化財(令和3年6月24日登録)
員数1棟
構造及び形式土蔵造2階建、瓦葺、建築面積22平方メートル
建築年大正4年(1915年)/昭和9年移築/令和2年改修
活用飲食店「とりなご久兵衛」
アクセス福知山駅から徒歩約15分。通り側の外観は見学可、内部は食事の際に見学可

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁)— 旧片岡家住宅南土蔵
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00013831
文化遺産オンライン — 旧片岡家住宅主屋
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/591530
福知山市オフィシャルホームページ — 旧片岡家住宅
https://www.city.fukuchiyama.lg.jp/soshiki/7/46298.html

最終更新日: 2026.07.03