ヒガシマル醤油元本社工場とは ― 通りをはさむ二つの敷地に残る醤油蔵6件
ヒガシマル醤油元本社工場は、兵庫県たつの市龍野町大手にある江戸時代後期から大正期にかけての醤油醸造場の建物群で、事務所及び圧搾場、原料庫及び仕込蔵、仕込蔵一・二・三、仕込蔵及び雑品庫の6件が平成25年(2013年)12月24日に国の登録有形文化財に登録された。登録番号は28-0569から28-0574までの連番で、たつの市は6件を「ヒガシマル醤油元本社工場」の名でまとめて紹介している。
所有者は、淡口(うすくち)醤油の醸造元として知られるヒガシマル醤油株式会社である。会社の沿革によると本社の新社屋は昭和53年(1978年)に完成しており、いまの本社と第一工場は同じ龍野町の富永にある。ヒガシマル醤油元本社工場という名称は、この移転より前の本社に付いていた工場群であることを示している。
文化庁のデータベースで年代を見ると、もっとも古いのは江戸後期(1751〜1830年)とされる事務所で、もっとも新しいのは大正期(1912〜1926年)の仕込蔵二である。そのほかの4件と、事務所の背後に増築された圧搾場は明治中期(1883〜1897年)の建築とされる。6件の建築面積を足し合わせると、およそ2,600平方メートルになる。
ヒガシマル醤油元本社工場の配置と6件の役割
文化庁の解説文は、東西に走る通りを境に敷地を「北側敷地」と「南側敷地」に分け、それぞれの建物の位置をたがいを基準にして書いている。つなぎ合わせると、ヒガシマル醤油元本社工場の配置は次のようになる。
- 事務所及び圧搾場(北側敷地):通りに南面する町家風の事務所と、その背面に増築された圧搾場
- 仕込蔵三(北側敷地):事務所及び圧搾場の西隣に建ち、正面を通りに向けた仕込蔵
- 仕込蔵及び雑品庫(北側敷地):敷地の西端でL字形に折れ、通り沿いを雑品庫、北奥を仕込蔵とする
- 原料庫及び仕込蔵(南側敷地):北東隅にあり、水路に東面を向けた原料庫に食塩溶解場・仕込蔵・仕込室・作業場がつながる複合建築
- 仕込蔵一(南側敷地):南東に建ち、南棟を麹室、北棟をその前室として使った2棟並びの蔵
- 仕込蔵二(南側敷地):南西隅で南北棟の土蔵2棟をつなぎ、大きな仕込樽を並べる蔵
用途を並べると、原料を受け入れて塩を溶かし、麹をつくり、樽で仕込み、搾るという醤油造りの工程が、通りの両側にまたがってひと通りそろっていることがわかる。6件はいずれも土蔵造の平屋で、登録基準も6件とも「国土の歴史的景観に寄与しているもの」である。
たつの市は、漆喰塗の壁、虫籠窓、本瓦葺の屋根、水路に面した街区の構成をヒガシマル醤油元本社工場の特徴に挙げ、城下町の町並みとよく調和して、訪れる人にたつのを代表する風景として親しまれていると評している。各棟の造りと見どころは、それぞれのページで扱う。
ヒガシマル醤油元本社工場と龍野醤油の歩み
ヒガシマル醤油の沿革は、創業を天正年間(1580年頃)としている。会社が運営するうすくち龍野醤油資料館の案内によれば、龍野の醤油は円尾孫右衛門長村、横山五郎兵衛宗信、片岡治兵衛らによって始められ、淡口を特色として栄えてきた。原料には播磨平野の小麦や米、山すその大豆、赤穂の塩が使われ、鉄分の少ない軟水である揖保川の伏流水が淡口醤油を生んだと、同じ案内は説明する。
近代の会社組織としては、明治2年(1869年)に藩の物産蔵で浅井醤油が創業し、明治26年(1893年)に片岡家の菊一醤油造合資会社が設立された。この2社が昭和17年(1942年)3月5日に合併して龍野醤油株式会社となり、昭和39年(1964年)にヒガシマル醤油株式会社へ社名を改めている。同社は社名の由来の一つとして、浅井醤油に払い下げられた藩直営の醸造所「物産蔵」が「東蔵」と呼ばれていたことを挙げている。
ヒガシマル醤油元本社工場と同じ街区には、昭和7年(1932年)に菊一醤油造合資会社の本社として建てられた社屋がある。ただし、工場の6件が合併前のどちらの会社によって建てられたのかを示す資料は、今回確認できた範囲には見当たらなかった。
ヒガシマル醤油元本社工場を訪ねるには
ヒガシマル醤油元本社工場の6件はヒガシマル醤油株式会社が所有する工場の建物で、内部を一般に公開するという案内は見当たらない。見学は通りからの外観が中心になり、敷地の中へは入らずに眺めることになる。たつの市は、地元でこの醤油蔵などを活用したさまざまな催しが開かれていると紹介しており、内部を見る機会があるとすれば、そうした催しのときである。
歩き始める場所としては、同じ街区にあるうすくち龍野醤油資料館がわかりやすい。昭和7年(1932年)に建てられた旧本社社屋を使い、昭和54年(1979年)11月に醤油の資料館として開館した施設である。たつの市観光協会の案内では、JR姫新線の本竜野駅から徒歩20分ほど。見学時間は午前9時から午後5時(入館は午後4時30分まで)で、月曜日(祝日の場合は翌火曜日)と年末年始が休館、入館料は10円、普通車30台分の駐車場がある(2026年9月確認)。
資料館の前の通りに立つと、北側に事務所及び圧搾場、仕込蔵三、仕込蔵及び雑品庫の町家風の正面が並ぶ。南側の敷地には原料庫及び仕込蔵、仕込蔵一、仕込蔵二があり、原料庫及び仕込蔵は東側の水路に長い壁を向けている。ヒガシマル醤油元本社工場は操業する会社の私有地なので、撮影は通りからにとどめたい。
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース「ヒガシマル醤油元本社工場事務所及び圧搾場」
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00009811
- 文化庁 国指定文化財等データベース「ヒガシマル醤油元本社工場原料庫及び仕込蔵」
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00009812
- 文化庁 国指定文化財等データベース「ヒガシマル醤油元本社工場仕込蔵一」
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00009813
- 文化庁 国指定文化財等データベース「ヒガシマル醤油元本社工場仕込蔵二」
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00009814
- 文化庁 国指定文化財等データベース「ヒガシマル醤油元本社工場仕込蔵三」
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00009815
- 文化庁 国指定文化財等データベース「ヒガシマル醤油元本社工場仕込蔵及び雑品庫」
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00009816
- たつの市「ヒガシマル醤油元本社工場」
- https://www.city.tatsuno.lg.jp/soshiki/1041/gyomu/5/4/4099.html
- ヒガシマル醤油「沿革」
- https://www.higashimaru.co.jp/about/history.html
- ヒガシマル醤油「会社概要」
- https://www.higashimaru.co.jp/about/outline.html
- ヒガシマル醤油「うすくち龍野醤油資料館」
- https://www.higashimaru.co.jp/enjoy/museum/index.html
- たつの市観光協会「うすくち龍野醤油資料館」
- https://tatsuno-tourism.jp/photo-spot/%E3%81%86%E3%81%99%E3%81%8F%E3%81%A1%E9%BE%8D%E9%87%8E%E9%86%A4%E6%B2%B9%E8%B3%87%E6%96%99%E9%A4%A8/
最終更新日: 2026.09.30
基本情報
| 名称 | ヒガシマル醤油元本社工場 |
|---|---|
| 所在地 | 兵庫県たつの市龍野町大手 |
| 所有者 | ヒガシマル醤油株式会社 |
| 指定 | 登録有形文化財 6件 |
| 座標 | 34.86664, 134.54576 |