斜面に取りついた小さな洋館

李及び山下家住宅主屋は、兵庫県神戸市中央区諏訪山町にある昭和8年頃(1933年頃)建築の木造2階建住宅で、平成18年(2006年)に国の登録有形文化財となった。南斜面に南面して建ち、敷地の南東角に道路が取り付く。

文化庁の記録は素っ気ない。桁行12メートル、梁間8メートル、建築面積85平方メートル。数字だけを見れば小さい。同じ登録有形文化財である北野の浅木家住宅主屋は建築面積126平方メートルある。面白いのは寸法ではなく、その面積をどう割り振ったかのほうだ。

中央に玄関ホールと階段を置き、その両脇に居室を配する。和風住宅のように畳の間を襖でつないでいくのではなく、ホールが動線を捌く。昭和初期の神戸山手では、施主はどちらの型も選べた。この家は前者を選んでいる。

屋根は寄棟造の瓦葺。外壁はモルタル塗で、北野の古い洋館に多い下見板張ではない。そのモルタル面に丸窓と上げ下げ窓が開く。どちらも輸入された意匠だが、昭和初期の神戸ではすでに見慣れた部品になっていた。見慣れてはいても、和風化はしなかった。

「景観に寄与する」という登録理由

登録年月日は平成18年11月29日、告示は同年12月19日。登録番号は28-0250、第53回の登録にあたる。適用された登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」だった。

この一文には立ち止まる価値がある。日本の建造物保護は強度の異なる二階建てになっている。国宝・重要文化財の指定は対象を厳選し、規制も手厚い保護も強い。一方、平成8年(1996年)に始まった登録制度は意図的に緩い。所有者は大きな改変の前に届け出て、許可ではなく指導・助言を受ける。一件ずつ吟味している間に消えていく近代建造物の量に、制度のほうが追いつくための仕組みだった。

その登録基準は三つある。うち二つは建物そのものの出来を問う。ここで使われた三つ目は問いの向きが違う。この建物があることで、周囲の場所がその場所らしくあるか、を問う。李及び山下家住宅主屋はその条件で登録された。設計者の記録はない。施主の要望書も残っていない。あるのは斜面上の位置と、樹木を背にした輪郭と、昭和初期の意匠を保った外観である。

登録有形文化財がすべて傑作というわけではない。制度はもともと、傑作だけを集めるためのものではなかった。

坂道から眺める

諏訪山は神戸中心部でもとりわけ勾配のきつい住宅地だ。道は折り返しを繰り返し、途中で階段になる区間もある。地面の落ち方が大きいので、下の家の屋根が目線の高さに並ぶ。昭和8年頃にここへ建てるなら、まず傾斜への対応から計画が始まる。玄関ホールと階段を中央に据え、日当たりのよい南面に居室を並べた平面は、その答えのひとつだった。

目を引くのは丸窓だろう。小さな開口だが、モルタルの平滑な壁面に開くと、構造上の必然ではなく明らかな意匠として読める。その隣には上げ下げ窓が並ぶ。同じ年代の和風住宅には、港町以外ではまず現れない組み合わせである。

家の上手には諏訪山公園が続く。明治7年(1874年)にフランスの観測隊がこの丘で金星の太陽面通過を観測したことにちなむと伝わる金星台があり、さらに上に全長約90メートルの螺旋橋ヴィーナスブリッジがある。展望台からは神戸港が見渡せる。公園から市街へ下ってくると、この住宅が建てられた地形の性格がよくわかる。

建物は私有で、内部・敷地とも公開されていない。文化庁のデータベースでは法人が所有者として記録されている。見学は公道からの外観のみにとどめ、住宅地であることを踏まえて静かに歩きたい。窓の内側へのカメラ向けや敷地内への立ち入りは控えること。

三宮からは市バス7系統で「諏訪山公園下」下車、そこから徒歩約20分の上り。地下鉄西神・山手線の県庁前駅からなら徒歩30分ほどで、こちらもほぼ登り一方になる。歩きやすい靴で向かうのが無難だ。

Q&A

Q李及び山下家住宅主屋の内部は見学できますか。
Aできません。私有物件で、内部・敷地とも非公開です。特別公開の予定も公表されていません。見学は敷地下の公道からの外観のみとなります。
Q李及び山下家住宅主屋はいつ建てられ、いつ登録されたのですか。
A文化庁は建築年代を昭和8年頃(1933年頃)と記録しています。登録有形文化財としての登録年月日は平成18年11月29日、告示は同年12月19日、登録番号は28-0250です。
Q李及び山下家住宅主屋へは三宮からどう行けばよいですか。
A三宮から市バス7系統に乗り「諏訪山公園下」で下車、そこから徒歩約20分の上りです。地下鉄県庁前駅からは徒歩約30分。経路は勾配が続き階段区間もあるため、キャリーケースやベビーカーには向きません。
Q李及び山下家住宅主屋は重要文化財ではなく登録有形文化財なのはなぜですか。
A登録と指定は別の制度です。指定は対象を厳選し規制も強い一方、平成8年に始まった登録制度は義務が軽く、多数の近代建造物を素早く保護するために設けられました。本件は建築的な突出よりも「国土の歴史的景観に寄与しているもの」という基準で登録されています。
Q李及び山下家住宅主屋の周辺で立ち寄れる場所はありますか。
Aすぐ上手が諏訪山公園です。明治7年の金星観測にちなむ金星台と、その上のヴィーナスブリッジがあります。異人館が集まる北野町山本通の重要伝統的建造物群保存地区へは、山手を東へ徒歩25分ほどです。

基本データ

名称李及び山下家住宅主屋(りおよびやましたけじゅうたくしゅおく)
所在地兵庫県神戸市中央区諏訪山町1-1
指定区分登録有形文化財(建造物) 登録番号 28-0250(第53回登録)
指定年登録:平成18年(2006年)11月29日/告示:同年12月19日
員数1棟
寸法桁行約12メートル、梁間約8メートル、建築面積約85平方メートル。木造2階建、寄棟造、瓦葺
所有者合同会社ジュエリー&ドールまねきねこ(文化庁データベースの記載による)
公開状況非公開。私有物件のため、公道からの外観のみ

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース — 李及び山下家住宅主屋
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00006034
文化遺産オンライン — 李及び山下家住宅主屋
https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/197029
文化庁 — 登録有形文化財(建造物)制度の概要
https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkazai/shokai/yukei_kenzobutsu/toroku_yukei.html
神戸市 — 神戸の文化財
https://www.city.kobe.lg.jp/a21651/kanko/bunka/bunkazai/estate/index.html
Feel KOBE 神戸公式観光サイト — ビーナスブリッジ
https://www.feel-kobe.jp/facilities/0000000091/

最終更新日: 2026.08.27