明治24年頃から店を開けつづける建物

西山酒造場店舗兼主屋は、兵庫県丹波市市島町中竹田にある明治24年(1891年)頃建築の木造2階建て建築で、平成19年(2007年)5月15日に国の登録有形文化財となった。

市道に西面して建ち、いまも建てられた当時の用途で使われている。暖簾をくぐれば、そこは営業中の酒屋である。棚には清酒「小鼓」が並び、かつて酒を搾るのに使った木製の槽が什器に転用され、壁には書と画が掛かる。この帳場は百年以上、途切れずに動いてきた。

西山家がこの地で酒造りを始めたのは嘉永2年(1849年)。建物はその四十数年後に建ち、昭和27年(1952年)頃に改造の手が入った。建築面積204平方メートルは、山あいの酒造集落の商家としては大きい部類に入る。ただし、外から見て派手さはない。

この建物に独特の色を与えているのは規模ではなく、かつてここに集まった人々である。大正4年(1915年)、俳人・高浜虚子が蔵の清酒に「小鼓」の名を与えた。能楽の小鼓にちなむ命名で、虚子は自筆で書を残し、蔵は俳句雑誌「ホトトギス」の発行所を通じた通信販売に乗り出す。以後、俳人や画家が丹波に足を運ぶようになった。店とその奥の座敷は、数十年にわたって地方の文化サロンとして機能したことになる。

登録の理由と建築的な見どころ

登録有形文化財の制度は平成8年(1996年)に始まった、指定文化財よりも規制の緩やかな枠組みである。築後おおむね50年を経た建造物のうち、三つの基準のいずれかを満たすものが対象となる。この建物は第一の基準、すなわち「国土の歴史的景観に寄与しているもの」として登録された。登録番号は28-0270、第54回登録にあたる。

評価の対象は個々の意匠だけでなく、建物の形式そのものにも及ぶ。主体部は妻側から入る妻入で、屋根は入母屋造、桟瓦葺。正面1階は柱を見せる真壁造とし、開口部に木製格子を嵌める。2階は軒下に瓦庇を出し、その奥に虫籠格子を構える。関西の町家に馴染みのある構えである。

内部は、前後に貫く通り土間に沿って和室が並ぶ。土間は人や荷、酒樽が住まいを横切らずに動くための通路だった。

北へ突き出す座敷

専門家が注目するのは北側である。客をもてなす座敷を主体部から前方へ突出させ、独立した棟のように張り出させている。この形式を座敷中門造といい、文化庁のデータベースは当地で特徴的な形式と記す。平面はL字を描き、本来なら奥まった位置に置かれるはずの座敷が、外からその存在を主張する。

誰が客だったかを思えば、これは意匠上の流行というより、来客を前提とした家の実務的な判断だったように見える。

訪れたときに見ておきたいもの

まず道を渡って向かい側に立ちたい。店舗兼主屋の左右に延びる瓦葺の高塀もそれ自体が登録有形文化財で、塀・妻壁・塀という構成は少し離れないと見えてこない。塀の稜線のすぐ上に、店の軒が顔を出す。

入口の近くには石碑が立つ。「ここに美酒あり 名づけて小鼓といふ」という虚子の言葉が刻まれ、これを目当てに訪れる俳句愛好者もいる。虚子の直筆は、いまも建物内に残るとされる。

売場は予約なしで営業時間内に入れる。おおむね9時から17時。建築を見に来た客にも店の人は慣れている。天井の梁を見上げ、2階の格子を内側から眺めてみたい。

店の奥へ進むには予約が要る。酒造りと建物、そして俳句のつながりを案内する見学があり、所要は約30分、開始時刻は13時から16時の間、3日前までの予約制。近畿経済産業局の令和6年(2024年)4月時点の情報では、料金は10名までで1回4,950円とされている。条件は変わりうるので、出かける前に蔵へ確認しておきたい。

屋外の撮影に制限はない。店内や座敷を撮る場合は、ひと声かけてからにする。

交通は分かりやすい。JR福知山線の丹波竹田駅から徒歩約5分。車なら大阪市内から1時間15分ほど、神戸市内からは1時間10分ほどで、敷地内に駐車場がある。令和6年(2024年)8月からは、明治29年(1896年)築の酒蔵を改修した「鼓傳」が同じ敷地で発酵をテーマにしたカフェとギャラリーを開いており、滞在時間を長めに取る理由には事欠かない。

Q&A

Q西山酒造場店舗兼主屋の内部は見学できますか。
A1階は蔵元直売所として営業しており、営業時間内(おおむね9時から17時)なら予約なしで入れます。店の奥の座敷は、予約制の蔵見学のなかで案内されます。
Q西山酒造場の蔵見学の料金と予約方法は。
A近畿経済産業局の案内では、10名までで1回4,950円、所要約30分、開始は13時から16時の間、3日前までに電話またはメールで予約が必要とされています。内容や料金は変更されることがあるため、蔵へ直接確認してください。
Q西山酒造場店舗兼主屋はいつ建てられ、いつ登録されましたか。
A文化庁の国指定文化財等データベースは、建築を明治24年(1891年)頃、昭和27年(1952年)頃改造とし、登録年月日を平成19年(2007年)5月15日、登録番号を28-0270と記録しています。
Q西山酒造場店舗兼主屋と高浜虚子にはどんな関係がありますか。
A三代目蔵主の西山泊雲(本名・亮三)が明治36年(1903年)から虚子に俳句を学び、大正4年(1915年)に虚子が蔵の清酒を「小鼓」と命名しました。雑誌「ホトトギス」を通じて販売されたことで、日本画家の小川芋銭ら文人・画人が蔵を訪れるようになります。
Q西山酒造場店舗兼主屋へ電車で行くにはどうすればよいですか。
AJR福知山線の丹波竹田駅で下車し、徒歩約5分です。車の場合、大阪市内から約1時間15分。普通車50台分と大型バスの駐車スペースがあります。

基本データ

名称西山酒造場店舗兼主屋(にしやましゅぞうじょうてんぽけんしゅおく)
所在地兵庫県丹波市市島町中竹田1171他
指定区分登録有形文化財(建造物) 登録番号 28-0270(第54回登録)
指定年平成19年(2007年)5月15日 登録
員数1棟
寸法木造2階建、瓦葺、建築面積204平方メートル
所有者文化庁データベースに記載なし(西山酒造場が使用・管理)
公開状況1階直売所は営業時間内公開。座敷など内部は予約制の見学で公開

参考文献

文化庁 国指定文化財等データベース「西山酒造場店舗兼主屋」
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00006169
西山酒造場 有形文化財の酒蔵
https://kotsuzumi.co.jp/muhonkan/
西山酒造場 西山酒造場について(清酒 小鼓の誕生)
https://kotsuzumi.co.jp/concept/
近畿経済産業局 関西の見学可能な産業施設「株式会社西山酒造場」
https://www.kansai.meti.go.jp/2kokuji/tvlist/kohyo/873.html
ぶらり丹波路(丹波地域公式観光ポータルサイト)「西山酒造場」
https://www.burari-tambaji.com/spot/197

最終更新日: 2026.08.26