旧町屋変電所:明治の赤煉瓦が語る茨城電化の夜明け
茨城県常陸太田市の静かな河内地区、里川のほとりにひっそりと佇む赤煉瓦の建物――旧町屋変電所(きゅうまちやへんでんしょ)は、明治42年(1909年)頃に建設された変電施設であり、茨城県内で最も初期の電力関連遺構のひとつです。平成11年(1999年)に国の登録有形文化財に指定されたこの建物は、日本の近代産業化の歩みを今に伝える貴重な産業遺産であり、のどかな里山風景の中で静かに歴史を刻み続けています。
歴史:茨城の農村に灯った電気の光
明治42年(1909年)1月、後に日立製作所となる久原鉱業所日立鉱山は、増大する電力需要に対応するため、里川沿いに出力300キロワットの発電機を備えた町屋発電所を新設しました。旧町屋変電所は、この発電所から送られてくる電力を変圧し、周辺地域に配電するための施設として建設されたものです。
明治44年(1911年)の春、常陸太田市出身の実業家・前島平が設立した茨城電気株式会社(後の東京電力の前身のひとつ)が、日立鉱山から町屋発電所を買い取りました。前島平は「茨城の電気王」と呼ばれた人物で、地域の電化に大きく貢献しました。同年11月28日、旧太田町や誉田村、町屋に初めて電灯が灯り、町屋の人々は「電気見たけりゃ町屋へ行け」と誇らしげに語ったと伝えられています。当時、茨城県内で電灯が灯っていたのは水戸、笠間、土浦に続く地域であり、町屋への電力供給は県北地域にとって画期的な出来事でした。
変電所は昭和31年(1956年)頃までその役割を果たし、その後は地域の公民館・集会所として住民に親しまれてきました。しかし老朽化に伴い取り壊しの危機を迎えた際、地域の有志が「河内の文化遺産を守る会」を中心に保存活動を展開。その努力が実を結び、平成11年(1999年)8月23日に国の登録有形文化財(建造物)として登録されました(登録番号008-0014)。
文化財としての価値:なぜ登録有形文化財に指定されたのか
旧町屋変電所が国の登録有形文化財に指定された理由は、建築的価値と歴史的価値の両面にあります。
建築面では、背の高い切妻屋根(きりづまやね)の煉瓦造建屋に、北側に棟を落とした寄棟屋根(よせむねやね)の建屋をつなげるという独特の構成が特徴です。寄棟建屋部分の西面および北面の一部は煉瓦壁で造られており、赤煉瓦の温かみのある外観が印象的です。建物は煉瓦造平屋建で鉄板葺、建築面積は約191平方メートルあります。
歴史的には、茨城県内における最も初期の発電関連施設の遺構として極めて貴重です。電力を受け入れていた碍子(がいし)はフランス製と見られる三相の磁器碍子であり、明治期の日本がヨーロッパの最新技術を取り入れて近代化を進めていった証でもあります。地域の電化という近代産業史上の重要な転換点を物語る建造物として、高い文化財的価値を持っています。
見どころと魅力
赤煉瓦の趣ある外観
百年以上の歳月を経て味わいを増した赤煉瓦の壁面は、周囲に広がる緑の田園風景や里川の流れと美しく調和しています。切妻屋根と寄棟屋根が連なる独特のシルエットは、近代産業建築ならではの力強さと、里山の穏やかな雰囲気が融合した印象的な景観を生み出しています。
銀杏と行灯まつり
変電所のそばに立つ大きな銀杏の木は、毎年秋になると見事な黄金色に染まります。紅葉の時期に合わせて開催される「行灯の赤レンガと銀杏まつり」では、周囲の田んぼに手作りの行灯が並べられ、ライトアップされた赤煉瓦の変電所と黄金の銀杏、さらに里川の水面に映し出される行灯の灯りが幻想的な風景を演出します。生演奏の音楽とともに楽しむ秋の一夜は、地域の方々の手作りの祭りとして多くの来場者を魅了しています。
NHK朝ドラ「ひよっこ」ロケ地
旧町屋変電所は、2017年に放送されたNHK連続テレビ小説「ひよっこ」のロケ地としても知られています。有村架純さん主演の同ドラマは1964年の東京オリンピック前後の時代を舞台にしており、架空の「奥茨城村」のシーンが茨城県北で撮影されました。第3週「明日に向かって走れ!」の聖火リレーのシーンでは、旧町屋変電所を背景に村人たちが聖火リレーの練習をする場面や、聖火を受け取るシーンが印象的に描かれました。
町屋発電所跡
変電所の近くには、元となった町屋発電所の遺構も残されています。発電所の建屋自体は昭和35年(1960年)に旧西河内上小学校の講堂として移築されましたが、石積みの基礎部分や水路、水門などの痕跡を見学することができ、里川の水がどのように水車を回して発電していたかを想像することができます。
町屋石:日本で2か所だけの珍しい石
変電所周辺では「町屋石」と呼ばれる珍しい石も紹介されています。まだら模様や笹模様が特徴的なこの石は、日本全国で常陸太田市と熊本県宇城市のわずか2か所でしか産出されない地質学的にも貴重なものです。
周辺情報
旧町屋変電所がある常陸太田市は、自然豊かな茨城県北エリアに位置し、歴史・文化・自然を楽しめる観光スポットが点在しています。変電所の訪問と合わせて、周辺の見どころも巡ってみてはいかがでしょうか。
- 竜神大吊橋(りゅうじんおおつりばし):全長375メートル、湖面からの高さ約100メートルを誇る日本最大級の歩行者専用吊り橋。バンジージャンプ体験も可能で、春の鯉のぼりまつりや秋の紅葉まつりなど季節のイベントも魅力的です。
- 西山御殿(西山荘):水戸藩第2代藩主・徳川光圀公が晩年を過ごした隠居所。「大日本史」の編纂を監修した歴史的な場所で、四季折々の庭園美が楽しめます。
- 袋田の滝:隣接する大子町にある日本三名瀑のひとつ。高さ120メートル、幅73メートルの壮大な滝で、四段に流れ落ちる姿から「四度の滝」とも呼ばれています。
- 鯨ヶ丘(くじらがおか):常陸太田の旧市街にあたる丘陵地帯。歴史的な商家や赤煉瓦蔵、カフェが並び、レトロな街歩きが楽しめます。旧稲田家住宅赤煉瓦蔵も登録有形文化財です。
- 常陸秋そば:常陸太田市の旧金砂郷地区は日本有数のそばの名産地。地元産のそば粉を使った手打ちそばは格別の香りと風味で、周辺の蕎麦店で味わうことができます。
Q&A
- 建物の中を見学することはできますか?
- 敷地内は自由に見学が可能です。建物内部の見学については事前のお問い合わせをおすすめします。常陸太田市観光振興課(電話:0294-72-8071)にご連絡ください。
- 入場料はかかりますか?
- 無料です。敷地内の見学に費用はかかりません。
- アクセス方法を教えてください。
- JR水郡線の常陸太田駅から車で約20分です。高速道路をご利用の場合は、常磐自動車道の那珂ICまたは日立南太田ICから約40分です。公共バスの便は限られているため、レンタカーまたはタクシーの利用をおすすめします。
- おすすめの訪問時期はいつですか?
- 一年を通じて趣のある景観を楽しめますが、特におすすめは11月の紅葉シーズンです。銀杏の黄葉と「行灯の赤レンガと銀杏まつり」が開催される時期は格別の美しさです。春には里川沿いの桜も見事です。
- 駐車場はありますか?
- 変電所周辺に駐車スペースがあります。ただし、アクセス道路は狭い箇所もございますので、運転には十分ご注意ください。
基本情報
| 名称 | 旧町屋変電所(きゅうまちやへんでんしょ) |
|---|---|
| 文化財指定 | 国登録有形文化財(建造物)/登録年月日:平成11年(1999年)8月23日 |
| 建設年代 | 明治42年(1909年)頃 |
| 構造 | 煉瓦造平屋建、鉄板葺、建築面積約191㎡ |
| 元来の用途 | 町屋水力発電所の変電施設 |
| 所在地 | 〒311-0312 茨城県常陸太田市西河内下町1382-1 |
| 所有 | 常陸太田市 |
| 見学料 | 無料(敷地内自由見学可、建物内部は要問合せ) |
| アクセス | JR水郡線 常陸太田駅から車で約20分/常磐自動車道 那珂ICまたは日立南太田ICから車で約40分 |
| お問い合わせ | 常陸太田市観光振興課 電話:0294-72-8071 |
参考文献
- 旧町屋変電所 — 文化遺産オンライン
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/138511
- 旧町屋変電所 — 常陸太田市公式ホームページ
- https://www.city.hitachiota.ibaraki.jp/page/page000223.html
- 旧町屋変電所 — 茨城県教育委員会
- https://kyoiku.pref.ibaraki.jp/bunkazai/bunkazai-registered-6504/
- 旧町屋変電所 — 常陸太田市観光物産協会
- https://www.kanko-hitachiota.com/page/page000045.html
- 旧町屋変電所 — 行灯の赤レンガと銀杏まつり(河内の文化遺産を守る会)
- http://aka-renga.hitachi-ohta.net/hendensyo.html
- 連続テレビ小説「ひよっこ」特設ページ — 常陸太田市観光物産協会
- https://www.kanko-hitachiota.com/sp/page/page001057.html
最終更新日: 2026.03.22