旧稲田家住宅赤煉瓦蔵:鯨ヶ丘に佇む明治の赤煉瓦遺産
茨城県常陸太田市の歴史的な街並みが残る鯨ヶ丘地区。その通り沿いに堂々と建つ旧稲田家住宅赤煉瓦蔵(きゅういなだけじゅうたくあかれんがぐら)は、明治43年(1910年)に建造された煉瓦造三階建ての蔵です。平成26年(2014年)に国の登録有形文化財に登録され、優れた建築技術と鯨ヶ丘の歴史的街路景観への貢献が高く評価されています。現在は「オープンギャラリー倉」として地域の文化活動に活用されており、明治期の匠の技と現代のアートが出会う、唯一無二の空間となっています。
歴史:酒造業を営んだ豪商「稲田屋」の遺産
この赤煉瓦蔵は、明治43年(1910年)に地元で酒造業を営んでいた「稲田屋」の稲田敬造氏によって建造されました。明治17年(1884年)に茨城県で発行された「勧業年報」には、太田町東一町20番地に「稲田屋」の屋号が記録されており、稲田家が長きにわたりこの地で事業を展開してきた名家であったことがうかがえます。
この蔵は「袖蔵」と呼ばれる形式で、主屋に付属する蔵として貴重な品々や酒造関連の物品を保管するために使われていました。往時には隣接地に赤煉瓦二階建ての外壁に漆喰跡が残る土蔵造りの商家があり、敷地内には三つの井戸跡や裏門の門柱、敷地を囲む煉瓦塀が残されていたと伝えられ、豪商「稲田屋」の繁栄ぶりを偲ぶことができます。
建築を手がけたのは、当時太田市金井町に在住していた宮大工棟梁の齋藤辰吉氏です。齋藤氏は同時期に建造された国の重要文化財である旧太田中学校講堂の建築にも関わったとされ、この赤煉瓦蔵にもその影響が感じられる興味深い作風となっています。特に三階の天井部分における柱と梁の組み方の美しさは、齋藤辰吉氏の卓抜した技術の粋が凝縮されており、訪れる人を魅了し続けています。
登録有形文化財としての価値
旧稲田家住宅赤煉瓦蔵は、平成26年(2014年)10月7日に国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。茨城県内では明治期に建造された三階建ての赤煉瓦蔵が非常に少ないことから、平成21年(2009年)に常陸太田市の委託を受けた筑波大学による学術調査が行われ、その建築的価値が学術的にも確認されています。
文化庁の登録説明では、桁行三間・梁間二間の妻入の煉瓦造三階建てであること、ペディメント(三角破風)を飾り、コーニス(蛇腹)を廻らしていることが記されています。特に二階・三階の両妻面に設けられた黒漆喰の掛子塗による観音開きの扉は、高度な左官技術の証として特筆されています。明治期の西洋建築の意匠と日本の伝統的な左官技術が見事に融合した、この地域ならではの建築遺産です。
また、鯨ヶ丘の歴史的な街路景観に寄与する重厚な煉瓦蔵として、地域の景観形成においても重要な役割を果たしている点が登録の重要な理由の一つとなっています。
見どころ:西洋と和の技が織りなす建築美
赤煉瓦蔵の外観は、丁寧に積み上げられた赤煉瓦の壁面が三階建ての堂々たる姿を見せ、周囲の木造商家建築と美しいコントラストを描いています。屋根は当初の瓦葺きから現在はガルバリウム鋼板葺に改められていますが、建物全体の歴史的なプロポーションは保たれています。通り側に妻面(三角形の壁面)を向け、平側に入口を持つ配置は、商家の袖蔵として典型的な構成です。
建物内部で最も注目すべきは、三階の天井部分です。宮大工棟梁・齋藤辰吉氏による柱と梁の精緻な組み方は、日本の伝統的な木造建築技術の極致を示しており、煉瓦造の建物でありながら内部に和の匠の技を宿す独特の空間を生み出しています。
現在、この蔵は「オープンギャラリー倉」として再活用されており、絵画の個展やアートイベントなどに貸し出されています。歴史的な建造物の中で現代アートに触れるという、他では味わえない特別な体験ができる場所です。平成23年(2011年)に改修工事が行われ、建物の保存と活用の両立が図られています。
鯨ヶ丘:鯨の背に広がるレトロな街並み
赤煉瓦蔵が建つ鯨ヶ丘は、茨城県北部で最も情緒ある歴史的街並みの一つです。「鯨ヶ丘」の名は、この高台の地形が海に浮かぶ鯨のように見えることに由来しています。4世紀頃、日本武尊が東征の折にこの丘を見て、その姿が鯨に似ていることから「久自(くじ)」と名付けたという伝承が残されています。
約600メートルにわたる鯨ヶ丘商店街には、明治・昭和時代の店蔵が並び、土蔵造りや町屋造りの古い建物が自然な形で残されています。多くの建物には歴史を紹介する説明板が設置されており、街歩きをしながら各建物の物語を知ることができます。
散策の際にはぜひ立ち寄りたいのが、商店街中心部にある「くじら屋」です。鯨ヶ丘の名物「くじら焼き」は、たい焼きの鯨バージョンで、小倉あん・カスタード・チョコレートの3種類が楽しめます。また、昭和11年(1936年)に建てられた旧太田町役場「梅津会館」(現・常陸太田市郷土資料館)も国の登録有形文化財であり、佐竹氏関連の歴史資料や地域の考古資料を展示しています。
周辺情報:常陸太田の魅力を満喫する
常陸太田市には鯨ヶ丘以外にも多彩な観光スポットがあります。竜神大吊橋は全長375メートルを誇る日本最大級の歩行者用吊橋で、高さ100メートルからのバンジージャンプも楽しめます。橋から見渡す八溝・阿武隈山系の山並みと竜神ダム湖面の眺望は圧巻です。
歴史好きの方には、もう一つの登録有形文化財である旧町屋変電所や、茅葺き屋根の本堂が国の重要文化財に指定されている佐竹寺がおすすめです。また、徳川光圀(水戸黄門)ゆかりの西山荘も近隣にあり、水戸藩の歴史を深く知ることができます。
グルメでは、常陸太田が誇る「常陸秋そば」が外せません。日本でも最高級とされる蕎麦の産地として知られ、毎年開催されるそばまつりには全国からそば職人が集まります。文化財めぐりと蕎麦の食べ歩きを組み合わせた旅は、常陸太田ならではの楽しみ方です。
Q&A
- 旧稲田家住宅赤煉瓦蔵の内部は見学できますか?
- はい。現在は「オープンギャラリー倉」として活用されており、絵画の個展やイベント開催時に内部を見学できます。開催スケジュールは不定期のため、訪問前に常陸太田市観光物産協会にご確認いただくことをお勧めします。
- 東京からのアクセス方法を教えてください。
- 東京方面からは、JR常磐線で水戸駅まで行き、JR水郡線に乗り換えて常陸太田駅で下車します。水戸駅から常陸太田駅までは約40分です。駅から鯨ヶ丘地区の赤煉瓦蔵までは徒歩約12〜15分です。お車の場合は、常磐自動車道の那珂ICから国道349号経由で約20分、または日立南太田ICから国道293号経由で約20分です。
- おすすめの見学時期はいつですか?
- 鯨ヶ丘は四季を通じて楽しめます。春は桜、秋は紅葉が美しく、3月初旬のひなまつりイベントでは商店街各店にひな人形が飾られ、華やかな雰囲気に包まれます。秋のそばまつりの時期もおすすめです。
- 駐車場はありますか?
- 梅津会館(常陸太田市郷土資料館)前に無料駐車場があります。鯨ヶ丘地区内にあり、赤煉瓦蔵を含む歴史的街並みの散策拠点として便利にご利用いただけます。
- 周辺で食事やお土産を楽しめますか?
- 鯨ヶ丘商店街には古民家カフェや和菓子店、雑貨店などが並んでいます。名物の「くじら焼き」は食べ歩きにぴったりです。また、常陸太田は「常陸秋そば」の産地として有名で、市内各所で本格的な蕎麦を味わうことができます。
基本情報
| 名称 | 旧稲田家住宅赤煉瓦蔵(きゅういなだけじゅうたくあかれんがぐら) |
|---|---|
| 文化財区分 | 国登録有形文化財(建造物) 登録日:平成26年(2014年)10月7日 |
| 建造年 | 明治43年(1910年)/平成23年(2011年)改修 |
| 構造 | 煉瓦造3階建、鋼板葺(旧瓦葺)、建築面積約23㎡ |
| 建築者 | 齋藤辰吉(宮大工棟梁) |
| 建造主 | 稲田敬造(酒造業「稲田屋」) |
| 現在の用途 | オープンギャラリー倉(地域ギャラリー・イベントスペース) |
| 所在地 | 〒313-0055 茨城県常陸太田市東一町字東一東2295-2 |
| アクセス | JR水郡線 常陸太田駅から徒歩約12〜15分/常磐自動車道 那珂ICから国道349号経由約20分 |
| お問い合わせ | 常陸太田市観光振興課 電話:0294-72-8071 |
参考文献
- 旧稲田家住宅赤煉瓦蔵 — 文化遺産オンライン(文化庁)
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/287939
- 旧稲田家住宅赤煉瓦蔵 — 茨城県教育委員会
- https://kyoiku.pref.ibaraki.jp/bunkazai/bunkazai-registered-5993/
- 旧稲田家住宅赤煉瓦蔵 — 常陸太田市観光物産協会
- https://www.kanko-hitachiota.com/sp/page/page000962.html
- 周辺ガイド — 常陸太田市公式ホームページ
- http://www.city.hitachiota.ibaraki.jp/page/page003381.html
- 鯨ヶ丘商店街 — 観光いばらき(茨城県観光物産課)
- https://www.ibarakiguide.jp/spot.php?mode=detail&code=370
- アクセス — 常陸太田市公式ホームページ
- https://www.city.hitachiota.ibaraki.jp/page/page000030.html
最終更新日: 2026.03.02