大火を免れた理容店

平松理容店店舗兼住宅(ひらまつりようてんてんぽけんじゅうたく)は、茨城県石岡市府中二丁目にある昭和3年(1928年)建築の木造店舗建築で、平成16年(2004年)7月23日に国の登録有形文化財となった。

市街中心地の中町通りから西へ入った通りに北面して建つ。この立地は見た目以上に意味をもつ。昭和4年(1929年)の大火で石岡の中心部は大きく焼け、現在この町で見られる看板建築のほとんどは、その後の二、三年に建てられたものである。平松理容店はすでに建っていた。罹災を免れ、石岡に残る看板建築のなかで最も古い一棟となった。

正面は擬石で洋風に仕上げられている。背後は木造二階建、屋根は鋼板葺、建築面積は84平方メートル。向かいの歩道に立って眺めると、ギリシャの小神殿を店の間口幅まで圧縮したような姿に見える。

石の役目を果たす左官仕事

登録番号は08-0134。登録基準は「造形の規範となっているもの」で、登録告示は平成16年8月17日付である。

この正面をつくった技法は人造石洗い出しと呼ばれる。石の骨材を混ぜたモルタルを塗り、完全に固まる前に表面を洗い流して骨材を浮き出させ、切石のように見せる仕上げである。石岡の看板建築の性格は、この技法を得意とした地元の左官職人によるところが大きく、複数の建物が同じ手から出ている。職人の名は資料により表記が異なるため、ここでは記さない。

技法の選択が何を可能にしたかが要点になる。人造石を扱える左官なら、古典様式の蛇腹も柱頭飾りもつくれる。逆に、伝統的な蔵の技法で洋風をやろうとすれば、できあがるのは店蔵に近いものになる。石岡の店舗正面が江戸趣味に寄らず洋風へ振り切れた理由はここにあり、その最初の一棟が平松理容店だった。

入口の上に架かる天蓋には、コリント様式風のアカンサスの葉が飾られている。考古学的に正確なコリント式ではない。その隔たりこそが看板建築の面白さで、無名の職人たちが書物や写真で見た西洋の意匠を、手元にある在来の技術で組み立て直している。

平面は小さく、簡潔である。理容室は正面二間半、奥行二間半、およそ4.5メートル四方。その奥に和室三室を一列に配する。年月のなかで改造は加えられているが、登録の解説は内外とも往時の様子をよく留めていると記す。

いまも営業中

ここは資料館ではない。平松理容店は昭和3年に現店主の祖母が開業して以来、髪を切り続けており、親子三代にわたって同じ家族が営んでいる。地元では「西洋床屋」の名で親しまれてきた。

専門家が見に来るのは床である。三和土(たたき)に大鋸屑を混ぜて仕上げたもので、この作り方の床はほとんど残っていない。壁一面の理容鏡と理容椅子も開業当時のもの。昭和4年の大火、戦争、平成23年(2011年)の東日本大震災を、これらの設えを保ったまま通り抜けてきた。

営業中の店であるため、入館料も見学時間も設定されておらず、同時に観光目的で立ち入る権利もない。内部を見られるのは客としてである。それ以外の場合は通りから外観を眺め、撮影する形になる。外観の撮影に制限はないが、営業中に店内をのぞき込むのは避けたい。散髪こそが、内部を見るための正攻法といえる。

JR常磐線石岡駅から徒歩15分ほど。中町通りから香丸通り付近で西へ折れた通りの北側に建つ。登録建物が集まる中町通りの並びからは外れているため、見落とされやすい。駅の観光案内所で配布している散策マップには位置が示されている。喫茶店四季、すがや化粧品店、森戸文四郎商店、十七屋履物店、久松商店はいずれも徒歩圏内で、あわせて一、二時間の道のりになる。

Q&A

Q平松理容店店舗兼住宅は今も理容店として営業していますか?
A営業しています。昭和3年(1928年)の開業以来続いており、同じ家族が親子三代にわたって営んでいます。観光施設ではなく現役の店舗です。
Q平松理容店店舗兼住宅の内部は見学できますか?
A観光目的の見学は受け付けていません。内部を目にできるのは散髪に訪れた客としてです。それ以外の場合は通りから外観をご覧ください。外観の撮影に制限はありませんが、営業中に店内をのぞき込む行為は控えてください。
Q平松理容店店舗兼住宅の正面は何でできているのですか?
A人造石洗い出しによる擬石仕上げです。石の骨材を混ぜたモルタルを、固まりきる前に洗い流して骨材を浮き出させ、切石のように見せる左官技法によります。入口上の天蓋にはコリント様式風のアカンサスの葉が施されています。
Q石岡の看板建築のなかで平松理容店店舗兼住宅はどう位置づけられますか?
A昭和3年(1928年)の建築で、翌昭和4年の大火の罹災を免れています。石岡の看板建築の大半が大火後の復興として建てられたなかで、大火以前から現存する最も古い一棟にあたります。
Q平松理容店店舗兼住宅への行き方は?
AJR常磐線石岡駅から徒歩約15分です。中町通りから香丸通り付近で西へ入った通りの北側に北面して建っています。登録建物が並ぶ中町通りから外れているため、駅の観光案内所で配布している散策マップを持参すると見つけやすくなります。

基本情報

名称平松理容店店舗兼住宅
所在地茨城県石岡市府中2-7-20
指定区分登録有形文化財(登録番号08-0134)/登録基準「造形の規範となっているもの」
指定年平成16年(2004年)7月23日登録、同年8月17日告示
員数1棟
寸法木造2階建、鋼板葺、建築面積84平方メートル。理容室は正面2間半・奥行2間半。昭和3年(1928年)建築
所有者国のデータベースに記載なし(民間所有)
公開状況外観は常時見学自由。現役の理容店であり、内部の観光見学は不可

参考文献

国指定文化財等データベース 平松理容店店舗兼住宅
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00004201
石岡市観光協会 平松理容店
https://www.ishioka-kankou.com/sightseeing/machinami/machinaka-toroku/page000032.html
石岡市 旧石岡市内の看板建築
https://www.city.ishioka.lg.jp/page/page001492.html
全国理容生活衛生同業組合連合会 看板建築の理容店 平松理容店(茨城県)
https://www.riyo.or.jp/vol-33-%E3%82%AE%E3%83%AA%E3%82%B7%E3%83%A3%E7%A5%9E%E6%AE%BF%E9%A2%A8%EF%BC%9F-%E7%9C%8B%E6%9D%BF%E5%BB%BA%E7%AF%89%E3%81%AE%E7%90%86%E5%AE%B9%E5%BA%97-%E5%B9%B3%E6%9D%BE%E7%90%86%E5%AE%B9%E5%BA%97/
石岡市 石岡市街並み修景ガイドライン(平成29年3月)
https://www.city.ishioka.lg.jp/data/doc/1493193375_doc_103_1.pdf

最終更新日: 2026.08.06