大火の翌々年に建った砂糖問屋
福島屋砂糖店店舗兼住宅は、茨城県石岡市国府三丁目に建つ木造二階建の商家建築で、昭和6年(1931年)の建築、平成15年(2003年)7月1日に国の登録有形文化財に登録された。
建つのは中町通り。常陸国の国府が置かれた土地で、近世以降は商人町として続いてきた通りである。昭和4年(1929年)3月、この一帯を大火が襲った。焼け跡に立った商店主たちが選んだのは、当時の地方都市に広がりつつあった様式だった。木造の躯体の前面にモルタルや銅板で平らな壁を立て、洋風の軒蛇腹や柱形を刻む。のちに建築史の用語で看板建築と呼ばれる形式である。
福島屋は、そこで別の判断をした。
軽やかで舞台装置的な正面を採らず、桟瓦葺・切妻造・平入という古い商家の骨格をそのまま立ち上げた。棟瓦を厚く積み上げた大棟、間口いっぱいに差し掛けた下屋庇、そして黒く塗り込めた外壁。竣工年から受ける印象より一世代古く見える建物が、こうして生まれた。
登録理由となった壁―漆喰ではなくコンクリート
登録基準は「再現することが容易でないもの」。その根拠は、通りの向かいから眺めるだけでは分からないところにある。伝統的な商家の黒漆喰に見える外壁が、実際にはコンクリートで造られているのである。
この規模の商家であれば、外壁は土壁に漆喰を塗り重ねるのが常道だった。昭和6年当時のコンクリートは橋梁やサイロ、官公庁の建物のための材料であって、地方都市の砂糖問屋が店構えに使う素材ではない。福島家の誰か、あるいは請け負った大工が、それでも新しい材料を選び、しかも黒く仕上げて伝統的な外観に見せた。
建築面積は146平方メートル、員数は1棟。登録番号は08-0075、第37回の登録で、登録告示は同年7月17日付である。
石岡市内の登録有形文化財はおよそ19棟。その大半が同じ大火後の復興で建てられたものだ。並べてみると、福島屋だけが流行を選ばず、重厚さのほうへ舵を切っていることが分かる。
通りから見るべき三か所
まず屋根。棟瓦を何段も積み上げた大棟が、正面全体に重みを与えている。手間も費用もかかる仕様で、それを見せるための造りでもある。
視線を下げて二階の軒へ。出桁を三段の蛇腹に刻んでいる。日本の大工技術だけで組みながら、洋風のコーニスに近い見え方をする部分で、午後の斜光が入ると陰影がはっきりする。ここを見上げずに通り過ぎる人が多い。
そして壁面そのもの。コンクリートは漆喰と同じようには古びない。漆喰であれば細かな貫入が入り、部分的に剥落していくところ、この壁はもっと広く平坦な単位で風化してきた。近づいて見ると、戦前の商家に対して目が予期する肌合いと、わずかにずれている。
一階には買い物客が立つ深い下屋庇。これはこの通りのほとんどの建物が何らかの形で共有している構えである。
二軒隣には昭和5年建築の十七屋履物店と久松商店が並ぶ。どちらも登録有形文化財で、縦長の連窓と持送り風の柱頭飾りを持つ看板建築の典型だ。福島屋との間に立つと、同じ火事に対する二つの答えが、一年の間に隣り合って出されたことが見て取れる。
見学と周辺
建物は個人所有で、現在も店舗として使われている。拝観料も受付もない。外観は公道からいつでも見られ、それが見学のすべてである。営業している時間帯には客として入ることもできるが、観光施設ではなく商いの場であることを踏まえたい。
公道からの外観撮影に制限はない。店内や住人を写す場合は、ひと声かけてからにしたい。
JR常磐線石岡駅から、駅前通りを西へ7分ほど歩くと中町通りに突き当たる。そこから数分で建物の前に着く。全体で徒歩10分程度、道はほぼ平坦である。
同じ通りにある丁子屋は、昭和4年の大火を免れた江戸末期の商家で、現在は観光交流施設「まち蔵 藍」として開放されている。街歩きの起点にしやすい。石岡駅の観光案内所では、登録文化財の位置を記した散策マップを配布している。
2月下旬から3月上旬にかけては「いしおか雛巡り」があり、通り沿いの店先に雛飾りが並ぶ。9月中旬には常陸國總社宮大祭が行われ、関東でも屈指の規模の山車と幌獅子が中町通りを埋める。
Q&A
- 福島屋砂糖店店舗兼住宅は内部を見学できますか。拝観料はかかりますか。
- 個人所有かつ現役の店舗のため、観光施設としての内部公開は行われていません。拝観料もありません。外観は公道から常時見学でき、営業時間中であれば客として立ち寄ることは可能です。営業時間は公表されておらず、所有者の裁量によります。
- 福島屋砂糖店店舗兼住宅へのアクセスと所要時間を教えてください。
- JR常磐線石岡駅が最寄りです。駅前通りを西へ進み、中町通り(国道355号)に出て少し歩くと到着します。徒歩約10分、平坦な道のりです。車の場合は中町通り沿いの商店街駐車場が利用できます。
- 福島屋砂糖店店舗兼住宅は、隣の看板建築とどこが違うのですか。
- 隣接する十七屋履物店や久松商店は、平らな正面壁を洋風に装飾した看板建築です。福島屋は桟瓦葺・切妻造・平入という伝統的な商家の構成を採り、黒い外壁で重厚に見せています。その外壁が土壁漆喰ではなくコンクリートで造られている点が、登録の理由とされています。
- 福島屋砂糖店店舗兼住宅の写真撮影はできますか。
- 公道からの外観撮影は自由です。建物は東を向いているため、午前は正面に光が回り、午後は三段蛇腹の軒に横から光が入って陰影が出ます。店内や人物を撮る場合は事前に許可を得てください。
- 福島屋砂糖店店舗兼住宅はいつ建てられたのですか。
- 昭和6年(1931年)の建築です。昭和4年3月の石岡大火で一帯が焼けた二年後にあたります。厚く積んだ棟瓦や切妻の屋根、黒い壁といった要素は当時すでに古い商家の語彙であり、そのために周囲より古い建物に見えます。
基本情報
| 名称 | 福島屋砂糖店店舗兼住宅(ふくしまやさとうてんてんぽけんじゅうたく) |
|---|---|
| 所在地 | 茨城県石岡市国府3-4-20 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) 登録番号 08-0075 |
| 指定年 | 登録 平成15年(2003年)7月1日/告示 同年7月17日 |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 木造2階建、瓦葺、建築面積146平方メートル |
| 所有者 | 個人(文化庁データベースに所有者名の記載なし) |
| 公開状況 | 外観は公道から常時見学可、拝観料なし。内部は現役の店舗として使用中で一般公開はなし |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース 福島屋砂糖店店舗兼住宅
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00003353
- 石岡市公式ホームページ 福島屋砂糖店
- https://www.city.ishioka.lg.jp/kosodate_kyoiku_sports/rekishi_bunka/kunitorokubunkazai/page000904.html
- 中町商店街(茨城県石岡市)
- https://nakamachi-shoutengai.com/
最終更新日: 2026.08.06