十七屋履物店店舗兼住宅:石岡の看板建築の先駆け
茨城県石岡市の中町通りに堂々と佇む十七屋履物店店舗兼住宅は、昭和初期の商業建築の魅力を今に伝える木造2階建ての建物です。国の登録有形文化財に登録されたこの元履物店は、昭和4年(1929年)の大火後、この地区で最初に再建された建物として、石岡における「看板建築」の先駆けとなりました。西洋の装飾モチーフと日本の伝統的な木造建築を融合させたそのファサードは、約1世紀の時を経てなお、訪れる人々を魅了し続けています。
歴史的背景:昭和4年の大火と石岡の復興
石岡市は、かつて常陸国の国府が置かれた歴史ある街であり、旧水戸街道沿いの中心市街地は長く商業の中心地として栄えてきました。しかし昭和4年(1929年)、大火が町の中心部を襲い、多くの建物が焼失する甚大な被害をもたらしました。
この大火の後、中町通り沿いの商人たちは「看板建築」という新しい建築様式で店舗を再建しました。看板建築は、大正12年(1923年)の関東大震災後に東京で普及した様式で、木造建築の正面にモルタルや銅板、タイルなどの耐火材で覆った平坦なファサードを設けるのが特徴です。防火性を高めると同時に、店舗の個性的な「看板」としての役割も果たしました。
十七屋履物店は、昭和5年(1930年)に完成した、大火後この地区で最初に再建された建物です。まさに石岡における看板建築の先駆けとして、その後に続く周辺店舗の再建の手本となりました。
文化財としての価値
十七屋履物店店舗兼住宅は、平成15年(2003年)9月19日に国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。その文化財としての価値は多岐にわたります。第一に、昭和初期に隆盛した商業建築の好例として、地方都市の商人たちが西洋の装飾意匠を巧みに取り入れた創意工夫を示しています。第二に、大火後に最初に再建された建物として、地区の復興と看板建築の普及における先駆的な役割を果たしました。第三に、同じ通りに残る他の登録文化財と一体となって、現代の日本では希少な歴史的街並みを形成しています。
建築の見どころ
建物は木造2階建て、スレート葺きで、建築面積は135平方メートルです。間口約4間半(約8メートル)、奥行約11間半(約21メートル)という、日本の伝統的な商家に見られる奥行きの深い敷地形状を持っています。
最大の見どころは、2階のファサードの精緻な装飾です。中央には持送風(ブラケット風)の柱頭飾りの上に柱型が立ち上がり、その左右に縦長の連窓がシンメトリーに配置されています。軒下には、北イタリアのロマネスク建築に由来するロンバルディア帯(小アーチの連続モチーフ)があしらわれており、地方の小さな商店としては非常に洗練された意匠です。
1階の正面右側には商品陳列棚が設けられ、かつては下駄や草履などの和装履物が並べられていました。黄土色を基調に、緑色の文字で「十七屋商店」と記され、茶色の枠で囲まれた大胆な色彩構成は、現在も目を引く印象的な外観を保っています。
石岡の看板建築群を巡る
十七屋履物店は、中町通りとその周辺に集まる11棟の登録有形文化財のひとつです。それぞれ個性的な意匠を持つこれらの建物を巡る街歩きは、訪れる人々に大きな楽しみを与えてくれます。隣接する久松商店のドイツ下見板張り、三角形のペディメントが特徴的なすがや化粧品店、コリント様式風の柱頭飾りを持つ喫茶店四季、そして大火を免れた江戸末期の染物屋・丁子屋など、見どころは尽きません。
石岡駅近くの観光案内所では「まちなかの登録文化財散策まっぷ」を入手できます。丁子屋は現在「まち蔵藍」として地域の文化施設・観光案内所となっており、地区の歴史を学びながら休憩を楽しむことができます。
周辺の観光情報
石岡市は看板建築以外にも多くの魅力を備えています。毎年9月に常陸總社宮で行われる「石岡のおまつり」は関東三大祭りのひとつに数えられ、豪華な山車や獅子が街を練り歩きます。市の西部に広がる八郷地区は筑波山麓の美しい田園風景が広がり、果樹園巡り、やさと温泉ゆりの郷、いばらきフラワーパークなどが楽しめます。また、古代常陸国府跡は、石岡が長く地域の中心として栄えてきた歴史を物語っています。
Q&A
- 看板建築とはどのような建物ですか?
- 看板建築とは、大正12年(1923年)の関東大震災後に普及した商業建築の様式です。木造建築の正面にモルタルや銅板、タイルなどの耐火材で覆った平坦なファサードを設け、防火性と装飾性を兼ね備えた建物です。正面の平らな壁面が店の「看板」のような役割を果たすことからこの名が付けられました。
- 十七屋履物店の内部は見学できますか?
- 建物は個人所有の店舗兼住宅です。歴史的には履物店として営業されていましたが、現在の営業状況は時期により異なる場合があります。建築の魅力は通りからファサードを鑑賞することで十分に堪能できます。見学の際は、所有者の方への配慮をお願いいたします。
- 石岡の看板建築群へのアクセスは?
- JR常磐線石岡駅から徒歩約10分です。駅の西側を通る旧水戸街道(現在の国道355号線の一部)沿いの中町通りに、登録文化財の看板建築が集まっています。駅近くの観光案内所で散策マップを入手できます。
- ロンバルディア帯とは何ですか?
- ロンバルディア帯は、北イタリアのロマネスク建築に由来する装飾モチーフで、壁面に沿って小さなアーチが連続するデザインです。十七屋履物店では軒下にこの装飾が施されており、地方の商店建築としては非常に洗練された西洋建築の意匠を取り入れている点が特徴的です。
- 周辺に他の登録文化財はありますか?
- はい、石岡の中町通り周辺には11棟の登録有形文化財があります。久松商店、すがや化粧品店、喫茶店四季、福島屋砂糖店、森戸文四郎商店、丁子屋などがあり、昭和初期の看板建築群としては日本でも有数の規模を誇ります。
基本情報
| 名称 | 十七屋履物店店舗兼住宅(じゅうしちやはきものてんてんぽけんじゅうたく) |
|---|---|
| 文化財区分 | 国登録有形文化財(建造物) |
| 登録年月日 | 平成15年(2003年)9月19日 |
| 建築年 | 昭和5年(1930年) |
| 構造 | 木造2階建、スレート葺、建築面積135㎡ |
| 所在地 | 茨城県石岡市国府3-4-22 |
| アクセス | JR常磐線石岡駅から徒歩約10分 |
参考文献
- 十七屋履物店 — 石岡市公式ホームページ
- https://www.city.ishioka.lg.jp/kosodate_kyoiku_sports/rekishi_bunka/kunitorokubunkazai/page000898.html
- 十七屋履物店 — 石岡市観光協会公式ホームページ
- https://www.ishioka-kankou.com/sightseeing/machinami/machinaka-toroku/page000027.html
- 十七屋履物店店舗兼住宅 — 文化遺産オンライン
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/194499
- 国指定文化財等データベース — 文化庁
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00003499
最終更新日: 2026.04.09