内外大神宮:常陸国唯一の伊勢神宮御厨に伝わる、日本最古の双殿神明造

茨城県筑西市の北郊、ゆるやかな丘陵地に鎮座する内外大神宮(ないげだいじんぐう)は、日本でも極めて珍しい「伊勢神宮の縮図」とも呼べる神社です。玉垣に囲まれた神域には、本格的な神明造の内宮本殿と外宮本殿が並び立ち、その傍らには、両本殿よりさらに古い御遷殿(ごせんでん)が静かに佇んでいます。これら三棟は、両本殿の御門とともに平成21年(2009年)12月、国の重要文化財に指定されました。観光地化されていない静謐な境内で、日本の社殿建築の原点を間近に体感できる場所です。

千年の歴史をもつ伊勢神宮の御厨

内外大神宮の歴史は平安時代初期にさかのぼります。社伝によれば、平安時代の大同元年(806年)に社殿が造営されたと伝わり、周辺一帯は中世には伊勢神宮の御厨(みくりや)でした。御厨とは、伊勢神宮に供える神饌(しんせん)を納める神領のことを指します。寛治・康和年間(1087〜1104年)には、この地が伊勢神宮内宮領として「小栗保(おぐりのほ)」(御厨)に位置づけられました。常陸国にあって伊勢神宮内宮領となった御厨はここだけであり、その地位は別格でした。

御厨の管理を担ったのが、桓武平氏の流れを汲む常陸平氏の小栗氏です。鎌倉幕府の正史『吾妻鏡』には、小栗氏の一族・小栗重成が源頼朝に従って活躍したことが記されています。そして時代が下り、小栗氏最後の武将となった小栗助重は、後世に「小栗判官」として説話・歌舞伎・浄瑠璃にうたわれた伝説のヒーローでもあります。

応永年間(1394〜1427年)、本殿は戦火によって焼失しました。現在の社殿が再建されたのは延宝7年(1679年)のことで、地元の大工の手によって建てられました。その後、宝暦3年(1753年)頃に、当初は現在の拝殿の位置にあった両本殿が、後方の現在地へと移されています。

三棟が重要文化財に指定された理由

内外大神宮が国の重要文化財として高く評価されたのは、平成21年(2009年)12月8日のことでした。その文化財的価値は、大きく三つの観点から認められています。

日本最古の「神明造三間社本殿の双殿並立」形式

神明造は日本最古の社殿様式とされ、伊勢神宮で用いられる最も格式高い形式です。しかし伊勢神宮自体は20年に一度の式年遷宮を行うため、古い建物の現存例はありません。一方、内外大神宮の両本殿は、延宝7年(1679年)建立の本格的な三間社神明造であり、内宮・外宮の本殿2棟を並立させる社殿形式としては、現存する日本で最古の例とされています。これは伊勢神宮の双宮構成を、コンパクトな同一境内で忠実に再現した、極めて貴重な配置なのです。

戦国期の建立を伝える御遷殿

「うつしのみや」とも呼ばれる御遷殿は、両本殿よりさらに古く、板戸金具刻銘により天正2年(1574年)の建立であることが判明しています。安土桃山時代の建築であり、一間社流造、茅葺の小規模ながら端正な社殿です。建物保護のため、現在は覆屋(おおいや)の中に納められています。御遷殿は、本殿の修理・建て替えの際に神霊を一時的にお遷しする重要な役割を担っていました。

近世の御厨神明社の社頭構成を伝える

本殿・御遷殿に加え、内宮御門・外宮御門も附(つけたり)として指定対象となっており、伊勢神宮御厨に勧請された神明社の、近世における社頭構成(境内の建物配置)を今に伝える点も高く評価されています。これほどまとまった形で残っている例は全国でも珍しいといえます。

建築の見どころ

そっくりだけど違う、内宮本殿と外宮本殿

拝殿の後方、玉垣の向こう側に、ほぼ同形の二棟の本殿が並んでいます。手前(向かって右)が内宮本殿、奥(向かって左)が外宮本殿です。いずれも桁行三間・梁間二間で、深い軒、横羽目の壁、そして屋根上に天高く伸びる千木(ちぎ)が印象的です。よく見ると、両本殿には伊勢神宮と同じ流儀の違いがあります。内宮の千木は内削(うちそぎ)で鰹木(かつおぎ)が10本、外宮の千木は外削(そとそぎ)で鰹木が9本。さらに外宮本殿は、すべての寸法で内宮本殿よりも一回り小さく造られており、これも伊勢神宮の格式を踏襲しています。

屋根が物語る保存の歴史

両本殿は元来、伊勢神宮と同じく茅葺きでした。しかし長年の風雨で傷みが進んだため、昭和50年代に保護を目的として銅板の仮葺きに改められています。今見られる銅板葺きは、文化財を守るための工夫の跡でもあります。

覆屋に守られる御遷殿

拝殿の東側に、御遷殿が建っています。建立から450年を経た貴重な建物を保護するため、現在は木造の覆屋に納められていますが、外観を間近に見ることができます。神明造の角ばった幾何学的な形に対して、流造ならではのなだらかな曲線美が印象的で、両者の対比そのものが楽しめる空間です。

太々神楽が奉納される神楽殿

境内の南西側には神楽殿があります。ここでは春・秋の例祭にあわせて「小栗内外大神宮太々神楽(だいだいかぐら)」が奉奏されます。寛延4年(1751年)に山城国(現在の京都府)から伝授された十二神楽三十六座は、茨城県の指定無形民俗文化財です。祭礼の日に訪れれば、静かな神域が古式ゆかしい舞と笛太鼓の音色で活気づきます。

参拝・見学の情報

境内はいつでも自由に参拝できます。三棟の重要文化財はいずれも外観を見学できますが、両本殿は高さ約2メートルの玉垣で囲まれているため、内側に立ち入ることはできません。御遷殿は覆屋に近づいて間近に見ることが可能です。なお、本殿・御遷殿とも内部は神様のおられる場所であり、一般には公開されていません。

訪問のおすすめは、年に二度の太々神楽奉奏のある例祭日です。春は4月21日直前の日曜日、秋は11月10日直前の日曜日に行われます。拝観料は無料で、参拝者用の駐車スペースも近くに用意されています。

アクセス

車での来訪が便利です。北関東自動車道の桜川筑西ICから車で約15分。公共交通機関を利用する場合は、真岡鐵道の久下田(くげた)駅が最寄り駅となりますが、神社までは約7.5キロメートル離れているため、駅前のタクシー利用(片道約3,000円)が現実的です。周辺のバス便はほとんどないため、レンタカーまたは事前予約のタクシーが推奨されます。

周辺の見どころ

内外大神宮のある筑西市小栗地区は、歴史散策に適したエリアです。神社のすぐ背後には、小栗氏の居城だった小栗城跡が広がっています。1155年に築かれ、約300年存続した中世城郭の遺構が、現在は歴史公園として整備されています。市の中心部にある一向寺には、伝説の「小栗判官」の墓と伝わる供養塔が祀られています。毎年夏には、約200名の武者行列で知られる「小栗判官まつり」が盛大に開催され、戦国絵巻さながらの光景が広がります。さらに、文化勲章を受章した郷土出身の陶芸家・板谷波山の生家を保存した板谷波山記念館や、夏に約100万本のひまわりが咲き誇る明野ひまわりの里など、筑波山を望む筑西市ならではの観光スポットも楽しめます。

Q&A

Q内外大神宮はどのような神社で、ほかの神社と何が違うのですか?
A通常の神社は本殿が一棟ですが、内外大神宮は伊勢神宮にならい、天照大神を祀る内宮本殿と豊受大神を祀る外宮本殿の二棟が並立しているのが大きな特徴です。本格的な神明造の双殿並立としては、現存する日本最古の例とされています。
Q伊勢神宮との関係はあるのですか?
A深い関係があります。平安時代後期から、この地は伊勢神宮内宮領「小栗御厨」として位置づけられました。常陸国にあった伊勢神宮内宮領の御厨はここだけで、社殿の様式・祭神・太々神楽の舞まで、伊勢神宮の伝統に倣って構成されています。
Q建物はいつ建てられたのですか?
A御遷殿が天正2年(1574年)の安土桃山時代の建立、内宮本殿と外宮本殿は延宝7年(1679年)に地元の大工によって再建されました。応永年間に焼失した本殿の再建です。
Q本殿の中に入ることはできますか?
Aいいえ、本殿・御遷殿の内部は神様のおられる神聖な場所であり、一般の参拝者は立ち入れません。ただし両本殿・御遷殿の外観は決められた参拝場所からしっかりと拝観でき、神明造の建築美を間近で味わうことができます。
Qいつ訪れるのがおすすめですか?
A年に二度の例祭日が見どころです。春の例祭は4月21日直前の日曜日、秋の例祭は11月10日直前の日曜日に行われ、いずれも県指定無形民俗文化財「太々神楽」が奉納されます。4月初旬の桜の季節や、秋の落ち着いた光のなかでの参拝も格別です。

基本情報

名称 内外大神宮 内宮本殿・外宮本殿・御遷殿(ないげだいじんぐう ないくうほんでん/げくうほんでん/ごせんでん)
所在地 茨城県筑西市小栗
所有・管理者 内外大神宮
指定区分 国指定重要文化財(建造物)/指定年月日:平成21年(2009年)12月8日
員数 3棟(附:内宮御門、外宮御門)
内宮本殿・外宮本殿 延宝7年(1679年)建立/三間社神明造、桁行三間・梁間二間/茅葺(現在は銅板仮葺)
御遷殿 天正2年(1574年)建立/一間社流造、茅葺
主祭神 内宮:天照大神(あまてらすおおみかみ)/外宮:豊受大神(とようけのおおみかみ)
例祭 春祭:4月21日直前の日曜日/秋祭:11月10日直前の日曜日(いずれも太々神楽奉奏)
アクセス 北関東自動車道 桜川筑西ICから車で約15分/真岡鐵道 久下田駅から車で約7.5km
拝観料 無料(境内自由)

参考文献

文化遺産オンライン(NII)― 内外大神宮 内宮本殿
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/218569
文化遺産オンライン(NII)― 内外大神宮 外宮本殿
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/212300
文化遺産オンライン(NII)― 内外大神宮 御遷殿
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/164841
筑西市公式ホームページ ― 内外大神宮 内宮本殿 外宮本殿 御遷殿
https://www.city.chikusei.lg.jp/kyouiku-bunka-sports/bunkazai/nationally-designated/page000750.html
茨城県教育委員会 ― 内外大神宮 3棟
https://kyoiku.pref.ibaraki.jp/bunkazai/kuni-32/
茨城県教育委員会 ― 小栗内外大神宮太々神楽
https://kyoiku.pref.ibaraki.jp/bunkazai/ken-305/
Wikipedia ― 内外大神宮
https://ja.wikipedia.org/wiki/内外大神宮

最終更新日: 2026.04.29

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