横屋酒造・佐藤家住宅とは:千厩の町なかに残る酒造家の屋敷と酒蔵
横屋酒造・佐藤家住宅は、岩手県一関市千厩町にある酒造家の屋敷と酒蔵の建物群で、明治から大正末期にかけて整えられ、平成15年(2003年)に主屋や造り蔵など25件が国の登録有形文化財に登録された。
敷地はおよそ9,000平方メートル。通りに面した石塀の内側に佐藤家の住まいと庭があり、その奥に酒を仕込み、貯え、瓶に詰めるための蔵と作業棟が並ぶ。1つの敷地のなかで酒造りから卸・販売までを行い、杜氏や蔵人が寝起きする場まで備えていた点に、この建物群の特色がある。
現在は一関市が所有し、地元の千厩まちづくり株式会社が「千厩酒のくら交流施設」として運営している。現地の案内や観光サイトでは「旧横屋酒造・佐藤家住宅」「横屋酒造・旧佐藤家住宅」の表記も使われるが、文化庁の登録名称はそれぞれ「佐藤家住宅〇〇」「横屋酒造〇〇」である。
成り立ち:酒造店の跡を継いだ横屋酒造
文化庁のデータベースによれば、佐藤家住宅主屋は明治34年(1901年)、造り蔵・正面蔵・東蔵の3棟は明治35年(1902年)に建てられた。タンク置場はさらに早く、明治32年(1899年)の建築である。
横屋酒造の創業はそれより後で、大正元年(1912年)に大東町の横屋の本家から分家した佐藤家が、この地にあった酒造店を引き継いで酒造業を始めたと伝わる。年代から見ると、明治期の蔵の多くは前身の酒造店の時代に建てられ、横屋酒造がそれを受け継いだことになる。
大正期には屋敷の整備が進んだ。新蔵が大正11年(1922年)、文庫蔵が大正12年(1923年)、西洋館が大正13年(1924年)に完成し、旧車庫・味噌蔵・正門及び石塀などは大正末期の建築とされる。酒造施設のなかでいちばん古いビン詰工場は、明治14年(1881年)に建った旧千厩村役場を少し動かして転用したものである。
横屋酒造は「玉の春」の銘柄で知られた。横屋酒造が酒造りをやめたのち、銘柄は奥州市の岩手銘醸に引き継がれ、蔵はその工場として使われた。平成23年(2011年)の東日本大震災の後には、津波で陸前高田市の本社工場を失った酔仙酒造が、ここの製造設備を借りて酒造りを続けている。
震災では敷地内の建物も被害を受けた。運営者は被災した4棟を取り壊したと案内しており、文化庁のデータベースで現在確認できる登録は、佐藤家住宅11件と横屋酒造9件の計20件である。
敷地の配置と歩く順序
正門及び石塀(石造、間口3.5メートル、塀の延長45メートル)をくぐると、土蔵造2階建の主屋があり、その脇に木造2階建の西洋館が寄り添う。敷地の北東辺には、田村藩家老の原田氏の屋敷から移したと伝わる原田門が、新蔵と文庫蔵のあいだに立つ。
酒造施設は屋敷の奥にまとまっている。道路に面した西側に造り蔵が南北に長く延び、その北端に正面蔵が東西に横たわり、正面蔵の東寄りから東蔵が南へ延びる。3棟の長大な土蔵がコの字形に並び、造り蔵と東蔵のあいだに木造の釜場、その北隅に蔵人炊事場が付く。正面蔵のさらに北には石造の麹室とタンク置場が平行に建ち、東蔵の東側、北方137-2の区画にはビン詰工場と枯し場がある。
歩く順序は、主屋と西洋館を見たのち、通りから造り蔵の西面を眺め、蔵のまとまりに沿って東蔵、北の麹室とタンク置場、東の枯し場とビン詰工場へ回ると、仕込みから瓶詰めまでの流れを追いやすい。酒造施設は棟ごとに使われ方が違い、内部を見られるかどうかも異なるので、各棟のページで確かめてほしい。
登録されている建物
現在の登録は次の20件で、いずれも平成15年(2003年)1月31日付で登録有形文化財(建造物)となった。
- 佐藤家住宅(11件):主屋、西洋館、文庫蔵、新蔵、味噌蔵、小蔵、旧車庫、浴室手洗場、正門及び石塀、庭門及び石塀、原田門
- 横屋酒造(9件):造り蔵、正面蔵、東蔵、釜場、麹室、タンク置場、蔵人炊事場、ビン詰工場、枯し場
登録基準はいずれも「国土の歴史的景観に寄与しているもの」である。個々の建物の価値に加え、住まいと酒造施設が同じ敷地にまとまって残り、明治末から大正期の造り酒屋の暮らしと仕事の全体を1か所で見られることが、横屋酒造・佐藤家住宅の大きな意味といえる。
アクセスと見学
千厩酒のくら交流施設は午前10時から午後4時まで開いており、休館日は月曜日(祝日の場合は翌平日)と年末年始である。入館は無料で、予約はいらない。主屋や東蔵などは催しに有料で貸し出されることがあり、その間は見学できる範囲や時間が限られる。春の「せんまやひなまつり」の期間は有料になると運営者が案内している。
鉄道では、JR一ノ関駅から大船渡線で千厩駅まで約60分、千厩駅から歩いて約15分。岩手県交通のバスなら本町停留所で降りると徒歩2分ほどで着く。車では東北自動車道の一関インターチェンジから国道284号経由で約50分、三陸自動車道の気仙沼中央インターチェンジからは約40分かかる。
敷地には来訪者用の駐車場があるが、そこまでの道が狭い。満車のときは一関市役所千厩支所の駐車場を使うよう案内されている。大船渡線は本数が少ないので、帰りの列車の時刻を先に確かめておくと安心である。
参考文献
- 佐藤家住宅主屋|国指定文化財等データベース(文化庁)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00003021
- 横屋酒造造り蔵|国指定文化財等データベース(文化庁)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00003033
- 横屋酒造ビン詰工場|国指定文化財等データベース(文化庁)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00003041
- 横屋酒造タンク置場|国指定文化財等データベース(文化庁)
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00003038
- 千厩酒のくら交流施設(千厩まちづくり株式会社)
- https://sakenokura.com/wp/kura/
- アクセス(千厩まちづくり株式会社)
- https://sakenokura.com/wp/access/
- 千厩酒のくら交流施設(いち旅/一関市観光協会)
- https://www.ichitabi.jp/spot/data.php?p=48
- 千厩酒のくら交流施設(横屋酒造・佐藤家住宅)(全国近代化遺産活用連絡協議会)
- https://www.zenkin.jp/koukai/958
- 玉の春工場について(酔仙酒造)
- https://suisenshuzo.jp/blog/suisen/post_1.html
- 千厩酒のくら交流施設(公式Facebookページ)
- https://www.facebook.com/sakenokura.senmaya/
最終更新日: 2026.09.25
基本情報
| 名称 | 横屋酒造・佐藤家住宅 |
|---|---|
| 所在地 | 岩手県一関市千厩町千厩字北方134 |
| 所有者 | 一関市 |
| 指定 | 登録有形文化財 20件 |
| 座標 | 38.91953, 141.33316 |