男木島灯台:瀬戸内海に佇む庵治石造りの美しき灯台
瀬戸内海に浮かぶ男木島の北端、トウガ鼻に静かに佇む男木島灯台は、明治28年(1895年)に建設された歴史ある洋式灯台です。地元香川県産の庵治石(あじいし)を用いた総御影石造りで、外壁を塗装しない「無塗装」の灯台として全国的にも極めて珍しい存在です。令和8年(2026年)1月に国の重要文化財に指定され、130年以上にわたり備讃瀬戸の海上交通の安全を見守り続けてきた近代日本の海事遺産として、ますます注目を集めています。
歴史と建設の経緯
男木島灯台は、日清戦争後の海運助成政策の推進により瀬戸内海の海上交通が急増したことを受けて建設されました。明治28年5月に起工し、同年12月に竣工、12月10日に初点灯を迎えました。備讃瀬戸東航路の東端にあたる重要な位置に設置され、岡山県と香川県に挟まれた航行の難所を行き交う船舶の安全を守る使命を担いました。
この灯台の建設において特筆すべきは、「灯台の父」と称されたイギリス人技師リチャード・ヘンリー・ブラントンが日本を離れた後に、日本人技術者の手によって独力で建設されたという事実です。逓信省航路標識管理所の関与のもと、日本の近代化を自国の力で推し進めた象徴的な建造物の一つといえます。
灯塔は高さ14メートルの円筒形で、南半に長方形平面の付属舎が取り付いています。いずれも組積造で、地元産とみられる花崗岩(庵治石)を精緻に加工し、平滑に仕上げています。上部には金属製の灯籠を載せ、内装の木部には木目塗が施されるなど、細部にまで高い技術と美意識が表れています。昭和62年(1987年)に無人化されましたが、現在も現役の灯台として毎夕点灯し、瀬戸内海を航行する船舶に光を送り続けています。
重要文化財に指定された理由
男木島灯台は、令和3年(2021年)10月に国の登録有形文化財に登録された後、令和8年(2026年)1月15日に国の重要文化財に格上げ指定されました。その指定理由は以下のとおりです。
第一に、近代化に伴い主要航路の要衝に設置された洋式灯台の一つとして、近代海上交通史上きわめて高い価値を有していること。第二に、灯塔と付属舎が花崗岩を精緻に加工した組積造で、外壁を無塗装とした全国でも希少な灯台であり、石造の構造物としても完成度が高いこと。第三に、同時期に建設された旧吏員退息所および旧第一物置も良好に保持されており、灯台施設群として一体的な歴史的景観を形成していることが挙げられます。
見どころと魅力
無塗装の庵治石造り灯塔
男木島灯台最大の魅力は、庵治石の自然な石肌をそのまま見せる無塗装の外観です。多くの灯台が白く塗装される中、この灯台は石目地を生かした仕上げが施され、庵治石特有の美しい斑模様が130年の風雪を経てなお味わい深い表情を見せています。日本全国でも無塗装の灯台は3基のみ(他に山口県の角島灯台と六連島灯台)という希少な存在です。
男木島灯台資料館
灯台に隣接する旧吏員退息所(職員官舎)は、平成6年(1994年)に「男木島灯台資料館」として改修・公開されました。煉瓦造平屋建ての建物で、正面玄関上部に欠円アーチのファンライトを飾るなど、明治時代の洋風建築の趣を色濃く残しています。館内では灯台の歴史や仕組み、灯台守の暮らしなどに関する資料が展示されており、灯台とあわせて見学することで、近代日本の海事史をより深く理解することができます。開館は原則として日曜日・祝日です。
備讃瀬戸の眺望
灯台敷地からは、明石海峡に次いで全国第2位の通航量を誇る備讃瀬戸の海を一望できます。1日あたり約1,000隻近い船舶が行き交う水域で、大型タンカーやコンテナ船が島々の間を縫うように航行する様子は壮観です。特に夕暮れ時、海面が黄金色に染まる中を灯台の光が点灯する瞬間は、忘れがたい美しさです。
男木島水仙郷
灯台周辺の遊歩道沿いには、「男木水仙郷をつくる会」により約1,100万株の水仙が植栽されています。1月下旬から2月にかけて斜面一面に白や黄色の水仙が咲き誇り、潮風に甘い香りが漂います。御影石の灯台と水仙の花々、そして穏やかな瀬戸内海が織りなす冬の風景は、この時期ならではの特別な体験です。灯台から水仙郷までは徒歩約10分です。
映画「喜びも悲しみも幾歳月」のロケ地
男木島灯台は、昭和32年(1957年)公開の映画「喜びも悲しみも幾歳月」(監督:木下恵介)のロケ地としても全国的に知られています。全国各地の灯台を転々とする灯台守とその家族の人生を描いたこの名作は、灯台という存在を広く世に知らしめました。無人化後も映画ファンが訪れる人気のスポットとなっており、灯台資料館には映画関連の資料も展示されています。
周辺情報・男木島の魅力
男木島は周囲約4キロメートルの小さな島ですが、魅力的な見どころが数多くあります。
島の南西部に広がる集落は、急斜面に民家が鱗のように連なる独特の景観で知られています。石畳の路地や石段が入り組んだ迷路のような町並みは、どこか懐かしい雰囲気に満ちており、瓦屋根の間から覗く瀬戸内海の眺望も格別です。
男木島は3年に一度開催される「瀬戸内国際芸術祭(瀬戸芸)」の会場の一つであり、フェリーターミナル自体がスペインの現代芸術家ジャウメ・プレンサによるアート作品「男木島の魂」となっています。貝殻をイメージした白い屋根に8つの言語の文字がデザインされたこの建物は、島のシンボルとして親しまれています。集落内にも多数の常設アート作品が点在し、路地歩きとアート鑑賞を同時に楽しむことができます。
島の高台にある豊玉姫神社は安産祈願で知られ、参道の石段から振り返る眺望は島一番のビュースポットとされています。また、男木島はタコ漁が盛んで、タコ飯やタコの天ぷらなど、新鮮なタコ料理を民宿やカフェで味わうことができます。
アクセス情報
男木島へは高松港からフェリー「めおん」(雌雄島海運)で向かいます。女木島(鬼ヶ島)を経由して男木港まで約40分、1日6便程度の運航です。高松港から男木港までの片道運賃は大人510円程度です。
男木港から灯台までは、島の内部を通る舗装された道を歩いて約30分です。島内にはバスやタクシーなどの公共交通機関はありませんので、歩きやすい靴でお越しください。灯台にはトイレと自動販売機がありますが、途中に売店はありませんので、飲み物などは事前にご用意ください。
高松港はJR高松駅およびことでん高松築港駅からすぐの好立地です。東京からはJR新幹線で岡山乗り換え、瀬戸大橋線で高松駅まで約4時間。大阪からは同ルートで約2時間です。
Q&A
- 男木島灯台の内部は見学できますか?
- 灯台の内部は通常公開されていませんが、隣接する男木島灯台資料館(旧吏員退息所)は日曜日・祝日に開館しています。また、2月の水仙ウォークイベント時など特別な機会に灯台内部が限定公開されることがあります。
- 男木島灯台を訪れるのに最適な季節はいつですか?
- 各季節にそれぞれの魅力があります。1月下旬〜2月は水仙が見頃を迎え、灯台周辺が花に包まれます。春と秋は気候が穏やかで散策に最適です。瀬戸内国際芸術祭の開催年は島全体がにぎわいます。夏は瀬戸内海の美しい海景色を楽しめます。
- 女木島と男木島を1日で回ることはできますか?
- はい、フェリーが高松港〜女木港〜男木港を結んでいるため、両島を1日で巡ることが可能です。二島間のフェリーは約20分です。ただし、1日の便数が限られているため、事前に時刻表を確認し、余裕を持った計画を立てることをおすすめします。
- 男木島灯台はなぜ白く塗装されていないのですか?
- 男木島灯台は地元産の高品質な庵治石(花崗岩)を精緻に加工して建設されており、石材の自然な美しさと目地の仕上げをそのまま外観として生かしています。このため白色塗装を施さず、石肌を露出させた無塗装の仕上げとなっています。同様の無塗装灯台は日本全国で3基のみという大変希少な存在です。
- 灯台周辺でキャンプはできますか?
- 男木島灯台のすぐ近くに「男木島灯台キャンプ場」があり、一般の方もキャンプを楽しむことができます。灯台と美しい海岸を眺めながらのキャンプは格別の体験です。詳細は高松市にお問い合わせください。
基本情報
| 名称 | 男木島灯台(おぎしまとうだい) |
|---|---|
| 所在地 | 香川県高松市男木町字洲鼻1062-1 |
| 文化財指定 | 国指定重要文化財(令和8年1月15日指定)/旧登録有形文化財(令和3年10月14日登録)/Aランク保存灯台/日本の灯台50選/土木学会選奨土木遺産/近代化産業遺産 |
| 竣工 | 明治28年(1895年)12月 ※初点灯:12月10日 |
| 構造 | 庵治石(花崗岩)造、無塗装/円筒形灯塔+長方形付属舎 |
| 高さ | 灯塔:地上から灯頂まで約14メートル(灯火標高:12.4メートル) |
| 光達距離 | 12.5海里(約23km) |
| 所有者 | 第六管区海上保安本部 |
| 資料館 | 男木島灯台資料館(旧吏員退息所)/日曜・祝日開館/入館無料 |
| アクセス | 高松港からフェリー「めおん」で男木港まで約40分、男木港から徒歩約30分 |
参考文献
- 男木島灯台(灯台、旧吏員退息所、旧第一物置)|高松市
- https://www.city.takamatsu.kagawa.jp/kurashi/kosodate/bunka/bunkazai/shiteibunkazai/kenzo/ogishima_todai.html
- 男木島灯台 — 近代の文化遺産の保存と活用(文化庁)
- https://www.bunka.go.jp/kindai/todai/041/index.html
- 男木島灯台 — Wikipedia
- https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%94%B7%E6%9C%A8%E5%B3%B6%E7%81%AF%E5%8F%B0
- 男木島灯台・男木島灯台資料館|うどん県旅ネット(香川県観光協会)
- https://www.my-kagawa.jp/point/2463/
- 男木島灯台石垣 — 文化遺産オンライン
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/520244
- 男木島灯台旧退息所 — 文化遺産オンライン
- https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/544631
- 男木島・女木島フェリーの雌雄島海運
- https://meon.co.jp/
最終更新日: 2026.03.26