種子島の丘に残る武家住宅
旧上妻家住宅主屋(きゅうこうづまけじゅうたくしゅおく)は、鹿児島県西之表市西之表9819、種子島北部の小高い丘の上に建つ江戸時代末期の武家住宅で、平成29年(2017年)5月2日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。
敷地があるのは西之表麓の南西端にあたる。麓とは薩摩藩が城下町のかわりに置いた武士の集住地区で、藩内に百を超える麓が散在していた。種子島にも麓が置かれ、上妻家の屋敷はその一角を占めていた。丘の縁に立つと、港に向かって地形が下っていくのがそのまま見てとれる。位置の選び方に家格が出ている。
建物は木造平屋建で一部に2階を持ち、屋根は瓦葺、建築面積は210平方メートルある。平面が独特で、室が南北二列に並ぶ。南列が接客用の座敷、北列が家族の居室で、北列の東側の室はもともと土間であったとみられている。この二列の並べ方と、トコ構えを塗り壁ではなく板壁とする内部造作が、地域の特徴をよく示すものとして登録時に評価された。
座敷まわりを板で納めるという処理は、湿気と塩気の多い島の環境と無縁ではないだろう。ただし、そう断定できるだけの記述は公表資料には見当たらない。目の前にあるのは、本土の武家住宅の記憶と島の材料事情が折り合った結果としての内部空間である。
屋根裏から出てきたもの
西之表市が住宅を取得したのは平成28年(2016年)のことで、その後の調査で最も多くの情報を出したのが屋根裏だった。
住宅内から見つかった史料のうち二点は、令和6年(2024年)9月10日に西之表市指定文化財(有形文化財・古文書)に指定されている。いずれも現在は種子島開発総合センター「鉄砲館」が所蔵する。
一点は「新當流鑓十門智合位許状」。天文20年(1551年)3月の日付を持ち、源信貞が平直時、すなわち鉄砲伝来で知られる第14代島主・種子島時尭に与えたものである。人体を筋肉と骨格だけで描き、槍を構えた姿勢に赤い線で動きを重ねるという説明の仕方をとる。種子島家譜には時尭が武芸を好み、源信貞を師として剣術・槍・撞棒を修め、天文20年3月に許状を得たと記されており、この一枚はその記述を裏づける。
もう一点は「上妻家雅夫妻逆修寿像」。永正10年(1513年)の制作とされ、法衣姿の男女が向かい合って座る図の中央に「南無妙法蓮華経 南無日蓮大菩薩」の題目を置く。男性像の脇の法号から、第22代上妻家当主とその妻を描いたものと考えられている。逆修は生前に自らの死後の冥福を願って供養を行うことをいい、寿像は存命中につくる肖像である。中世に夫婦を並べて描いた肖像は例が少なく、制作年と人物が特定できる点で価値が高いとされる。
上妻家は、鎌倉幕府から派遣された地頭の代官として種子島を治め、種子島氏の入島後は代々家老を務めた家と伝わる。屋根裏の行李にこれだけの文書が積まれていたことは、その伝承と矛盾しない。令和6年3月には市によって「上妻家史料目録」も作成されている。
二つの年代と、いま進んでいること
この住宅の建築年代については、資料によって二つの数字が出てくる。
文化庁の国指定文化財等データベースは、主屋を江戸末期とし、西暦で1830年から1868年、昭和中期(1946年から1965年)に改修と記録する。登録はこの年代認識のもとで行われた。
一方、市が令和5年(2023年)3月に策定した「旧上妻家住宅保存活用計画」は、住宅内で発見された棟札から寛延4年(1751年)の建築と考えている。八十年ほど遡ることになる。市教育委員会の痕跡調査では、部材に古式な大工道具の痕跡が随所に見つかり、一部の作業方法は中世室町時代の工法に遡ると考えられる点も判明した。令和6年9月10日の市指定は、この調査結果を根拠としている。
公表資料の範囲では、二つの年代はまだ突き合わせられていない。訪れる人は、寛延4年という数字を確定した事実ではなく、証拠の読み方として受け取っておくのがよい。
確かなのは、後世の手が何度も入っているということである。2階、台所、風呂、便所、玄関。令和5年度には防衛省再編交付金を活用して、これら後世の増築部分の撤去と、耐震対策のための調査が行われた。市は2階増築前の姿への復元を方針として掲げ、地域の歴史を伝える施設として常時公開していく計画を示している。
したがって現在、住宅に決まった開館時間はない。平成29年から令和元年(2019年)までの間に期間限定で5回の一般公開が行われ、令和5年11月にも数年ぶりの公開があった。このときは痕跡調査の成果や屋根瓦・各部材の特徴について、市の担当者が来場者に説明している。公開は不定期で告知も地元中心のため、内部を見たい場合は西之表市教育委員会歴史文化課文化財係(種子島開発総合センター鉄砲館内、電話0997-23-3215)に事前確認したい。撮影の可否も同時に尋ねておくとよい。屋敷の構えと門は、敷地外からいつでも眺められる。
島へは鹿児島から高速船またはフェリーで西之表港へ、あるいは空路で種子島空港へ入る。空港から市街地までは車でおよそ30分。屋敷は西之表港から南西に1キロほど、坂を上った先にある。港から徒歩10分の鉄砲館には住宅から見つかった二点の史料が収められているので、先に立ち寄っておくと屋敷の見え方が変わる。
Q&A
- 旧上妻家住宅主屋は見学できますか。公開日はいつですか。
- 常時公開はしていません。保存修理と復元整備が進行中で、決まった開館時間はありません。平成29年から令和元年までに5回、令和5年11月にも期間限定の一般公開が行われました。公開の予定は西之表市教育委員会歴史文化課文化財係(鉄砲館内、電話0997-23-3215)にお問い合わせください。
- 旧上妻家住宅主屋はいつ建てられたのですか。
- 文化庁のデータベースは江戸末期(1830年から1868年)、昭和中期に改修と記録しています。一方、市の保存活用計画は住宅内で見つかった棟札から寛延4年(1751年)の建築と考えています。両者はまだ整合が取られていないため、寛延4年は有力な見方として受け止めるのが適切です。
- 旧上妻家住宅主屋の間取りにはどのような特徴がありますか。
- 室が南北二列に並び、南列を接客用座敷、北列を居室とします。北列東室はもと土間であったとみられます。トコ構えを板壁とする内部造作とあわせて、地域の特徴を示す点が登録理由に挙げられています。
- 旧上妻家住宅主屋から見つかった史料はどこで見られますか。
- 天文20年(1551年)の「新當流鑓十門智合位許状」と、永正10年(1513年)の「上妻家雅夫妻逆修寿像」が住宅内から発見され、令和6年9月10日に市指定文化財となりました。いずれも種子島開発総合センター「鉄砲館」が所蔵しています。展示状況は同館にご確認ください。
- 旧上妻家住宅主屋へのアクセスを教えてください。
- 西之表港から南西へ1キロほど、丘を上った西之表麓の南西端にあります。種子島へは鹿児島から高速船またはフェリーで西之表港へ、空路の場合は種子島空港から市街地まで車で約30分です。
- 旧上妻家住宅主屋は国宝や重要文化財ではないのですか。
- 登録有形文化財(建造物)です。国土の歴史的景観に寄与しているものとして登録されました。登録制度は活用しながら守ることを前提とする緩やかな保護の仕組みで、調査と修理が続く建物に適しています。あわせて令和6年に西之表市指定文化財にも指定されています。
基本情報
| 名称 | 旧上妻家住宅主屋(きゅうこうづまけじゅうたくしゅおく) |
|---|---|
| 所在地 | 鹿児島県西之表市西之表9819(種子島) |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物)/登録番号 46-0119、登録基準「国土の歴史的景観に寄与しているもの」。ほかに西之表市指定文化財 |
| 指定年 | 平成29年(2017年)5月2日登録/市指定は令和6年(2024年)9月10日 |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 木造平屋一部2階建、瓦葺、建築面積210平方メートル |
| 所有者 | 西之表市 |
| 公開状況 | 常時公開なし。保存修理・復元整備中で、公開は不定期。問い合わせは西之表市教育委員会歴史文化課文化財係(種子島開発総合センター鉄砲館内)電話0997-23-3215 |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース 旧上妻家住宅主屋
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00011609
- 文化遺産オンライン 旧上妻家住宅主屋
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/245308
- 西之表市 旧上妻家住宅主屋
- https://www.city.nishinoomote.lg.jp/admin/soshiki/kyouikuiinkai/rekishibunkaka/bunkazai/bunkazai/siseki/siteibunnkazai/sisitei/8464.html
- 西之表市 旧上妻家住宅保存活用計画(PDF)
- https://www.city.nishinoomote.lg.jp/material/files/group/66/kyukouzumakehozonkatuyoukeikaku.pdf
- 西之表市 新當流鑓十門智合位許状
- https://www.city.nishinoomote.lg.jp/admin/soshiki/kyouikuiinkai/rekishibunkaka/bunkazai/bunkazai/siseki/siteibunnkazai/sisitei/8463.html
- 西之表市 上妻家雅夫妻逆修寿像
- https://www.city.nishinoomote.lg.jp/admin/soshiki/kyouikuiinkai/rekishibunkaka/bunkazai/bunkazai/siseki/siteibunnkazai/sisitei/8462.html
- かごしま文化財事典プラス 旧上妻家住宅主屋
- https://k-bunkazai.com/cultural/f-q-60114/
最終更新日: 2026.08.11