玄関は二階にある
箱根太陽山荘本館は、神奈川県足柄下郡箱根町強羅にある木造の宿泊施設で、昭和15年(1940年)の建築、平成18年(2006年)11月29日に国の登録有形文化財(建造物)に登録された。
敷地は東へ向かって下る。西側を通る道路に面した玄関は、建物の一階ではなく二階にあたる。車で着いた客は建物の中ほどから入り、部屋へは上るか下るかすることになる。
この一点が、外観のほとんどを決めている。
西面の玄関には入母屋屋根の小さな車寄せがつく。主屋根は寄棟造、桟瓦葺。文化庁の記録は構造を「木造2階一部3階建」とし、建築面積を267平方メートルと記す。一方で同じ文化庁の解説文は「木造3階建」と書く。谷側から見上げれば確かに三層に見えるので、どちらも実態を指している。
創建については、警視庁の保険療養所であったと伝わる。昭和25年・26年(1950・1951年)に増改築。安価な湯治需要が戦後に伸び直していた時期にあたる。
「指定」ではなく「登録」であること
日本の建造物保護には性格の異なる二つの制度がある。重要文化財は「指定」であり、現状変更に強い制限がかかる。登録有形文化財は平成8年(1996年)に創設された「登録」の制度で、大きな改変に際して届出を求める緩やかな仕組みを取り、使い続けながら残すことを前提としている。本館は後者に属する。観光情報の側には「登録有形文化財の指定を受けた」と記す例が見られるが、指定物件ではない。
登録番号は14-0137、第53回の登録にあたる。道路を挟んで西に建つ別館も同じ日、14-0138として登録された。
適用された登録基準は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」の一項目。文化庁データベース上の種別は「産業3次」、つまり第三次産業に属する建築物として分類されている。八十年以上にわたり客室を貸してきた建物であるから、行政上の区分としては筋が通っている。
湯治客を長期に泊める前提で建てられた木造の大型宿は、かつて箱根の各所にあった。火災、地価、そして昭和後期以降の旅行様式の変化が、その多くを削っている。登録が守ろうとしているのはこの類型そのものである。
足を止めたい細部
三階へ上がってみたい。八畳間を中心に客室が配される。天井の高さも窓台の位置も、一泊ではなく二週間滞在する客を想定した寸法になっている。
南面の縁の外に回ると高欄がある。柱頭に擬宝珠を載せた形式で、本来は橋の親柱や社寺の勾欄に用いられるもの。湯治宿の縁先にこれが現れるのは珍しく、文化庁の短い解説文もこの一点を名指ししている。
浴室棟は登録の対象外である。総檜造りに改められた別棟で、湯は大涌谷から引く。酸性・カルシウム・マグネシウム・硫酸塩・塩化物泉、源泉59.2度、pH2.2の白濁湯を、加水も加温もせず掛け流している。建物の耐震改修は、宿の説明によれば平成19年(2007年)に本館・別館・新館の三棟で実施された。
実用的なことを書いておく。現在も国民宿舎として営業しており、箱根登山鉄道の強羅駅から徒歩三分ほど。日帰り入浴は昼の時間帯に限られ、おおむね午前11時から受け付け、午後の遅い時間は宿泊者専用となる。料金は1時間あたり大人1,100円前後で案内されてきたが、時間・料金とも変更されることがある。休館日は不定で、公式サイトのカレンダーに掲出される。外観の撮影は道路から自由に行えるが、館内は営業中の宿であり、他の客が写り込まないよう配慮がいる。
Q&A
- 箱根太陽山荘本館の内部は見学できますか。外観だけですか。
- 営業中の宿泊施設のため、内部に入れるのは宿泊者と日帰り入浴の利用者に限られます。見学用の拝観券や建物ガイドツアーの設定はありません。外観は西側の道路からいつでも見られます。
- 箱根太陽山荘本館の建築年が資料によって違うのはなぜですか。
- 文化庁の国指定文化財等データベースは昭和15年(1940年)建築、昭和25年・26年増改築と記録しています。一方、宿の案内や複数の観光サイトは昭和17年(1942年)としています。本記事は一次資料である文化庁の記録に従いました。食い違いの経緯は公表されていません。
- 箱根太陽山荘本館は重要文化財ですか。
- 重要文化財でも国宝でもありません。登録有形文化財(建造物)です。平成8年に創設された別系統の制度で、届出制を基本とする点が指定制度と異なります。「指定」と書かれた紹介記事が少なくありませんが、正しくは「登録」です。
- 箱根太陽山荘本館へは強羅駅からどう歩けばよいですか。
- 徒歩三分ほどです。箱根登山鉄道の強羅駅から地下の連絡通路で線路の反対側へ抜け、道路沿いに進むと玄関が道に面しています。箱根強羅公園や箱根美術館へはそこからさらに五分から七分ほどです。
- 箱根太陽山荘本館と別館は同時に見られますか。
- 見られます。別館は道路を挟んですぐ西側に建ち、登録日も同じです。本館三階から別館二階へ渡る廊下が道路の上に架かっており、路上から見上げて確認できます。
基本情報
| 名称 | 箱根太陽山荘本館(はこねたいようさんそうほんかん) |
|---|---|
| 所在地 | 神奈川県足柄下郡箱根町強羅1320-374 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) 登録番号 14-0137 第53回登録 |
| 指定年 | 平成18年(2006年)11月29日 登録 |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 建築面積267平方メートル 木造2階一部3階建、瓦葺 |
| 所有者 | 文化庁データベースに記載なし(国民宿舎 箱根太陽山荘として営業) |
| 公開状況 | 営業中の宿泊施設。内部の利用は宿泊または日帰り入浴による。外観は道路から見学可。休館日は不定。 |
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース:箱根太陽山荘本館
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00005940
- 文化遺産オンライン:箱根太陽山荘本館
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/152545
- 箱根太陽山荘 公式サイト
- https://taiyosanso.com/
- 箱根町観光協会:国民宿舎 箱根太陽山荘
- https://www.hakone.or.jp/6542
最終更新日: 2026.08.13