屋敷の中心に建つ医家の主屋

南面の玄関を入ると、この主屋がただの住居でないことが平面からすぐに読み取れる。玄関の西には診療所の待合が置かれ、そこからさらに西へ、建物本体から張り出すように診察室が突き出す。東側には二室の座敷、北側には家族の居間が並び、北西には炊事のためのかま屋が延びる。ひとつ屋根の下で、医師は患者を迎え、客をもてなし、家族と暮らしていた。

建物は木造平屋建、寄棟造で桟瓦を葺き、東西に棟を通す。建築面積はおよそ201平方メートル、桁行十間・梁行五間という規模は廓中のなかでも大ぶりで、主屋は敷地の中央に据えられている。道路から玄関までの配置を含めて、この武家地の屋敷構えの通例に従った据え方である。

登録の理由

主屋が国の登録有形文化財となったのは平成17年(2005)7月12日、登録番号は39-0183で、同じ敷地の五棟がこの年に一括して登録された。文化庁は登録の基準を「国土の歴史的景観に寄与しているもの」とする。

記録にとどめる価値は、伝統的な形式のなかに医家住居の平面をよく残している点にある。専用の病院を建てるのではなく、住居のなかに診療の場を組み込み、暮らしと診療が同じ敷地の上で重なる。その仕組みが明快に残る好例といえる。年代は明治後期、およそ1890年代から1910年代とされ、江戸期の武家住宅に続いて廓中の町並みを構成する一群に属する。

登録は、重要文化財の指定に比べて緩やかな保護の枠組みである。平成8年(1996)に、指定制度を補い、近代の建物を幅広く保護するために設けられた。寺村家の主屋も、こうして残された全国各地の民家のひとつにあたる。

見どころ

寺村家住宅が建つのは土居廓中の伝統的建造物群保存地区で、土佐藩の家老を務めた五藤家の家臣たちが屋敷を構えた一画である。地区全体が平成24年(2012)に国の重要伝統的建造物群保存地区に選定され、周囲の道にはウバメガシやドヨウダケの生垣、安芸川の川原石を用いた側溝、瓦を載せた低い塀が続く。

その背景のなかで主屋を眺めると、ゆっくり歩く価値がわかる。寄棟の屋根が近隣に合わせて低く広い姿を保つこと、張り出した診察室が整った箱形を破っていること。その張り出しが、この家の生業を伝える小さな手がかりになっている。主屋そのものは個人の住居で、内部は公開されていない。地区で内部に入れるのは無料公開の野村家住宅で、こうした室内の様子を知る手がかりになる。

Q&A

Q主屋の内部は見学できますか。
Aできません。個人の住居のため、外観を道路から見るかたちになります。地区で内部を公開しているのは野村家住宅で、見学は無料です。
Qこの建物は何に使われていましたか。
A医師の住居兼診療所として使われました。平面には待合と診察室があり、家族の居間や座敷と一体になっています。
Qいつ頃の建物ですか。
A明治後期、およそ19世紀末から20世紀初めの建築とされ、平成17年(2005)に登録有形文化財となりました。
Qどうやって行きますか。
Aごめん・なはり線の安芸駅からレンタサイクルで約15分、または安芸元気バスで野良時計前下車、徒歩数分です。高知龍馬空港からは車で約40分です。
Q周辺に見るものはありますか。
A近くに野良時計があり、安芸城跡や書道美術館、歴史民俗資料館も徒歩圏です。

基本情報

名称寺村徳夫家住宅主屋(てらむらのりおけじゅうたくしゅおく)
所在地高知県安芸市土居993-1
区分登録有形文化財(建造物) 登録番号 39-0183
登録年月日平成17年(2005)7月12日(告示 8月2日)
員数1棟
構造木造平屋建、瓦葺、建築面積約201㎡、庭門付
年代明治後期(1868〜1911)
アクセスごめん・なはり線安芸駅からレンタサイクル約15分。土居廓中伝統的建造物群保存地区内
備考個人住居のため外観のみ。地区内の野村家住宅は一般公開

References

国指定文化財等データベース — 寺村徳夫家住宅主屋
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00004837
安芸市 — 安芸市土居廓中伝統的建造物群保存地区
https://www.city.aki.kochi.jp/life/dtl.php?hdnKey=1381
安芸観光情報 — 土居廓中・武家屋敷
https://www.akikanko.or.jp/kanko/doikatyu.html

最終更新日: 2026.07.05