商工クラブ店舗:明治の料亭建築が息づく熊本・古町の登録有形文化財

熊本城の南西、城下町の風情が色濃く残る古町地区。その一角に佇む「商工クラブ店舗」は、明治23年(1890年)に建てられた料亭建築です。肥後細川藩の料理番を代々務めた料理谷家の邸宅として130年以上の歴史を刻み、2024年には国の登録有形文化財に登録されました。2016年の熊本地震を乗り越え、飲食・宿泊・文化の複合施設として見事に蘇った「商工クラブ」は、歴史と美食が交差する、熊本の新たな魅力スポットです。

料理谷家の歩み

商工クラブの物語は、江戸時代にまで遡ります。料理谷(りょうりや)家は、肥後細川藩の料理人を代々務めてきた由緒ある家柄です。その姓は、初代熊本藩主・細川忠利公から賜ったものと伝えられており、藩の食文化を支える重要な役割を担っていました。

明治維新後、料理谷家はこの地で「商工クラブ」として料亭を開業。以来、料理屋・宴会場・結婚式場・旅館として、多くの人々の華やかな思い出の舞台となりました。芸者を相手に酒を酌み交わす人々や、祝言に集う人々で賑わった時代を経て、昭和48年(1973年)に一度その幕を下ろしました。

建築の特徴と文化財登録

令和6年(2024年)3月、商工クラブ店舗は国の登録有形文化財(建造物)に登録されました。明治中期、熊本の繁華街として栄えた古町筋の料亭の特徴を今日に伝える象徴的な建物として、その価値が認められたのです。

建物は木造2階建、切妻造平入桟瓦葺の東西棟で、南東に角屋を延ばす構成です。1階は出格子と平格子構えで東寄りに入母屋造の玄関を配し、2階は連窓の前面に手摺を廻らし、窓上に庇を付しています。建築面積は約266平方メートル。丁寧に施工された上質な意匠が随所に良好な状態で残されており、当時の接客のための建物づくりの考え方や技術を学ぶことができる貴重な文化財です。

熊本地震からの再生

2016年の熊本地震は、新町・古町地区の多くの町屋に甚大な被害をもたらしました。商工クラブも大きな被害を受け、解体か存続かの岐路に立たされました。料理谷家の長女が周囲に相談したことをきっかけに、熊本市内で数々のリノベーションを手がけてきたプロデューサー・久保貴資氏との縁がつながり、再生プロジェクトが始動しました。

久保氏は「単なる再生やリノベーションではなく、資産として稼ぎながら後世に残していく」という理念のもと、約2年にわたる改修を経て、2021年6月に新しい「商工クラブ」として開業。熊本市より「歴史的風致形成建造物」の指定も受けています。

見どころと魅力

生まれ変わった商工クラブは、「清く、正しく、謎めかしく」というコンセプトのもと、4つのコンテンツで構成されています。店主全員がプロジェクトメンバーとして参画し、単なる複合施設ではない、一つの「商工クラブ」という存在に仕上がっています。

.know(ノウ)— 囲炉裏の炎で紡ぐ美食

1階に位置するカウンターのみのレストラン。オーナーシェフの鍬本峻氏が、庭園を望む空間の中心に据えた囲炉裏で、熊本産の食材をほぼ全て使用した唯一無二のフュージョン料理を提供します。炭や薪の熾火で調理される料理は、地産地消の次のフェーズ「自賛地消」とも言える新しい食体験です。

古町 千(ふるまち せん)— 焼鳥の真髄

小さな看板を掲げるだけの、一見何の店かわからない佇まい。石畳の露地を抜けて店内に入ると、焼き台を囲むカウンターが現れます。茶室のにじり口を思わせる入口の個室もあり、「謎めかしい」というコンセプトを体現する空間で、技術と空間が演出する極上の焼鳥を堪能できます。

料理谷邸 葛籠(つづら)— 時を旅する宿

2階に設けられた宿泊施設。貴賓室「時空の間 城月」をはじめ、歴史とモダンを融合した多彩な客室を揃えています。ロビーは15:00〜22:00にカフェ&バーとして営業し、オリジナル和菓子や地域のお酒を楽しめます。チェックインは15:00〜21:00、チェックアウトは10:00です。

妙味庵・席貸 — 文化の交差点

庭園を望む茶室「妙味庵」は、陶芸家・細川護光氏(細川家御子孫)が命名。料理谷家と細川家の長い時を経た再会の場として設けられました。席貸はキッチン付きの約10席のイベントスペースで、ゲストシェフイベントや文化催事に活用されています。

周辺情報

商工クラブが位置する古町地区は、加藤清正が熊本城の築城とともに造った城下町の一部です。碁盤目状の町割の中心に寺を配した「一町一寺」の構成が特徴で、現在も細い路地や石橋、格子戸の町屋が往時の面影を伝えています。

周辺の見どころとしては、日本三名城の一つに数えられる熊本城、明治8年に名石工・橋本勘五郎が築いた明八橋、明治期の酒造倉庫を活用したイベント会場・早川倉庫、登録有形文化財の長崎次郎書店(2階に喫茶室あり)などがあります。河原町商店街や町屋をリノベーションしたカフェ・ショップも点在し、散策が楽しめます。

また、肥後象嵌(ひごぞうがん)の体験や、辛子蓮根・馬刺しなど熊本ならではの食文化にも触れることができます。

Q&A

Q商工クラブ店舗は一般の観光客でも見学できますか?
A建物の外観は通りからいつでもご覧いただけます。内部は、飲食店(.know、古町 千)でのお食事、宿泊施設(葛籠)へのご宿泊、またはイベントスペース(席貸・妙味庵)のご利用を通じてお楽しみいただけます。
Qレストランの予約は必要ですか?
Aはい、.knowおよび古町 千はいずれもカウンター中心の少席のレストランですので、事前予約を強くおすすめします。各店舗に直接お問い合わせください。宿泊施設の葛籠も事前予約制です。
Q熊本駅からのアクセスを教えてください。
A熊本駅から熊本市電(路面電車)に乗車し、辛島町電停でB系統(上熊本方面行き)に乗り換え、新町電停で下車してください。そこから徒歩約10分で到着します。専用駐車場はありませんので、お車の場合は近隣のコインパーキングをご利用ください。
Q外国語での対応は可能ですか?
A宿泊施設の葛籠はインバウンド需要を見据えて開業しており、海外からのお客様にも対応しています。レストランは基本的に日本語での営業ですが、宿泊先のコンシェルジュ等を通じた予約が安心です。
Qおすすめの訪問時期はありますか?
A商工クラブおよび周辺の古町地区は通年でお楽しみいただけます。春(3月下旬〜4月)は桜の季節で散策に最適、秋(11月頃)は紅葉が美しい時期です。不定期で開催されるイベントや季節のマルシェも魅力のひとつです。公式サイトで最新情報をご確認ください。

基本情報

名称 商工クラブ店舗(しょうこうくらぶてんぽ)
文化財指定 国登録有形文化財(建造物)、令和6年(2024年)3月6日登録
竣工 明治23年(1890年)
構造 木造2階建、瓦葺、建築面積約266㎡
所在地 熊本県熊本市中央区西阿弥陀寺町6
アクセス 熊本市電 新町電停から徒歩約10分
現在の用途 レストラン(.know、古町 千)、宿泊施設(葛籠)、茶室(妙味庵)、イベントスペース(席貸)
公式サイト https://showkoclub.jp/

参考文献

商工クラブ店舗 — 文化遺産データベース(文化庁)
https://bunka.nii.ac.jp/db/heritages/detail/564865
登録有形文化財 商工クラブ店舗 — 熊本市公式サイト
https://www.city.kumamoto.jp/kiji00363823/index.html
国登録有形文化財(建造物)の答申について — 熊本県ホームページ
https://www.pref.kumamoto.jp/soshiki/125/190005.html
商工クラブ 公式サイト
https://showkoclub.jp/
商工クラブ 手前共(沿革ページ)
https://showkoclub.jp/about/
古き良きものを生かしたまちづくり「商工クラブ」前編 — 熊本市観光ガイド
https://kumamoto-guide.jp/journeyjournal/detail/792
古き良きものを生かしたまちづくり「商工クラブ」後編 — 熊本市観光ガイド
https://kumamoto-guide.jp/journeyjournal/detail/793
熊本の歴史ある建物「商工クラブ」、改修経て食空間などに — 熊本経済新聞
https://kumamoto.keizai.biz/headline/17/
料理谷邸 葛籠(つづら)公式サイト
https://tudzura.jp/

最終更新日: 2026.03.23