アサヒビール大山崎山荘美術館彩月庵(茶室)

本館の北西、隣接する宝積寺との境界近くに、彩月庵と名づけられた小さな茶室が建つ。実業家・加賀正太郎(1888-1954)が天王山に営んだ山荘の一棟で、加賀が英国風の本館の周囲を整えていた昭和初期の造営になる。建築面積は29平方メートルほど。見落としてしまいそうな規模だが、この一棟には他に類を見ない二面性が備わっている。

彩月庵は、茶室であると同時に持仏堂でもある。主室は立礼席、すなわち床に座らず卓で点前を行う形式の席で、これが加賀家の仏事を営む持仏堂を兼ねた。背後には前室と、道具を整える水屋が続く。室内は石敷とし、主室には2畳の床上部、床(とこ)、そして仏壇を並べて備える。

登録の理由と価値

彩月庵は平成16年(2004)7月、山荘内の6棟とともに国の登録有形文化財(建造物)に登録された。登録有形文化財は、重要文化財より緩やかな規制のもとで後世に継ぐべき建造物を保護する国の制度である。彩月庵の登録基準は「造形の規範となっているもの」とされる。

その評価の拠り所は、簡素な外皮に納められた意匠の練度にある。造りは数寄屋風で、丸太をおおむね自然のままの形で用い、室内は格式ばらず軽快で開放的にまとめられる。桟瓦葺の切妻屋根が外観を控えめに保つ一方、内部は立礼席・床・仏壇を組み合わせ、狭いながらも簡素にして瀟洒、見どころの多い一室を構成する。屋敷のどの一隅をも設計上の課題として丁寧に解いた、加賀の仕事ぶりがうかがえる。

訪ねる前に

彩月庵は通常は非公開である。美術館の庭園内、内庭の池畔に組まれた石組の上に建ち、往時は池泉に置かれた飛び石を伝って席へと向かったと伝わる。現在、来館者はその姿を庭から眺めることはできるが、内部は特別な機会を除いて閉じられている。

その機会は、訪問の時期を合わせる価値がある。春と秋には、地元有志による茶会の場としてこの茶室が一日開放され、季節の景を窓に切り取りながら、室内で抹茶を喫することができる。秋の会は、11月下旬の紅葉と重なった年もある。茶室が閉じている時期でも、本館、モネ《睡蓮》連作を収める安藤忠雄設計の地中館、テラスの喫茶室、約5500坪の庭園は入館料で見学できる。所在はJR山崎駅・阪急大山崎駅から徒歩約10分、坂が急なためJR側から無料送迎バスが出る。駐車場はない。

Q&A

Q彩月庵の特徴は何ですか。
A茶室でありながら持仏堂を兼ねる点です。主室には立礼の茶席、2畳の床上部と床、そして加賀家の仏壇が一室に収められています。
Q内部に入れますか。
A通常は入れません。内部は非公開です。主に春と秋、地元有志が催す茶会の際に限って開放され、室内で一服の抹茶をいただけます。
Q敷地内のどこにありますか。
A本館の北西、宝積寺との境界近くの庭園内で、内庭の池畔の石組の上に建っています。
Q茶室が閉じている時期は何を見られますか。
A本館、民藝運動ゆかりの工芸コレクション、安藤忠雄設計の地中館に常設されるモネ《睡蓮》連作、テラスの喫茶室、広い庭園を入館料で見学できます。

基本データ

名称アサヒビール大山崎山荘美術館彩月庵(茶室)(登録名称)
所在地京都府乙訓郡大山崎町字大山崎小字銭原5-3
指定区分登録有形文化財(建造物) 登録年月日 平成16年(2004)7月23日
員数1棟
年代昭和初期
構造及び形式木造平屋建、瓦葺、建築面積29平方メートル
所有者アサヒグループジャパン株式会社
公開状況通常非公開。春秋の茶会など限られた機会にのみ内部を開放

References

国指定文化財等データベース(文化庁) — アサヒビール大山崎山荘美術館彩月庵(茶室)
https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00004266
文化遺産オンライン(文化庁) — アサヒビール大山崎山荘美術館彩月庵(茶室)
https://bunka.nii.ac.jp/heritages/detail/180486
ハレの日、アサヒ(アサヒグループ大山崎山荘美術館) — 登録有形文化財の茶室での茶会
https://harenohi.asahigroup-japan.co.jp/play/2024/10/23/6-13/

最終更新日: 2026.07.02