南朝の年号が刻まれた石塔
縁城寺宝篋印塔(えんじょうじほうきょういんとう)は、京都府京丹後市峰山町字橋木の縁城寺にある室町前期の石造宝篋印塔で、正平六年(一三五一)の造立とされ、昭和三十年(一九五五)二月二日に重要文化財に指定された。本堂の正面、切石積の基壇の上に立つ。
宝篋印塔は、内部に納める宝篋印陀羅尼経に由来する名を持つ供養塔である。この塔を礼拝すれば地獄の門が閉じ、重罪が消滅するという功徳が経に説かれる。方形の塔身、段形を刻む笠、笠の四隅から立ち上がる隅飾、その上の相輪という構成で、一度覚えると遠目にも判別がつく。
刻銘には「正平六年」の年記と「佛子行秀」の名がある。正平は南朝の年号であり、丹後の地に立つ塔がこの年号を用いていることは、造立に関わった側の立場、あるいは当地の慣行を示す。北朝の暦では観応二年にあたる。銘は現在ほとんど磨滅して判読しがたい。文化庁の台帳は西暦を一三五一年とするが、地元の解説には一三五二年と換算するものもある。
石の仕事、そして残ったということ
台帳の記載は簡潔で、石造宝篋印塔、基壇付、一基。総高については資料により幅がある。三一三・九センチとするものと、約三四〇センチとするものがあり、積み重なる基壇のどこまでを数えるかによるらしい。
細部を見ると仕事の質がわかる。塔の下には切石積の大きな基壇があり、その上にさらに蛤座、框座、格狭間と反花座を伴う框座という三段の座を重ねる。笠の隅飾は三弧輪郭付で、内側に蓮華座の上の月輪を陽刻し、梵字を刻む。基礎は壇上積式、上端二段、正面と両側面に中心飾りのある格狭間をつくり、背面は無地とする。左右には近江文様の蓮華文が浮彫される。相輪の請花や宝珠の造形は、石というより工芸の細かさに近い。
行秀和上が開山の善無畏三蔵の供養のために造立し、翌正平七年に没したという伝承が地元に残る。縁城寺の創建は養老元年(七一七)に遡ると伝わる。
この塔が残っていること自体が、簡単なことではない。昭和二年(一九二七)の丹後震災では背後の仁王門が全壊した。度重なる火災で、かつて七十五坊とも二十五坊とも伝えられた大寺の伽藍はほとんど失われている。石だけが立っている。
参拝と、境内のほかの見どころ
縁城寺は拝観料を取る施設ではない。境内は開かれており、塔は本堂前の屋外に立つ。時間を選ばず見ることができ、撮影にも特別な手続きはいらない。裏を返せば、質問に答えてくれる人が常にいるとは限らない。
本尊の木造千手観音立像は平安時代後期の作で、これも重要文化財に指定されている。ただし秘仏であり、開扉は三十三年に一度。拝観の計画は塔を軸に立てるのが現実的である。
境内にはほかに、麻呂子親王の鬼退治伝説に連なる七仏薬師の一つ願興寺から移されたと伝わる多宝塔があり、シイ林は京都の自然二百選に選ばれている。本堂下の池には檀家の手で育てられた蓮が咲く。見頃は七月。
アクセスには準備がいる。京都丹後鉄道宮豊線の峰山駅から丹後海陸交通バスで矢田橋下車、そこから徒歩約三十分。車なら峰山駅から府道六六三号を北へ約四キロ。京都市内からは遠く、丹後半島を巡る行程の中に組み込むほうが無理がない。
Q&A
- 縁城寺宝篋印塔は自由に見学できますか。拝観料は必要ですか。
- 見学できます。塔は本堂前の屋外に立ち、境内は開かれています。拝観料はなく、拝観時間の定めもありません。撮影も可能ですが、現役の寺院ですので節度をもって参拝してください。
- 縁城寺宝篋印塔にはどのような刻銘がありますか。
- 「正平六年」の年記と「佛子行秀」の名が刻まれています。正平は南朝の年号で、西暦一三五一年にあたります。銘は現在ほとんど磨滅しており、現地での判読は困難です。
- 縁城寺宝篋印塔の高さはどれくらいですか。
- 総高およそ三・一メートルから三・四メートルと、資料によって幅があります。重ねられた基壇のどこまでを含めて数えるかによる差と考えられます。文化庁の台帳は形式を「石造宝篋印塔、基壇付」と記すのみで寸法を挙げていません。
- 縁城寺の千手観音像は拝観できますか。
- 通常は拝観できません。秘仏で、開扉は三十三年に一度とされています。塔とは別に重要文化財に指定されている像で、平素の参拝の対象にはなりません。
- 縁城寺へは公共交通でどう行けばよいですか。
- 京都丹後鉄道宮豊線の峰山駅から丹後海陸交通バスに乗り、矢田橋で下車して徒歩約三十分です。便数が多くないため、事前に時刻を確認して出かけてください。
基本情報
| 名称 | 縁城寺宝篋印塔 |
|---|---|
| 所在地 | 京都府京丹後市峰山町字橋木 |
| 指定区分 | 重要文化財(建造物) 指定番号 01332 |
| 指定年 | 昭和30年(1955)2月2日 |
| 員数 | 1基 |
| 寸法 | 石造宝篋印塔、基壇付。総高は約3.1〜3.4mと資料により差がある |
| 所有者 | 縁城寺 |
| 公開状況 | 屋外に立ち、随時見学可。拝観料なし |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁)— 縁城寺宝篋印塔
- https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/102/2062
- 京丹後ナビ(京丹後市観光公社)— 縁城寺
- https://www.kyotango.gr.jp/sightseeing/706/
- 京丹後歴史文化めぐりマップ — 縁城寺
- https://kyotango-rekishibunka.jp/spot/96
- 京都府観光連盟 — 縁城寺
- https://www.kyoto-kankou.or.jp/info_search/629
最終更新日: 2026.08.07