有栖川宮邸を移した、中庭を囲む書院造の住まい
平安女学院有栖館主屋は、京都市上京区下立売通烏丸西入にある明治前期の木造住宅で、明治24年(1891年)に現在地へ移築・改修され、平成24年(2012年)2月23日に国の登録有形文化財に登録された。有栖館(有栖川宮旧邸)を構成する3棟の中心となる建物である。
木造平屋建、桟瓦葺で、建築面積は387平方メートル。中庭を真ん中に置き、玄関棟・客室棟・居室棟を廊下でつないで一つの住まいにしている。文化庁のデータベースは建築年代を明治前期(1868〜1882年)とし、明治24年の移築と改修を記録している。
平安女学院は、この建物を京都御所の建礼門前にあった有栖川宮邸を移したものと説明してきた。移築後は京都地方裁判所の所長宿舎として平成19年(2007年)まで使われ、その後、平安女学院の所有をへて、令和6年(2024年)に森トラスト株式会社が取得を発表している。
登録の理由:公家の住宅の面影を残す官舎
平安女学院有栖館主屋に適用された登録基準は「造形の規範となっているもの」である。文化庁の解説は、この建物を公家の住宅の面影をとどめた明治期の官舎として評価している。宮家の屋敷として建てられた住まいが、裁判所長の官舎に転じてからも、座敷の格式を示す構えを保ってきた点に価値がある。
格式の要は客室棟にある。広間が2室続き、その奥に床(とこ)と付書院を備えた上段の間を置く。上段の間は床を一段高くして身分の高い客を迎える座で、書院造の住宅に見られる形式である。平安女学院の案内では、2畳の上段の間を伴う12畳半の座敷と、畳を上げれば能舞台としても使える15畳の板張りの間があるとされる。
玄関棟は、正面に入母屋造の玄関を構える。住まいの入口に独立した屋根を架けて見せるのは、客を迎える家の作法に沿った造りである。
見どころ:上段の間と「平成の植治の庭」
座敷では、上段の間に至る奥行きの段階に注目したい。手前に広がる12畳半の座敷、一段上がった2畳の上段、その正面に並ぶ床と付書院。部屋を三つの深さに分けて序列を形にするのは、宮家の住まいらしい作りである。欄間の彫刻や窓の形も、宮家の住まいの趣を伝えるものとして紹介されてきた。
15畳の板張りの間は、畳の座敷とは使い方の違う部屋である。客間の手前側を板張りとし、奥の畳敷きの和室へと続けることで、一つの客間の中に舞台と座敷を並べている。
庭は、平成21年(2009年)に十一代小川治兵衞が手がけたもので、「平成の植治の庭」と呼ばれる。平安女学院有栖館主屋の前庭・中庭・南庭の3か所に分かれ、元の庭に土を入れてかさ上げし、形の異なる石を組み合わせている。南庭には、豊臣秀吉の醍醐の花見で知られる醍醐寺の桜の系統を引くと紹介される枝垂れ桜があり、座敷から庭越しに下立売通の向こうの平安女学院の赤煉瓦の建物が見えたという。
見学方法
平安女学院有栖館主屋は、2026年9月時点で一般公開されていない。平安女学院の所有時代には春と秋に数日ずつ座敷と庭が公開され、確認できた最後の公開は2024年3月の無料公開だった。同年5月の売却以降、公開の告知は見当たらない。
主屋は青天門・長屋門と塀の内側に建ち、外から建物の全体を見ることはできない。通りから確かめられるのは2棟の門と、塀越しにのぞく庭木までである。公開が再開された場合、2023年の建築公開では撮影とウェブへの掲載が原則として認められていたが、条件は主催者がその都度定めるので、案内を確認してから訪れたい。
Q&A
- 平安女学院有栖館主屋はいつ建てられた建物ですか?
- 文化庁のデータベースは平安女学院有栖館主屋の建築年代を明治前期(1868〜1882年)とし、明治24年(1891年)に現在地へ移築・改修されたと記録しています。平安女学院は、京都御所の建礼門前にあった有栖川宮邸を移したものと説明しています。
- 平安女学院有栖館主屋の内部は見学できますか?
- 2026年9月時点では一般公開されていません。平安女学院の所有時代は春と秋に特別公開がありましたが、2024年5月に森トラスト株式会社が取得を発表して以降、公開の告知は確認できていません。
- 平安女学院有栖館主屋はなぜ登録有形文化財になっているのですか?
- 「造形の規範となっているもの」の基準で平成24年(2012年)2月23日に登録されました。文化庁は、公家の住宅の面影をとどめた明治期の官舎として評価しています。
- 平安女学院有栖館主屋の見どころはどこですか?
- 客室棟の奥にある、床と付書院を備えた2畳の上段の間と、それに続く12畳半の座敷です。能舞台にもなる15畳の板張りの間や、十一代小川治兵衞による前庭・中庭・南庭も見どころです。
- 平安女学院有栖館主屋は今も平安女学院のものですか?
- いいえ。平安女学院が平成20年(2008年)に取得しましたが、2024年に森トラスト株式会社が土地と建物の取得を発表しました。文化庁データベースの所有者欄は三菱UFJ信託銀行株式会社で、登録名に学院名が残っているのは学院の所有時代に登録されたためです。
基本情報
| 名称 | 平安女学院有栖館主屋 |
|---|---|
| 所在地 | 京都府京都市上京区下立売通烏丸西入五町目町185-1他 |
| 指定区分 | 登録有形文化財(建造物) |
| 指定年 | 平成24年(2012年)2月23日登録 |
| 員数 | 1棟 |
| 寸法 | 木造平屋建、桟瓦葺、建築面積387平方メートル |
| 所有者 | 三菱UFJ信託銀行株式会社(文化庁データベースによる) |
| 公開状況 | 通常非公開(2026年現在) |
参考文献
- 国指定文化財等データベース(文化庁):平安女学院有栖館主屋
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00009185
- 文化遺産オンライン:平安女学院有栖館主屋
- https://online.bunka.go.jp/heritages/detail/199518
- 京都旅屋:有栖川宮旧邸「有栖館」の特別公開
- https://www.kyoto-tabiya.com/2024/03/25/110798/
- にしZINE(京都市):有栖川宮旧邸 平安女学院大学有栖館・春の特別公開
- https://nishizine.city.kyoto.lg.jp/event/nishijin-heian2403/
- 京都モダン建築祭2023:平安女学院大学 有栖川宮旧邸 有栖館
- https://kyoto2023.kenchikusai.jp/program/detail.php?id=2467
- 森トラスト株式会社:「有栖川宮旧邸 有栖館」の土地・建物取得について(2024年5月31日)
- https://www.mori-trust.co.jp/news/2024/20240531/
最終更新日: 2026.09.27