糀屋太郎兵衛商店とは ― 魚町に残る糀屋の4棟
糀屋太郎兵衛商店は、三重県松阪市魚町で江戸時代から糀(こうじ)の製造販売を続ける商家で、安政2年(1855年)の道具蔵と、明治26年(1893年)の大火の直後に建て直された店舗兼主屋・奥蔵及び米蔵・糀室の計4棟が、令和3年(2021年)2月4日に国の登録有形文化財に登録された。
屋号は「糀屋」。代々の当主は太郎兵衛、あるいは太良兵衛の名を継いできたと松阪市は紹介している。読みは「こうじやたろべえしょうてん」。登録番号は24-0282から24-0285までの連番で、前年の令和2年(2020年)7月17日に文化審議会が4件そろって登録を答申した。
4棟はいずれも同じ敷地にあり、店と住まい、原料の米、製造の道具、そして糀を寝かせる室(むろ)までが一か所にまとまっている。糀屋太郎兵衛商店の登録は、町家1棟ではなく、糀をつくって売る商いの仕組みそのものを建物として残した点に重みがある。
明治26年の大火と糀屋太郎兵衛商店の再建
松阪市の解説によれば、明治26年(1893年)3月29日、松阪の町は「松阪大火」と呼ばれる火事に見舞われ、糀屋太郎兵衛商店の店舗兼主屋・奥蔵及び米蔵・糀室もその被害を受けた。それでも同じ年の4月には建て直されたという記録や言い伝えが残る。記録どおりなら、火事から1か月ほどで店と蔵と室がそろって建て直されたことになる。
火を逃れたのが敷地の南東にある道具蔵である。安政2年(1855年)に建てられたことが墨書から分かっており、4棟のうちこの1棟だけが江戸時代の建物になる。道具蔵の前に張り出す蔵前は、大火のあと明治26年(1893年)頃に付け足された部分と三重県はまとめている。
店舗兼主屋は昭和45年(1970年)頃に改修を受けているが、黒い漆喰の表構えは明治中期の町家の姿を保っている。
糀屋太郎兵衛商店の敷地を表から奥へ
文化庁の解説文は、各棟の位置をほかの棟を基準に書いている。つなげると、糀屋太郎兵衛商店の4棟は次のように並ぶ。
- 店舗兼主屋(明治26年頃):通りに西面して建つ切妻造の2階建。一階に出格子、二階に出窓と虫籠窓が並ぶ
- 道具蔵(安政2年):敷地の南東に西面して建つ土蔵造2階建の家財蔵。大火を免れた
- 奥蔵及び米蔵(明治26年):道具蔵の北側に南面して建ち、1棟の中に原料米の米蔵と製造道具の奥蔵を収める
- 糀室(明治26年頃):奥蔵及び米蔵の西側に南面して建つ半地下の室で、糀製造の中心となる建物
通りに面して店があり、奥では道具蔵と奥蔵及び米蔵が向きを変えて建ち、その西隣に小さな糀室が並ぶ。三重県の資料によると、道具蔵の前には糀づくりに使う木の盆「糀蓋(こうじぶた)」を洗う場所があった。米を運び込み、道具を洗い、室で糀を育て、表の店で売る。作業の流れが建物の配置にそのまま表れている。
登録の基準は、店舗兼主屋・道具蔵・奥蔵及び米蔵の3棟が「国土の歴史的景観に寄与しているもの」、糀室だけが「再現することが容易でないもの」である。糀屋太郎兵衛商店の各棟の造りと見どころは、それぞれのページで紹介している。
魚町の町並みと糀屋太郎兵衛商店
糀屋太郎兵衛商店のある魚町は、松坂城跡の東に広がる旧城下町の一角にあたる。江戸で木綿商を営んだ豪商長谷川家の旧宅や、国学者本居宣長の旧宅跡も同じ魚町にあり、松阪市は糀屋太郎兵衛商店がこの通りの歴史的な景観を支える一つだとしている。
松阪市はまた、江戸時代から続く糀の製造販売を今も営む商家のあり方を具体的に示す点で、文化史・産業史のうえでも意義が高いと評価する。糀は味噌・醤油・酒・甘酒の仕込みに欠かせない。豪商の屋敷が並ぶ町に、日々の食を支える職人の店が並んでいたことを、糀屋太郎兵衛商店は伝えている。
糀屋太郎兵衛商店を訪ねるには
糀屋太郎兵衛商店はJR・近鉄松阪駅から西へ歩いて10分ほどの魚町にあり、直線距離ではおよそ500メートルになる。同じ魚町の旧長谷川治郎兵衛家も駅から徒歩約10分と案内されているので、あわせて歩く場合の目安になる。車で来る場合、松阪市観光協会は旧長谷川治郎兵衛家の案内で伊勢自動車道松阪インターチェンジから約10分とし、松阪市駐車場の利用を勧めている。
糀屋太郎兵衛商店は個人の所有で、いまも営業している糀屋である。建物の見学施設ではないため、見学の受付や拝観料はない。通りから外観を眺めるのは自由だが、奥の3棟は敷地の内側にあり、一般に公開するという案内は見当たらない(2026年9月確認)。営業時間や定休日を載せた公式の情報も確認できなかったので、店で糀を買うつもりなら、訪ねる前に店に確かめるのが確実である。
通りから写真を撮る場合は、店の出入りや通行の妨げにならないよう、道の端から撮りたい。店の中を撮るときは店の人に一声かけること。
参考文献
- 文化庁 国指定文化財等データベース「糀屋太郎兵衛商店店舗兼主屋」
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00013559
- 文化庁 国指定文化財等データベース「糀屋太郎兵衛商店道具蔵」
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00013560
- 文化庁 国指定文化財等データベース「糀屋太郎兵衛商店奥蔵及び米蔵」
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00013561
- 文化庁 国指定文化財等データベース「糀屋太郎兵衛商店糀室」
- https://kunishitei.bunka.go.jp/bsys/maindetails/101/00013562
- 松阪市「糀屋太郎兵衛商店店舗兼主屋、糀屋太郎兵衛商店道具蔵、糀屋太郎兵衛商店奥蔵及び米蔵、糀屋太郎兵衛商店糀室」
- https://www.city.matsusaka.mie.jp/site/culture-info/koujiya.html
- 三重県「国の登録有形文化財(建造物)の新登録の答申が行われました」
- https://www.pref.mie.lg.jp/TOPICS/m0046300168.htm
- 三重県「新登録答申文化財概要(三重県)」
- https://www.pref.mie.lg.jp/common/content/000899264.pdf
- 松阪市観光協会「旧長谷川治郎兵衛家」
- https://www.matsusaka-kanko.com/information/information/hasegawate/
最終更新日: 2026.09.28
基本情報
| 名称 | 糀屋太郎兵衛商店 |
|---|---|
| 所在地 | 三重県松阪市魚町1773 |
| 所有者 | 個人 |
| 指定 | 登録有形文化財 4件 |
| 座標 | 34.57524, 136.53115 |