森民酒造店奥座敷 明治のもてなしを支えた数寄屋の座敷棟

岩出山の森民酒造店で、店舗や住まいの奥、居宅から北へのびる廊下をたどった先に、奥座敷はある。敷地の表側が商いと家族の日々の暮らしのために建てられたのに対し、この平屋の一棟は客のために設けられた。十畳の二室が東西に並び、その周りを縁が廻る。座敷は庭に向かって開き、酒蔵のにぎやかな表からは少し身を引くように構えている。

奥座敷が建てられたのは明治後期、およそ1898年から1912年の間で、いま接続する大正期の居宅よりも古い。この時期、栄えた造り酒屋の家には、客をきちんと迎えるための正式な座敷が必要だった。この一棟に注がれた手間は、その社交上の務めを反映している。家が客に見せる顔であり、控えめに、しかし確かに人を感じ入らせるものとして造られた。

登録有形文化財としての位置づけ

奥座敷は平成27年(2015年)11月17日、森民酒造店の他の建物とともに登録有形文化財となった。登録番号は04-0114。登録の根拠は「国土の歴史的景観に寄与しているもの」という同じ基準にあるが、奥座敷はその内部意匠の質によって位置を得ている。生産に関わる役割ではなく、座敷としての造り込みが評価されているのである。

これは数寄屋の感覚で建てられた座敷である。茶の湯の影響を受けた、重厚な格式よりも控えめさと自然な素材を尊ぶ流儀だ。西室には床、その脇の違棚、そして縁側寄りに設えた平書院という、座敷飾の一式がそろう。これらが西室を上座とし、最も大切な客を迎える場としている。

見どころ

軒を見上げると、この座敷の見せ場に気づく。均一な垂木を並べるのではなく、細い丸太と角に削った化粧垂木とを軒の線に沿って交互に配している。丸と角、素朴と洗練が織りなすこのリズムは数寄屋意匠の特徴で、構造上の必然を、客が味わうべきものへと変えている。

座敷には、小さな、そして意外な残存もある。北西の隅から突き出す便所には、当初の染付便器が残されている。建物が建った当時から動いていない、絵付けを施した衛生陶器である。こうした設えは、良質な明治の家では誇りの一点であり、当初の場所に残る例は多くない。正式な接客の棟を、もてなしが実際にどう演出されたかを伝える生きた記録へと変える、そんな細部である。

奥座敷は操業中の酒蔵に属し、通常の見学路には含まれないため、内部は原則として公開されていない。それでも店舗と敷地内の昭和レトロ館は見学でき、隣接する旧有備館の庭園は、この座敷が共有する洗練された趣味への格好の導入となる。

Q&A

Q数寄屋の座敷とはどのようなものですか。
A数寄屋は茶の湯の影響を受けた洗練された建築の流儀で、自然な素材や細い部材、控えめな優美さを、堅苦しい格式より重んじます。この座敷では、軒の丸太と角材を交互に配した化粧垂木や、繊細な座敷飾の扱いにそれが表れています。
Q床・違棚・平書院とは何ですか。
Aいずれも正式な座敷飾を構成する要素です。床は掛物などを飾る一段設けた場、違棚は段違いの棚、平書院は縁側寄りに設けた低い付書院です。奥座敷の西室にはこの三つがそろい、上座であることを示しています。
Q奥座敷は居宅より古いのですか。
Aはい。奥座敷は明治後期(およそ1898〜1912年)に建てられ、接続する居宅は大正期(1912〜1926年)の建物です。二つの客向けの棟のうち、奥座敷のほうが早い時期のものです。
Q奥座敷を見学できますか。
A奥座敷は通常の見学路に含まれず、内部は原則非公開です。酒蔵は大崎市岩出山にあり、JR陸羽東線の有備館駅に近く、店舗と昭和レトロ館は土曜・日曜に見学できます(冬期休館)。

基本情報

名称森民酒造店奥座敷(もりたみしゅぞうてんおくざしき)
所在地宮城県大崎市岩出山字上川原町15
指定区分登録有形文化財(建造物) 2015年(平成27年)11月17日登録 登録番号04-0114
員数・構造1棟 木造平屋建、瓦葺 建築面積約63平方メートル 十畳二室に縁を廻らす
時代明治後期(1898〜1912年建築、昭和40年頃および平成22年に改修)
所有森民酒造店(森家)
公開状況通常の見学路に含まれず内部非公開。店舗・昭和レトロ館は土日開館(冬期休館)

参考文献

国指定文化財等データベース(文化庁) 森民酒造店奥座敷
https://kunishitei.bunka.go.jp/heritage/detail/101/00010718
森民酒造店 ウィキペディア
https://ja.wikipedia.org/wiki/森民酒造店
宮城県酒造組合「宮城の酒」 森民酒造店
https://miyagisake.jp/kuramoto/moritami/
大崎市 大崎市の文化財
https://www.city.osaki.miyagi.jp/shisei/soshikikarasagasu/kyoikuiinkaijimukyoku/bunkazaika/4/2890.html

最終更新日: 2026.07.11